異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

アーツェ、そして視える

 
 ワシが驚愕と困惑の表情で青年を眺めているのを知ってか知らずか、青年はワシらを通り過ぎ、ドライアドを横目に一番前に出た。
 エンリュたちもあまりの出来ごとに唖然とし、動けないでいた。
 否、動けた者が一人いた。

「......」
「.......」

 互いに無言で見つめ合う、二人の男。
 片方は羽織ったローブから手を離しておらず、片方はすでに弓を構えている。
 二人の間合いは二メートルほどなので、すでに矢を引いているアーツェの方が圧倒的に優位だと思える。
 しかし皆、あの青年を前にはその距離では太刀打ち出来ないと感じた。
 そしてしばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはアーツェだった。

「貴様、何故ここに居る?」
「別にあそこで待ってろなんて言われなかったからな」
「だからと言って我々を尾行するという事に何の意味がある?」
「何も言わずに去られたんだ。どこ行ったかくらい、知っても良いはずだ。それに呼んだのは俺の方が先なんでね」
「ふっ、貴様と精霊様からの呼び出しで、優先されるのは比べるまでもあるまい。それと貴様、先ほど一人で語っていたが、まさか他に仲間を呼んでいるのではあるまいな?」

 アーツェはまるで捲し立てるように、しかし淡々と述べる。
 ......アーツェよ。やはりお前にはまだ、ダメなのだな。
 彼のその姿勢は素晴らしいと思う。だが今の、最後の言葉で、残念でしか思えなくなってしまった。
 彼の日々の懸命な仕事振りや民との信頼などを知っている。それらは全て、民のため、そして長になるための努力。
 ワシも経験している故にその辛さを理解出来る。
 だからこそ、未だ精霊様に認められていないのがとても嘆き悲しいのだ。

「...?一人で?.......っ!ああ、なるほど」

 青年は訝しげな表情で首を傾げてアーツェを見た後、得心のいった表情を浮かべた。
 察しの良い男だ。アーツェはあり得ないと思っているから、気がつくのが遅れている。
 だがそれは仕方のないこととも言える。ワシとて目の当たりにしても信じ難いのだから。

『.....もう良いかしら。ワタシはその男に話がある』
「 ︎それはま、まさか侵入者の男に、ということでございますかっ⁈」
『ええ』

 痺れを切らした精霊様から思ってもいなかったことを告げられた。
 なぜ精霊様が侵入者に.....いや、そうか!森を乱した青年とここにいないあの女を自ら裁きを与えようとしているのか!
 ましてやこの場にはドライアドも居る訳だ。
 不甲斐ないが確かにそれなら勝つことの出来ない我々よりも厳粛に対処出来る。
 そうと決まれば───

「アーツェよ、弓を下ろせ。その者に話があるそうだ」

 アーツェは視線だけをこちらにやってから、再び視線を青年に戻した。
 そして少々得心のいっていない表情を浮かべながらも、彼は言う通りに弓を下げた。

「助かった。ありがとう」

 青年は視線をアーツェから聖樹へと向け直す。

『...ソナタ。やはりワタシの事、視えているのね』
「ああ、ギリギリだけどな」
『.....色々驚きだけど、ソナタなら納得もいく』
「?」

 彼らはそんな会話をしている。
 視える...何が視える.....!ままま、まさ、か...先ほどから聖樹の下腹部辺りを見ていた理由って....
 そうなのだろうが、そうだとするなら彼は一体何者なのだっ ︎
 あり得ない。精霊様の姿を見ることの出来る者が、外の世界にいるなんて ︎
 今回一番の驚きに、もう思考が止まりそうである。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品