異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

気配、そしてかの一撃

 
 周りの者たちは愕然としているワシと、先ほどから一人でしゃべっている青年を交互に見ながらどうして良いのか分からないという感じである。
 それはアーツェたちも同じなようで、ワシの反応を窺っている。
 しかしワシとてどうしたら良いのか分からない。
 こんな事態は九百年以上生きてきて初めてだ。
 精霊様の言葉だけでなく、その御姿を見ることが出来たという者はワシの先代、先々代の長たちの代ですらそんな者が現れたとは言い残されていない。
 ましてやエルフでなくただの人間が、だ。
 つまり今回は稀な事例なのだ。
 そしてそんな稀な事例を引き起こした当人を処刑しなくてはならないというのは、余りにももったいない。
 例え忌み子の付き人だったとしてもだ。
 しかしかと言って忌み子を処刑しない訳にもいかない。
 あの者は存在していてはダメなのだから。
 だがそれを彼が受け入れるとも思えない。
 さて、暗殺も毒殺も、そして理由すら真っ当な物が潰えたため、もう彼を処刑する方法が思い当たらない。
 精霊様も自分の姿を見ることの出来る者は初めてだろうから、多分青年の処刑にも頷いて頂けるかどうか。
 仮に精霊様が命じるなら、無理と分かっていても執行する。
 しかし聞いている限り、そんなことにはならないだろう。
 話の内容を要約すると、あの青年からは天使様の気配を感じる。そして青年も会ったことがあるとのこと。
 さて、もう訳が分からん。いや始めの方から徐々に可笑しくなり始めてはおったが、ここまで来ると最早何も言えない。
 天使様なんぞ初めて聞く。
 確か人間たちの教会という場所で教えられている中に天使という言葉はなかったはず。
 ワシらの認識では、神の次に精霊様だと思っておったが、精霊様からその天使様とやらに敬いの念を感じるため精霊様よりも高位の存在なのだろう。
 つまりは神、天使様、精霊様、という順なのだろう。
 そしてそんな高位な存在である天使様の気配が感じられ、あまつさえ会ったことがあると。
 うむ、もう彼について深く追求するのは止めよう。

『ソナタは面白い。人の身で有りながら、ワタシや天使様の姿を見る事の出来るのだからね』
「トー....天使様は訳ありで姿を見せてくれただけだから、実際にはアンタの姿しか視えてないけどな」

 まあ、ギリギリだけどと青年は呟くように言う。
 先ほどから言っているギリギリとはどういうことなのだ?
 精霊様の御姿を見ることがギリギリ.....ギリギリで視えるとは一体どういうことだ...?
 一体彼には、どう視えているんだ?
 そんな疑問を抱きながらも二人の会話に耳を傾ける。

「それで話ってのは?」
『ソナタにはあの女から森と、森に住むあの者達を護って貰ったからその礼も言いたくてね。感謝している』
「なんだ、そんな大したことしてないから別にいいのに」

 青年は謙遜した態度で精霊様の言葉を受け取った。
 大したこと.....両の腕を切り落とされたというのに、まるでどうということがない様子だ。

「ならこっちからも一つ訊きたい」
『何?』
「俺の右腕が斬られた時....あの女のもう一つの攻撃が彼らの方へ向かった時のことだ。あの時の風、あれはアンタのか?」
『そうであり、そうではない。ワタシが彼女に力を借りて、ソナタを飛ばした』

 そう言われて青年は背後へ目を向ける。
 その視線の先にいるのは、未だ頭を垂れたままのドライアドがいた。

「.....なるほど、でも何で俺を?彼女の力を借りれば、自分でなんとか出来たんじゃないのか?」

 そう言いドライアドを指差し、精霊様に問う。

『ワタシや彼女でもかの者の能力を防ぐ事は出来なかっただろう。かの一撃は計り知れない。下手をすれば精霊であるワタシですら、斬られていた....』
「 ︎」

 精霊様を斬ることの出来る能力 ︎
 そんなことあり得ないだろ!先にも述べたが、精霊様の声は疎(おろ)かその御姿を見ることの出来る者は、もう他にいないはずだ。
 そう思った矢先に、次は精霊様を斬る能力?
 .....はぁ、もう考えるのを止めよう。今日一日でここまで驚かされるとは思ってもみなかった。

「.....なら、期待に応えられなかったのは悪かったな。あれは俺もどうしようもなかった。だから彼らを飛ばしたんだけど、大丈夫だったのか?」
『問題ない。能力の残留で聖樹は少し斬られたが、その程度であれば直ぐに癒える』

 うぐ、まさか敵の攻撃で聖樹が斬られていたのか。
 そして会話から察するに、あの時青年がワシらを吹き飛ばした理由は理解出来た。
 しかし聖樹を傷つけられるくらいならば、ワシらは甘んじてあの女の攻撃を受けた。が、それを許さず精霊様はあの青年を向かわせた。
 ワシらが不甲斐ないばかりに。
 せめてあの女の攻撃が見えさえ・・・・すれば....

『それに、かの一撃はワタシの操る風ではビクともしない。防ぐ方法は何かで守り、その力を落とすだけだっただろう』
「なるほど、そうすれば止められたかもしれないのか」

 青年は精霊様の言葉に納得し、考える素振りを示す。
 ふむ、何かで守り威力を落とす、か。それならばワシでも可能じゃな。
 用は土や石で壁を作り、それで威力を殺せば問題はなくなる。
 しかしいつ来るかも分からない攻撃のために壁を作っては、守りはともかくこちらから攻撃を仕掛け難くなってしまうか。
 そうなると他に方法は....
 そう次の襲撃に備え、発想を巡らせる。



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