異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

禁忌の魔道具、そして後顧の憂い

 
 アーツェが部屋に入って来ると、その手には縦一尺と五寸、横が四尺ほどある長方形の木箱が慎重に持たれている。
 しかしその箱にはびっしりと蔦縄が捲(ま)かれており、その蔦縄の上に「開封厳禁」と書かれた紙が貼られている。
 こうするように言ったのはワシだ。
 この箱の中には先ほど話していた魔道具を入れてある。
 あの魔道具は直接触れなければ、魔力を吸われることはない。
 アーツェは終始不安そうな顔だったが、箱を置いたら直ぐさま部屋を去った。

「さて、この中に魔道具があるのだが....」

 正直開けるのは躊躇われる。
 蔦縄や箱を開けるのは問題ないのだが、箱を開ける際に過って触れてしまえばワシの魔力は一瞬にして吸い尽くされ、下手をすればあの奇妙な現象も起こる。
 そう考えると箱に手を伸ばすことさえ拒まれる。
 しかしそんなことを言っていても先へ進むこともないので、覚悟を決める。
 蔦縄ももうくたびれてきているので、新しいのに変えた方が良いな。
 そんなことを思いながら、床の木目をズラす。
 ワシらがいるこの部屋は皆の家と床は同じ素材だが、至る所が押せばズレる仕組みになっている。
 理由はワシの能力を必要時に利用し易いがためだ。
 今の様に木目をズラすとその下はただの地面が広がっている。
 その上に手をかざし、能力を使う。
 前回椅子を作った様に、今回は小さな小刀(ナイフ)を作る。ちょうど掌に収まるくらいのを。
 刃の鋭さなども、ある程度は自在に操れる。
 これは石や鉄などにも使用出来るが、何分土を弄(いじ)る方が得意なため土を使う。
 そしてその土の小刀(ナイフ)で厳重に捲かれている蔦縄を切り、箱を開ける。

「これは、剣....?」

 青年が箱の中身に疑問を抱く。
 しかしその反応も無理もない。確証を持てず、その形から判断するしかないのだから。
 確かにこれは剣の魔道具だろう。
 柄はもちろんあり、その先には丸透かしの金色の鍔が輝いている。封じてからかなり年月は経過しているはずだが、その輝きは衰えていない。
 しかし問題はその先。本来は刃があるはずなのだが、この魔道具にはガサついた黒一色の物が広がっていた。
 それは剣の刃すら覆うほど広がっている。
 臭いからして錆であろう。この臭いは何度嗅いでも慣れないな。
 その剣の横には恐らくこの剣を納めるためであろう鞘も置かれている。
 曖昧なのは、錆でやや刃の周りの大きさが広がり、合わせることが出来ずにいたがこの魔道具を見つけた近くにあったため、この剣の鞘だと判断したのだ。
 その鞘は薄紫色をしている。
 錆であればワシの能力で取り除けられるはずなのだが、この魔道具に能力を発動させようにもワシの能力に使っている魔力を吸われるだけで変化が現れないため断念した。

「ほれ、触れてみよ」
「いや、その前にユキナが心配だ。万が一俺がこれで気を失っている間、その間にあんたらユキナに手を出さないとは限らない。一体安全な場所に彼女を移す」

 ワシが促すと、待ったをかけ、そう言い訳する。そんな彼の姿は、やはりこの魔道具に怖気づいている様だ。

「御安心下さいませ。私が責任を持って、ユキナ様を御護り致します故」
「あんたはどちらかといえば、あっち側だろ。信用出来ない」

 青年はドライアドを睨む。
 何やら敵意のようなものを感じるのは、ワシの気のせいではないだろう。
 しかしドライアドはそんなことは意に介することなく、ゆっくりと首を横に振った。

「いいえ、私(わたくし)はドライアド。森を害する者を裁き、精霊様の忠実な下僕で御座います。そして貴方様は精霊様が御認めになられた御方です。そんな御方の御連れ様を御護りするのは、我々の使命で御座います。どうか御安心下さいませ」

 ドライアドは優しい物言いでそう述べる。
 そうドライアドとはそういう存在だ。ワシらは、あくまで精霊様の加護を受けているためドライアドとも関わりがあるのだ。
 逆に言えばそれだけだ。
 故に彼女のその行動にワシらが何か言うことは出来ない。

「分かった。ユキナのことはあんたに頼むことにする。でも───」

 青年は一瞬だけ間を置いてから、続ける。

「もし、ユキナに何かあったら、俺は全力でこの森と精霊様を潰す。それを肝に銘じておけ」

 そして彼は、声を低くしてそう脅す。
 恐らくハッタリではない。彼なら本当に可能なのだろう。
 この森の中では、ワシらがドライアドを抑えてあの忌み子を殺すことは不可能に等しい。
 少々考えてはいたことだが、やはり実行しなくて正解な様だな。
 そんな彼の脅しの姿勢に笑顔を向けるあたり、彼女もそれはないと確信しているのだろう。やはり、正解か。
 そして青年は心配ごとがなくなったためか、次は迷う素振りなど一切なく柄へと手を伸ばす。
 ドサッ────
 そして柄に触れた途端に、青年は膝から崩れた。
 やはり、彼では暴走は止められそうにないな。
 そんなことを思いながら、魔力を吸い尽くされ気を失い、倒れたままの青年に憐れみの視線を送る。



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