異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

こちらは、そして葛藤

 
 中央の男が頭を上げ、再び口を開く。

「そちらの方の御用件は理解しました。ヨハン、案内を」
「はっ!」

 そう指示され、ヨハンが弓を下ろし男の元へ近づく。が、多少の間合いを取っている辺り信用はしていないのかもしれない。
 まあ、以前にも似たようなことがあったのなら理解出来る行動だが、こうもあからさまな態度はどうかとも思う。
 しかし男の方が気にしていないのなら別に俺から何も言う気はない。
 男はヨハンに案内され先にエルフの里へと向かう。
 そして二人との距離がだいぶ離れたくらいに、中央の男が再び弓を構えた。矢先はもちろん俺らへ。

「さて....あなた方はここへは何の御用でしょうか?」

 中央の男に倣(なら)うかのように周りのエルフたちも弓を構える。矢を引かないだけ、まだそこまで敵視されていないのだろうか?
 さて、どうするか。
 最初に思いついたのは俺らはあの男に雇われた冒険者、とされることだったがそれを訊かずか踏まえてか問うて来た。
 ま、そう扱われたら自分から否定していたが。
 この問いに対する答えは決めてある。だが、分かっていても本当に大丈夫なのか不安が残る。
 その迷いを晴らすためにも、そしてリリーを助けるためにもここが正念場である。

「ユキナ、....名前、借りるぞ」
「......ん」

 彼女に聞こえる程度の声で確認するとユキナは顔をしかめてだが了承してくれた。
 本当に心苦しい限りだな。
 意を決して彼らに向き直る。

「俺らはとある人物を探しにここへ来た!その名前は.....」

 続けようとしたが感情が再び舞い戻ってきた。
 意を決したにも関わらずこれではユキナに申し訳ない。

「.....」
「──その名は?」

 沈黙が続き、何も言わずにいると痺れを切らしたのか中央の男が促してきた。
 それにちゃんと答えようとするが、途中で言葉が詰まり、言い出せない。そのことに思わず歯軋(はぎし)りを鳴らしてしまった。
 それを聴かれてしまったようでエルフたち数人が顔をしかめた。そんなに耳、良いのかよ。
 多分誤解を生んでしまったはずだ。これ以上黙っていれば良い結果になるとは思えない。
 言え、言え、言え、言え、言え.....言え!

「っ ︎」

 気張って自分に言い聞かせていると、俺の右の手にそっと触れる物があった。
 敵かと思いそちらに目を向けると、そこには心配そうな表情を浮かべたユキナが、そして俺の手にはユキナの手が添えられていた。

「ユキナ.....」

 擦れたような声で彼女の名を呼ぶ。
 するとユキナはにっこりと微笑み、口を開く。

「大じょ、う夫」
「!」

 そうユキナに言われるとさっきまであれこれ考えていたことが止まる。
 そしてなぜか今度は俺にもふっと笑みが浮かぶ。
 そう、だよな。俺がこんな所で足止めされている場合じゃないよな。

「ありがとうな、ユキナ」
「ん」

 ユキナに礼を述べてからエルフたちの方へと再び向き直る。

「名前はホルスト!ホルストという名前の者を探しに、ここへ来た!」

 さっきよりも声を張って叫ぶ。聞き逃されては困るので。
 そしてその逃さなかった言葉によって、彼らに動揺が及ぶ。

「貴様....どこでその名を知った!」

 さっきまでとは雰囲気の違う様(さま)とトーンで中央の男が声を上げる。
 ここまでの反応になるとは、少々予想外だ。
 逆に言えばそれだけのことなのだろう、ここでこの名前を出すということは。

「中へ入らせてもらう!」
「ならん!貴様らのような者を、里へ入れるわけにはいかねぇー!」
「ああ、ましてやその名を知っているとは尚の事!全員、構え!」

 ボイランが威勢を張るとそれに中央の男が乗り、指令を出す。
 それにより全員が矢を引き、弓矢を構える。
 マズいな、本当にここまで面倒になるとは予想していなかった。



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