異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

不明、そして塗り薬

 
 爬虫類独特の細身の瞳が彼女らを睨(ね)める。
 マダルノ蛇が観られている以上キリたちも迂闊(うかつ)に動けない。
 しかし今の間ならば逃げれば良い。
 マダルノ蛇は夜からが脅威な存在になるのであって今は昼の数時間ほど前。
 なので襲って来ることはな───

「ジシャアァァァァッ!」
「「「「「 ︎」」」」」

 そう全員が考えていた時だった。
 マダルノ蛇が威嚇の声を上げ、頭を森の茂みへ引っ込めその大きな身体を滑らせて彼女らの周りの木々の下を這い出した。
 先ほど近づいてくる時と同じ音が辺りから鳴り響く。
 どう考えても温厚な状態には思えない。

「どうして ︎この時間なら襲って来ないはずでしょ!」

 サナが音と聞き分け、辺りを警戒しながら嘆く。

「もしかして知らないうちに縄張りに入ちゃったんじゃ!」
「それも夜だけじゃないのっ?」
「確かそうだったと思うんだけど...」

 ニーナ曖昧な返事で返す。
 しかし彼女もなぜマダルノ蛇がこの時間に自分たちを襲おうとしているのか理解出来ないでいた。
 そのため一番可能性の高いのを返したが、それでも不確定にしか思えていない。

「(こんな時アズマさんなら、きっと理由を判明させる事が出来ると思うんだけど....)」

 そうニーナは思った。
 しかしそれはニーナだけではなかった。キリやサナ、ユキナもまた同じ思いを抱いていた。
 彼女らの場合は自分よりも知識のあるニーナが検討出来ないのであれば、いつも何かしら考えついている東ならこの状況も把握出来るのだろう。
 しかしそれは過大評価というものである。
 東とて普通の人間。学校ではギリギリの単位を取り、成績は堕とさないようにそれなりに上位キープをしてバイトを優先していたとはいえそれだけだ。
 その場に東がいたとしても果たして判明出来たかは難しい。

「シャアァッ!」
「くっ!」

 そう思っているとキリの斜め右横の木々の間から彼女ら目がけてマダルノ蛇が突進してきた。
 その速さはグラルドルフと引けを取らないほどの豪速。
 それを紙一重で全員が回避する。
 少女は先に動けたサナが腕を引っ張り、避けることが出来た。
 突進で姿を現したマダルノ蛇は全長五メートルはある。その巨体からは想像出来ない速さ。
 そしてここで改めてこの状況がマズいことを全員が理解した。
 キリたちだけならばマダルノ蛇を相手出来たが、今は全くの素人の者がいる。その彼女を庇(かば)いながら戦えば当然不利になるだろう。
 そのことは少女にも分かっている。
 だが少女は少女で今の状況が理解出来ていない。
 完全に払えないとはいえ自信作の魔獣除けの香を焚いているのになぜマダルノ蛇がこちらに来たのかが理解出来ていなかった。

「私はこの子を村の方まで連れて行くから!その間の相手、お願い」

 サナが告げながら少女を抱っこし、村の方へ走り出す。
 これによりキリたちは動き易くなった。

「ン、ジシャアッ!」
「サナッ!」
「 ︎」

 だがマダルノ蛇はそれを良しとしなかった。
 この場から離脱しようとしたサナへ向かって毒弾を放った。
 キリの声で振り返った頃には毒弾が発射された。
 辛うじて彼女の反応が間に合い攻撃を目視と同時に身体を左へ倒して致命傷は避けることが出来た。
 だが───

「くっ ︎」
「いったたぁ....!って、大丈夫 ︎」

 完全に避けきることは出来ず、毒弾がサナの右腕カスっていた。
 そこは皮膚が溶け変色した肉が見えていた。
 さらにサナは急に倒れたためバランスを取れず肩から滑るように倒れた。されにより左腕にもかなりの怪我を負ってしまった。
 幸い少女はサナが包むように守ったため倒れた際の衝撃と小石が少々当たった程度で済んだ。
 少女は包まれた状態のまま少しだけ目線を上げるとそこにはサナの変色した肉が見え、慌ててサナを揺さぶる。

「大、丈夫....怪我、してない?」
「あたしは平気だから、今は自分の心配を!」
「んっ!....」

 自分よりも他人の心配をするサナに少女は錯乱しながらどうしようか考えているとサナが身体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
 燃えるように痛い両腕で少女をぐっと包みながら。

「ちょ、ちょっと、まだ動いたら....」
「次、狙われるかもしれないでしょ。だから早く行かなきゃ」
「あたしの事は良いから!自分で逃れるから!だからあなたはまず、その毒を止めないと!」

 少女がそう叫ぶように言うがサナは聞かず、走り出した。
 サナとて毒を止めないと自分の命が脅かされることくらい承知している。
 しかしそれでも戦うことの出来ない少女を、こんな危険な場所で一人になど出来るはずがなかった。

「もー!」

 少女はサナが聞き入れそうにないのを察すると自分の服の中に入れてある塗り薬を取り出す。
 何かあった時のために軟膏(なんこう)と毒などに効く薬も持ち歩いている。
 山に入るためにはそれなりに準備しているし、いざという時のためにこの手の薬は常備しているのが彼女だ。
 まず先に水の入った小瓶を取り出して蓋を開け、それを自分の手にかけてからサナの腕にもかける。

「んっ ︎」
「我慢して!」

 次に今取り出した毒に効く薬の入れ物の蓋を開け、肉が見えているサナの皮膚に塗る。

「んーっ ︎」

 その痛みによってサナが耐えながらも漏れ出てしまった声を聴きながら、最後に少女は自分の服を破いて布を作る。
 衛生的に良くはないかも知れないが、これ以上野晒しにしておく方が危険である。
 抱き抱えられながらも少女はサナの傷の手当てを着々と進める。

「もう少しで、着くわよ」

 痛みのためか少々声が擦れ、表情も強張っているが笑顔を浮かべて少女に言う。
 少女は負に落ちない顔でそれを観ていた。

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