異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

話し合い、そして怒り

 
 場が用意されワシが呼べと言った者たちがすでに揃っていた。
 あの青年を除いて。
 ワシが席に着けば待機していた侍女が茶を用意する。
 それに手をつけた頃合いで見張りが青年を連れて訪れて来た。
 部屋に入って来た青年はとても清々しい笑みを浮かべている。だが、そんな彼が登場してからワシには言い知れぬ不安を感じる。
 今彼が背後に回されている手には木製の手枷がかけられているはずだが、なぜか安心出来ない。
 そのことを考え、疑問を抱きながらも話し合いが始まる。

「それで、話とはなんだ?」

 緊張で静まり返っていたが、ワシはそれを無視してとっとと本題に入らせる。

「まずはユキナのため食糧庫の食材を使わせてくれて、感謝している。ありがとう」

 青年はそう言って頭を垂れた。
 本題に入る前の簡単な話題といった所か。
 それにしても意外と律儀なものだ。先ほども手当てのことに礼を述べてきた。
 里に入って来た時は不躾に自分の用件を述べ、さらには警備隊らを力尽くで抜けて中へと侵入して来たのだ。
 それなのにきっちりと礼を述べられると違和感を感じる。
 ....いや、本題に入る前だからこそ、こういう態度なのかもしれんな。
 油断は禁物じゃ。

「構わん」
「いやぁー、ユキナはほぼ毎日ローレアさんと一緒に食事を用意してくれてるから、どの料理も美味しくてなー」

 どうでも良い惚気が始まった。
 先ほどのが本題に入る前の簡単な話題かと思っていたが、まさか次は惚気になるとは.....
 まさかとは思うが、料理の旨さについて語りたくてワシを呼んだんじゃあるまいな?
 .....さすがにそれはないか。今もどう旨かっただの、家での忌み子の頑張りがどうなのと長々語っているが、さすがに違うだろう。

「でさー、その煮汁(スープ)も美味そうだったんだよ。だけどさ───誰かが毒を入れたっぽくってさ」
「「「「「っ ︎ ︎」」」」」

 その瞬間、青年の気配ががらりと変わった。
 あの女と戦っていた時に感じられたあの緊張感、あの圧迫感、あの怖さ、あの恐ろしさ、あの悍(おぞ)ましさ、あの、あのあの.....!
 殺される!
 一同がそう思った。

「.........」
「心当たり、あるよな?」

 青年は先ほどまでの穏やかな笑みも、軽い感じの声も止め、低く、ドスの効いた声で、睨み殺すような、そんな射抜くような眼光で睨んできた。
 .....ここに呼んでおいたのが副以上の者たちで良かったと思った。
 でなければ、善くて失神か失禁、悪くて発狂といった所だろう。
 かく言うワシも少々身体が震えているし、今すぐこの場から逃げ出したいと心が、本能が叫んでいる。
 ワシの背に得体の知れぬ何かが這っているように感じる。
 しかしここで引く訳にはいかん。
 ここは毅然とした態度でいなければ、他の者も不安であろう。
 アーツェたちには、青年が動き出しそうと判断した時にのみ動けと言ってある。
 動こうとしないので、多分まだだと判断したのだろう。
 ならば、ワシがここでうろたえるのはその判断を信用していないということになる。
 民を信じるのも、長という者の務めである。

「ふむ、そう殺気立つでない。他の者が怯えておる。話をしたいのなら、まずはその心を落ち着けろ」

 ワシが震えぬように努めながらそう言ってやれば、ますます彼の眼光が鋭くなった。
 というか、やはり此奴(こやつ)、毒の有無が分かるのか。

「.....まさか、俺に手枷が着いているからって余裕ブッこいてるんじゃないよな?」
「ふっ、貴様がその程度の枷で止まるなんぞ思おておらんわ」
「......っ」

 ベギッ!と音が鳴ったかと思えば、青年は腕を前へと持ってきた。
 その手には木製の手枷がそれぞれ・・・・着いていた。
 手枷は真ん中くらいから割れており、もはや枷の意味すらない物になっていた。
 効かぬと分かっていても、目の前で割られるとは。それもこの状況で。
 しかもだ。彼の左手がしれっと元通りに治っているではないか。
 手について驚いていると、青年は残った枷を引き千切るようにして外した。
 そしてようやく彼はその殺気を抑えて、こちらを見据える。

「.....」

 無言の続く中、青年の目が、圧が「話せ」と申しているのがありありと伝わってくる。

「.....はぁー、心当たりはある。なんせワシが指示を出したのだからな」

 これを言えば再び殺気立つかと思ったが、今回は何も起こらず、青年はただこちらを睨んでいるだけだった。

「理由はあの忌み子を処刑する際に、貴様が邪魔だったからだ。ワシらが忌み子を処刑しようとすれば、貴様は全力で阻止してきただろう。で、あれば、ワシらに対処することは不可能であり、忌み子を処刑することは叶わん。故に毒を盛ったのだ」

 そう真実を話しながらも、この室内にいる者たちと外で待機している者たちに指示を出す。
 エルフは人間よりも耳が良いため、万が一のために少々特殊な音を使って暗号を送り相手に気がつかれぬように指示を出すことが出来る。
 指示は「ワシの次の合図で、一斉に青年を狙え」である。
 特殊な音とはワシの能力で、地を使っての発信である。故に多少の時差があるが、問題ない。
 ワシの話が続くに連れ、青年の怒りが増していることは察せられている。
 それを爆発させる前に見極めて、伝えなくてはならない。
 しかし指示内容が完全に伝え終えた、と同時くらいだった。
 静まり返っていた部屋に、こちらへ駆けて来る足音が聴こえる。
 そしてその足音が部屋前まで鳴り、勢い良く戸が開かれた。

「申し上げますっ!たった今、調理場にてド、ドドドド、ドライ.....ドライアド様がいらっしゃいましたっ!!」
「「「「「っ ︎ ︎」」」」」

 そう息荒く報告された内容に、青年以外の全員が驚愕した。
 ドライアドがわざわざ訪問する時は、遣いの場合が多い。
 そのドライアドを動かすのはお方はただ一柱(ひとり)、精霊様のみだ。


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