異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

本気で、そしてゲートリング

 
 どこへ行ったか探すために目に魔力を集中させようとしたタイミングで、後ろから声がかかる。

「上だっ!」

 その声は先ほど里の入り口にいた、えっと.....いたのは憶えているから。ちょっと顔が思い出せないだけで。
 そんなことを思いながら上を向くと消えたと思っていた彼が、剣を構えて落ちて来ている。
 あれは全体重を乗せた一撃だろう。
 もうガード出来るかも怪しい。まだ片腕あれば可能性はあったが、警戒を薄めてしまった自分が悪いのだから仕方ない。
 そう考えながらその場から後退する。
 彼も回避されることは想定済みだったようで、すぐさま追ってくる。
 攻撃手段がもう残されていないため、こちらは避けるばかりである。
 さすがに足を失う訳にはいかない。
 しかし避けに専念しても彼の鋭い攻撃を完全に避け切ることは出来ていない。すでに四撃はすり傷を受けている。
 このままではジリ貧である。
 仕方がないのでもう諦めよう。彼を傷つけずに捕縛するのは、無理そうだ。
 腕の出血も早い所止めなければ命に関わる。
 だから今から、本気で彼を倒すことにする。
 両手なしというかなりのハンデを背負うことになるが、多分大丈夫だろう。
 そう楽観的に考え、足に力を入れ地面を勢いよく蹴る。
 その際地面に足の形で高さ五センチほどの穴が空いた。

「なっ、ぐふぉっ ︎」

 さほど離れていなかった距離を一躍で彼の懐に入り込み、氷漬けの腕で彼の鳩(みぞ)に深く、重く入れる。
 腰を使ってのその一撃は、彼を易々と遠くまで吹っ飛ばした。
 木に当たってもその勢いに木の方が負け、一緒に吹っ飛んで行った。

「うっ....」

 しかしこれだけの突きをこんな状態の腕でやれば、こちらとて無事では済まない。
 殴ったと同時に左腕がさらにズキンズキンと痛む。
 だが、なんとか我慢出来るレベルだ。後三、四発くらいは打てる。
 それにしてもさっきの一撃といい、踏み込みの際の地面への衝撃といい、以前アルタイルの大会でアシュに本気を出した時よりも威力が上がっている気が....
 しかもさっきから魔力の回復が異様に早い。
 水儒核と『ウォーミル』で使った魔力がもう回復し切っている。
 どうなっているんだ?

「!」

 そう疑問に思っていると彼が飛んで行った方角から殺気がこちらに向かって来るのを感じた。
 そっちがその気ならこちらも同じ気持ちだ。本当に殺しはしないが、殺す気でいかせてもらう。
 そう意気込んで迫り来る殺気に東も迫る。
 しかし彼はこの時気づくべきだったのだ。
 何故威力が上がっているのか、何故魔力の回復が異様に早いのかを。そして今し方無意識に解き放ってしまった自身の殺気のことを。
 そして思い出すべきなのだ。今の東はゲートリングを所持していないということを。
 それは何もゲートだけが使えないのではない。彼の指輪には神様によって付与された「レベルダウン」の呪いが宿っているのだ。
 しかしそれが発動していられるのは、彼がそれを着けている時だけである。
 故に今、東のレベルは元に戻りつつあるのだ。それに続いて、リングの呪いにより抑えられ続けていた彼のステータスの全ても戻りつつあるのだ。
 それは固有能力にまで影響を及ばしていた。
 そのため彼の攻撃や能力が時折浅かったり、上手く発動しなかったりしたのだ。
 さて、話を戻すが、そんな状態の彼が昔のように殺気を放てばどうなるか。
 東の後ろで長を守っていたエルフたちは恐怖で気を失っている者や恐怖のあまり泣き出す者や嘔吐する者、祈りを捧げる者、ギリギリで踏ん張りふらふらの状態で長を守ろうとしている者へと分かれた。
 しかしその大半は気を失っている。
 今意識がある者らは、目の前で繰り広げられる恐怖と恐怖の戦いに完全に畏怖している。
 そしてユキナもまた恐怖に身を包まれ、震え、涙を浮かべていた。
 彼女とて冒険者を務めているため、昔に比べてレベルも当然上がっている。
 しかしそれは東とて同じこと。例え彼の場合は上がっても呪いにより抑えられてしまうとはいっても、上がっていることに変わりはない。
 そのため影響を受けてしまっているのだ。
 しかし彼女は気を失うことはない。東から言われたことを守らねばならないのだから。
 例え彼らが戦意喪失状態であっても、彼女には彼女の役目があるからだ。
 しかしそんな彼女の頑張りはもう時期終了を迎える。
 何故なら、すでに東が戦況を覆そうとしているからだった。



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