異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
完了、そして質問
それから数十分ほどで二人は堂々と正面出口から堅牢署を出た。当然だが二人ともナージャの能力を纏(まと)った状態で、だが。
しかしそれも堅牢署を出て少し離れた場所までくれば解除した。
「いやぁー、案外簡単に出られたねー」
バジルはそう言いながら伸びをするが、そんな彼の顔にはいつも通り爽やかな笑みが浮かんでいる。
それはまるで当たり前であるかのように。
「バジル様....」
伸びをしれいるバジルにラグナロは厳かに口を開いた。
「本日は私の失態の所為(せい)でバジル様にご足労をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
そう言い深々と礼をする。
「もうそんなに何度も謝ってくれなくても良いよ」
「いえ、今回は私が相手を見くびり、手を抜いていたため起こった事です。罰なら何なりとお受け致します」
ラグナロは頭を下げながらも淡々と述べる。
それに対してバジルは困り顔を浮かべて顎の下をかいている。
正直な所彼がラグナロを処分することは出来る。しかしバジルは彼を消すのは惜しいと考えている。
それは彼の魔具に対してだけの根拠ではなく、彼は今の立場としても有能だと思っている。
そうでなければ「青のボアアガロン」という組織のボスなど務められはしない。
しかしラグナロのような上に従順なタイプは今回のような失態をどうにかして返上し、地位を挽回したいと考える。
バジルはそんな人間を何人も見てきた。
そしてそんな人間には何が必要かも知っている。
それは───
「分かったよ。なら今回の被害分とそれから僕の仕事を増やした事について、後で色々と請求するからね」
「謹んで、お受け致します...」
きっちり罰を与えればそれで満足する。
そして彼もまた同じだったようで、先ほどよりも表情は柔らかくなっている。
「....申し訳ありませんが、少々宜しいでしょうか?」
「「っ ︎」」
彼らがそんなやり取りをし終えた直後、彼らの背後の路地裏から声が発せられた。
その予想だにしていなかった事実に驚愕し、二人はその場から飛び退き、声の主から距離を取った。
路地裏から姿を現したのはフード付きのローブに身を包み、仮面を着けた人物。
声から察するに女であろう。
しかし二人は既にその女を一般人とは思っていなかった。
ラグナロは基、バジルとてそれなりの実力はある。
ましてやバジルは気配察知能力に長けていると自負しているし、それは周知の事実でもあった。
東ですら気が付けなかったあの男の気配隠蔽をも彼は察知することが可能なレベルなのだ。
そんな二人ですら、声をかけられるまで彼女が背後に立っていたことにすら気がつけなかったのだ。
それほどまでの気配隠蔽が出来る相手を果たして一般人と同列に扱うことが出来ようか...
「何か、用でしょうか?」
バジルが警戒しながらも柔らかく尋ねる。
そしてラグナロもいつでも動けるように構える。
しかし二人とも警戒し、いつでも動ける状態なのだが、目の前の女は構えてさえいないというのに踏み込むことの出来ない、圧倒的な実力差を感じさせている。
「何故貴方方は、魔獣を連れているのですか?」
そんな彼女が言う。仮面で表情を窺うことは出来ないが、声のトーンが少し落ちた。
マズいなぁー、とバジルは思いながらもその柔らかな微笑みを崩すことはない。
ラグナロはただ、バジルの答えを待つだけで良い。それ以外は全て目の前の女について考えれば良いっと判断した。
「....この子達は僕の友達でね、一緒に彼に会いに来ただけさ」
そう素直に話す。脱獄のことは除いて。
そしてすかさずバジルは『ロロロ』を発動させる。
繋ぐのはバジルとナージャ、それとサンナンチュウからラグナロに固有能力『交友』の友となる権能を強制接続。
これでラグナロにも固有能力『交友』の権能により二体の魔獣が彼の“友”となる。
事実サンナンチュウはバジルの足元からラグナロの足元へと移動し、まるで猫のように身を寄せてきた。
「....そうでしたか。それは申し訳ありませんでした。ただ、私のように尋ねて来る者もいると思いますので、あまり街の中、ましてや王都で連れるのは控えた方が宜しいと思いますよ」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。僕の配慮不足でしたね。気をつけておきます」
「失礼しました」
そう言って女は路地裏の闇へと姿を消した。
「ふぅ、助かったね」
「はい、もし敵対していれば無事では済まなかったかと」
ラグナロのそれはお世辞ではない。
彼の魔具は視えている物に虫を沸かせることが出来るのだが、しかし今回のように相手が何かで身を隠している場合には決着に時間がかかった。
ましてや相手はかなりの手練れだった。
それにここは離れているとはいえまだ堅牢署の近くなので騒いでいればさらに厄介なことになっていただろう。
「さて、あのお方にも報告があるし、戻ろっか」
「...はい」
そう言って二人はその場を後にしたのだった。
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