異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
決裂、そしてドライアド
「ああ。と言っても、裁判所にあるような嘘発見器はないが、それに近しい物なら用意出来る」
そう言うと青年の表情は今までにないほど崩れている。
ここまで表情に出ると、逆に疑えしく思える。
しかし彼からしたら、その魔道具がよほど必要なのだろう。何に必要なのかは分からんが、それだけ取り乱すのなら利用価値は十分とみた。
「ただし、貸し出すには条件がある」
「......条件って?」
ワシの提案を聞くと青年は眉根を寄せて、訝し気な表情を浮かべた。
交渉では如何に相手より優位を取るかが大切である。
「その魔道具を渡す代わりに、忌み子をこちらに引き渡して貰おう。それが条件だ」
そう述べると青年は崩した表情を戻して、嘲笑の笑みを浮かべた。
まるで、分かっていたと言わんばかりの顔である。
「そうか。なら、別にいい」
そう言って青年は立ち上がった。
そしてそのまま部屋の入り口の方へと歩いて行く。何やら、見憶えのある光景。
そんなことを思っているとワシの憶えとは違い、青年は扉を開け部屋から出ようとした。
「お待ち下さい」
ブオッと風が吹いたかと思えば扉の先にドライアドが現れた。
彼女は森の樹々を伝って森中を自由自在に動き、現れることが出来る。
それ故今の様に一瞬にしてここに登場をしたのだろう。
しかしドライアドが何の用だ?
確かに精霊様の意に反する結果になろうとしているが、それでも森に害を与える存在の前以外に現れるのは珍しい。
恐らく精霊様が命を下したとも思えん。
「.....ドライアド?」
青年は首を傾げてドライアドの方を向いている。
表情は少々見えないが、声からしても何かに疑問を抱いている様子。
「何用で御座いましょうか?」
「長殿。貴方様は精霊様の御意志に反するおつもりですか?」
ドライアドは優し気な笑みを浮かべてはいるが、その目は笑ってなどいない。
さて、ドライアドの用件はそれか。ワシとて後ろ髪を引かれる思いではあるが、どちらにしてもこの青年が考えを変えない限り忌み子は存命する。
そうなればこの国に再び地獄が訪れる。
しかしこのままでは青年はこの里から去るだろう。当然忌み子を連れて。
この森の中ならばまだなんとかなるが、人間たちの住む街などに行かれれば探すのは一苦労。
ましてや隠されたり、異国に行かれてしまえば手に負えない。昔と同じで異国の人間たちは自分たちと容姿の違う我々エルフを嫌う。
それは獣人が多く暮らす国でも同じだろう。
この国ではまだ平和に暮らせている方だ。国王が獣人やエルフなどを歓迎しているからだ。
しかし他の国の中ではエルフを奴隷としている国やそもそも入国すら禁止している国もある。
故に、そんな国に逃げられれば追えなくなる。
まあ、異国へ行ってくれるのであれば少なくともこの国は救われるが、仮に忌み子を隠した他国に他のエルフがひっそりと暮らしていた場合巻き込まれる。
他国の者とはいえ、夢見は悪い。
なのでこの青年が森を出る前に忌み子を始末したい。
「確かにそうですな。しかしこの者が考え直す気がないのであれば、ワシから言うことはもう何もありません」
ワシがもう諦めてますという風に述べるも青年の表情が見えないため、通じているか怪しいものだ。
「それはなりません。精霊様は互いに素直な意思を確かめ合い、そして貴方様が考えを改めるように申されました」
「うむ。しかし話たが残念ながらそれは叶いはしなかった。この青年は、忌み子の危険性を全く理解していないのだ。それでは改めようにも....」
「.....成る程。つまりはアズマ様が忌み子、ユキナ様を危険性のない御方だと証明すれば長殿も納得して頂けますでしょうか?」
「........どういう意味でしょうか?忌み子が危険ではない、とは?」
「ユキナ様に危険性がないというのをアズマ様が証明する、というのは長殿が想像している通りにユキナ様が暴走なされた際に、アズマ様が責任を持ってユキナ様を止めるという事で御座います」
「───はぁ......ですから、その青年が忌み子の暴走を完全に止められるとどう証明するのですか?ましてや出来なければその被害は絶大。まさに天災そのものなのですぞ?我々とて安心して生活出来るように、不安の芽は早めに摘んでおきたいのです」
「私(わたくし)もその事は理解しております。ですので、アズマ様の御力が問題ない事を証明する提案が御座います」
「その策で本当に天災を止められると?」
「恐らくは」
信用出来ないことを平然と語り続けるドライアドを睨める。
しかし彼女は涼しい顔でそれを無視し、ワシを見つめる。その顔には確固たる自信を持っている様子がありありと浮かび上がっている。
ちなみに当事者である東は置いてけぼりを喰らっていた。この二人だけで勝手に話が進んでいる。
初めは自分抜きで自分の話をし出したため突っかかろうしたが、話を聞いていけばこの問題を解決出来そうな話に展開していったため黙りを決め込んだのだ。
彼とてユキナのことを穏便に済ませて、出来れば嘘を看破してくれる魔道具も貸してもらいたいと考えているからだ。
「して、その提案とは?」
「長殿が所有している、禁忌の魔道具を彼に触れさせてみては如何でしょうか?」
ドライアドから出た提案に、ワシは生涯一番の驚きを抱いた。
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