異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

看守、そしてバジルの能力

 
 看守は雷光核を利用して作られた懐中電灯のような物を遠くへと投げる。
 ラグナロが収容されてから出来た彼への対策は「絶対に光を浴びせてはならない!」だった。
 本来囚人一人にこのような対策が生まれることは稀なのだ。
 そして今回のように対策が設けられるのは地下八階層以降に収容され、なおかつ三種以上の法に触れている者にのみである。
 話を戻して、その対策が設けられた理由は先でラグナロが独房を破ったように、彼に光が当たるということは魔具の発動を許してしまうことなのだ。
 そうなればこの堅牢署の全ての囚人の逃走も考えられる。
 幸いと言うべきは彼らがいるのは地下七階層であることだった。
 ここでは下へ行く毎に暗くなる造りとなっており、さらに光源もほとんど松明となっているため薄暗い。
 地下七階層とはいえ暗い。
 そのため手に持っていた懐中電灯のような物さえ捨ててしまえば、後は応援を呼び、犠牲は多く出るだろうが人数で捕まえるしかない。
 そう考えた看守は踵を返して大慌てで階段の方へと走る。
 そんな彼の頭の中にはバジルとバジルの連れた二匹の魔獣のことが抜け落ちていた。
 ちなみにだが、この堅牢署の階段は東西南北の順に造られており、地下一階層と二階層のみ対称の位置で造られている。
 そのため例え彼が全力疾走で地上にある部署まで行けたとしても一時間弱以上はかかる。
 それが出来ればの話ではあるが。
 なのでそんな時のために三の倍数毎にとある部屋が設けられている。
 そこには地上の部署や他の部屋へと手紙のみだが連絡し合うことが出来る魔道具を置いた簡易休憩所が造られている。
 彼はそこを目指して走ったのである。
 その前に、と思い動こうとしたラグナロをバジルがそれよりも先に彼を制す。

「宜しいのですか?」

 ラグナロが問う。
 それにバジルは少し考え込む素振りをしてから、朗らかに微笑む。

「いや、敢(あ)えて行かせよう。そっちの方が後々動き易いだろうし」
「...分かりました」

 バジルの考えを理解出来ないまま、彼は引き下がった。

「さて、さっさとここを出ようか。余裕はあるとは思うけど、こんな暑くて埃っぽい所は好みじゃないからね」

 そう言ってバジルは再び歩き出す。
 先ほど同様少し離れてからラグナロも続く。
 数十分ほどして彼らが地下六階層に着いた時だった。
 待ち受けていたと言わんばかりに大勢の看守が武器を構えてこちらを睨んでいた。

「おやおや、こんなに大勢に出迎えてもらえるなんて、ラグナロ君もやるねー」
「....」

 柔らかな笑みを浮かべてからかうように言うバジルにどう返せば良いのか分からず困惑しているラグナロ。
 そんな彼らを無視して看守たちは一斉に突撃し始めた。
 しかし突撃していた彼らはすぐに驚愕した。
 確かに彼らがいた場所には、彼らの姿などなくなっていた。

「ど、どういう事だ!さっきまで確かにそこにいたんだぞっ⁈」
「我々の中に紛れ込んだのでしょうか?」
「そんな事が出来るか!隙間を埋めた陣営だったのだぞ!」
「そうだ、例え階段へ飛び退いたとしても見失うまではいかん!」
「では奴らはどこへ消えたと言うのですか ︎」
「知るかっ!こっちが知りたいくらいだ!」

 忽然(こつぜん)と消えてしまったバジルたちの消息について騒ぎ立てる看守たち。
 そんな彼らには気づきもしないだろう。
 バジルたちが見えなくなっただけであり、いなくなった訳ではないことに。

『キュエェー!』

 そう甲高い声を上げるのはバジルによって叩き起こされたナージャであった。
 ナージャの種の能力が発動し、バジルがナージャと共に姿を消す。
 そしてバジルがラグナロに触れるとナージャの能力が彼にも反映された。
 しかしこの方法は上記でも述べた通り、本来バジル自身にしか反映されないのだ。
 ナージャと能力によって「友」となったバジルにはその権能は働くが、いくら能力の権能を受けているバジルがラグナロに触れようともその権能を彼に傾けることは出来ない。
 しかしそのことを可能にしてしまったのが、バジルの所有する固有能力の権能である。
 彼の固有能力である『交友』は魔獣と「友」となる能力である。
 しかし彼にはもう一つの固有能力が存在した。
 その名は『ロロロ』。自身の能力のみだが、他者に能力を繋げることが出来るという彼の能力には打ってつけの能力なのだ。
 つまり『交友』によって「友」となった魔獣の固有能力を他者にも発動可能にさせられるのだ。
 いわば回路を繋ぐようなものなのだ。
 ただしその魔獣がその能力を行使した時のみだけその者にも発動させられるのである。
 今回は『ロロロ』によってナシャージャの『イン・ビルズ』をラグナロに繋ぎ、彼自身が『イン・ビルズ』を発動させて透明化したのだ。
 だがラグナロ自身が発動させたといっても今回は彼自身が自分の固有能力のように発動させたのではなく、彼の魔力を使い強制的にバジルによって発動させられたのだ。
『ロロロ』の能力発動の権限をバジルとして繋げてしまえば、彼が行使しない限りラグナロがその権能を働かせることは出来ない。
 また教えない限り自身にその能力が繋がっていることは気がつけない。
 またその者自身が行使することも当然出来ない。
 ついでに彼自身と「友」となっていたフィリブやワイバーンたちに他者が命令を与えることが出来たのもこの能力のお陰だった。
 バジルの『交友』の権能を延長し、多数の人に魔獣とその回路を築いたのだ。

「本当に見えていないのですね」
「ああ。それにもう時期ここら一帯を隈(くま)なく探し始めるだろうから逃げ易くなるだろうね」

 二人はそんな会話を小声で交わしながら音を殺して階段を降りていた。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品