異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
思わぬ願い、そして暗殺不可
ドライアドはこの森の守護者にして、精霊様の使徒。そのため我々はドライアドの加護下にいる。
魔獣だが、知能は高く戦闘能力も高い。
しかしドライアドは個体数が少ないため滅多に会うことはない。
そのため人間たちはドライアドについてあまり詳しくないそうだ。
だがそれはエルフの者とて同じこと。
ワシとてたった一度、そのお姿を拝見しただけなのだから。その時に会ったドライアドは女だった。
彼女はワシを見かけても特に何もして来ることはなかった。もともと彼女らは積極的に攻撃して来ることはないようで、すぐに去られた。
見た目は人間やエルフと変わらず、緑のロングヘアで白色のドレス服にツタの模様が這っており、綺麗な翠眼だった。
もし今は亡き妻とその時婚姻を結んでなければ、ワシは彼女にぞっこんだっただろうと今でも思うほど綺麗だった。
そんなドライアドがもし先ほど居られたのだとすれば、それは何のためか?
この里や森を守るために現れたのは分かるが、あの時吹いた風は明らかにあの青年を狙っていた。
そうなるとドライアドがあの青年なら先の戦闘で何があったのかを理解しており、また対象出来ると踏んだのだろう。
正直言って先ほどの戦闘で何が起こっていたのかワシではほとんど理解出来ていない。
護衛団長であるアーツェや里の警備隊の隊長であるエンリュ、その他彼らと同じレベルの実力者たちなら辛うじて見えたかも知れんが....
ワシが捉えられたのは、金属音が鳴り響いていたかと思えば、青年の左手が切られ、彼の剣がヘンテコな物になり風を起こしてみせたかと思えば次に右腕が飛んだ。
そして彼の右腕が飛んだと思いきや、突風が起こり彼がこちらに飛んで来て今度は彼がワシらを吹っ飛ばした。
最初はその行為に憤慨したが、さっきまで立っていた所の後ろに目をやれば数メートル先まで木々が切断されておった。
何をどうすればそうなるのかは分からんが切れ味は相当のものだったようで、見事の一言。
それと同時に恐怖したがな。
恐らくは固有能力だろう。その攻撃に一早く気がついたのは、あの青年だ。
そしてドライアドも気がつき、彼を助けた。
ワシの能力でも対処出来たか怪しいし、ここは素直に認めるとしよう。
そうそう話し声は辛うじて聞き取れたが、気になったのは何やら好いたと言っていたことかのう。
あんな状況でよくそんな会話が出来るものだ。
....ふむ、怪しい来訪者と報告を受けた訳だが、そうなるとこの状況から考えるならあの二人は信用出来る。
しかしこの程度で決めつける訳にもいかんな。
いくらドライアドが手を貸したとはいえ、それは先ほども述べたように女が放っていた攻撃を対処出来ると判断されただけであって信用に値するかは判断されていない。
アーツェに手当てをするように言ったのは、あくまであの女から森を守ってもらったからに過ぎん。
ああ、あとついでにワシもか。
とりあえずあの二人は牢に入れるとして、彼らの、特にあの忌み子について話し合わんとな。
まあ、十中八九射殺になるかのう。
そう考えていると手当を部下に任せたアーツェが、その隣に忌み子を連れて戻ってきた。
そして他の護衛に手前近くで止められた。
「長様、この女が長様に話があるそうです」
「ほお....」
ワシに駆け寄り耳打ちでそう報せる。
この状況でこの女が何の話を持ちかけるか。
考えられるのは、まずあの青年について。その後に助けたことを棚に上げて無理難題の要求か?それとも最初にこの二人が求めていた忌み子の親について訊いてくるか?
ふん、そんなものどちらでも良い!所詮はあの青年が勝手にやったこと。
こちらが従う云われはない!
「アズ、マを治りょ、うしてくれ、てあ、りがとう」
そう護衛たちを挟んで頭を下げて礼を述べる。
これは予定通り。
「敵逃、げられ、てもう、追えな、い」
「うむ、まあ深追いするのは危険じゃ。あれだけ並外れた戦闘能力は追えば返って被害を被る。今は壊された里に人手を回したいしのう」
「ん......あ、のお願い、があ、る」
「.....ほう、言うてみよ」
さあ、その醜い本性を表せ!
「.....どこ、でも良いの、で、アズマを、休ま、せてあげ、て下、さい!そ、の代わ、りに、私に出、来るこ、とは、なんで、もします!おね、がいしま、す!」
そう深々と頭を下げて女は懇願する。
その態度に思わず面喰らい、自分でも目を見開いたのを感じた。
なん...だと....っ ︎
予想だにしていなかったことを告げられたため、どう返答するべきなのか悩む。
そのため間がどんどんと広がり、周りの者たちもどうして良いのか分からず困惑した表情でこちらを見てくる。
ワシだって困っておるんじゃから、そんな目で見るなっ!
この状況の原因である女は、まだ頭を下げたままで動かない。
くっ、この忌み子が!ワシの不甲斐なさを露呈して長の座から失脚でもさせる気か?
.....いや、落ち着け。この忌み子がそんなことをする意味なんぞない、はず。
ならば純粋な願いか?いやしかし何かあるはずだ。
「長様。今、この忌み子はなんでもすると申し上げました。ならば即刻処刑致しましょう。あの青年は牢に入れて、食事に毒を盛りましょう」
「ふむ、なぜ食事時に殺すのだ?気を失っている今でも問題なかろう?」
「いえ、それが....どうも奴の能力で身体を風のような膜で覆っているようで、刃が通らないとのことです」
「風の膜?」
その言葉に何かが引っかかる。
その能力を持った者が昔いたような、身近に似た力を持つ者がいたような.....
「何も食事時でなくとも、口に直接毒を入れれば良かろう?」
「既に試させてはいるのですが、なぜか反応が観られないそうです....」
「何?」
毒が効かない ︎そんなことがあるのか?
先ほどの風の膜もそうだが、気を失っているのに固有能力が使えるのか?
眠っているならいざ知らず、気絶していても使えるのか?
「それで、如何致しましょう?」
「あ...ああ。青年の方は他の方法を探すとして、忌み子の方ももう少し待て」
「は?....それはなぜですか?忌み子など、即刻処刑するべきです!昔、異形の者が何を仕出かしたのかは、長様が一番お知りでしょうっ!」
そう最早抑える気もなく声高々にアーツェは叫んだ。
ワシとてそれは忘れもせん。出来ることならアーツェと同じく、即刻処刑したい気分だ。
しかしこの忌み子を処刑すれば何かが起こる。そんな悪寒がビンビンする。
ましてや刃も毒も利かぬ相手だ。慎重にいかねば。
だが、そんな抽象的な意見ではアーツェたちは納得しない。何か、言い包める理由が必要だ....!
「おっほん!.....もちろん分かっておる。しかし万が一にだ、あの青年が目覚めた時にあの女がいなければ、探って来るはずだ。そこで処刑したことを知られれば、激昂し、この里をさらに破壊されるやもしれん。念のためあの青年の始末が先じゃ」
「なるほど。流石長様」
納得したようで、アーツェは下がった。
思いつきだが、かなり良い言い訳だと思う。流石ワシ。
っと、自分を褒めている場合ではないな。さて、どうしたものか.....
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