異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
要求、そして別れ
少しの間考えてから気になっていることを訊いてみる。
「それで相手はなんと?」
「まずは公平な場にて法の下で罪を認め償って欲しい。それと家宝の返して欲しい、との事です」
「なるほど....で、その公共な場というのはアンタレス王国の所で良いんですか?」
「はい。それでリリースティアはどちらに?」
「今連れて来ますので少々お待ちを」
ファブルさんに促されたのでそう言い部屋を出る。
相手や内容によってポールさんやルーシィさんたいメイドの方には部屋を出てもらっている。
なので俺が呼びに行くことになったはありがたい。そして、この間にどうするか考えなくてはならない。
まさかこんな状況になるとは思っていなかったから特に何も策を用意出来ていない。
なのでそれを今なのだが正直すぐには思いつかない。
リリーが盗んでいないことを証明するにはどうする?訴えてきた相手同様、証人を探すか?
......いや、無理だな。まず日数が経ち過ぎている。約半年前を、それも見ず知らずの人間が窃盗をしたかを憶えていられるか?
答えは無理(ノー)。
可能性では、あって数日だろう。
なら次に思いつくのは指紋になるかな。しかしこの世界に果たして鑑識が存在するのかは知らないし、例えあったとしても指紋を凌(しの)ぐ方法はいくらでもある。
ならどうする?考えれば考えるほど打開策が潰えていく。
そうこうしている間にみんなとさっきまでいた部屋に着いてしまった。
「.....早かったわね、もう大丈夫なの?」
扉の前で開けるのを渋っていると足音が聴こえたのか、それとも気配を感じたからかサナが扉を開けて尋ねてきた。
「あ、いや....まだなんだ。ちょっと用事があって戻って来たんだ....」
「そう.....何かあったの?元気ないわよ」
「なんでもないよ、大丈夫。ちょっとリリーを借りるぞ」
「え、ええ」
そうサナに言って部屋の中へ入る。
全員の視線が俺に集まっているが平静を装って今は止めているがニ、ニでペアを組んでストレッチをしていたリリーに近寄る。
「.....リリーに用があるらしいから一緒に来てもらえるか?」
「ボクに?」
首を傾げて問うてきたリリーに俺は重く頷く。
彼女は納得いっていないが立ち上がり、軽装を隠すために薄手の上着を羽織りこちらへ向かってきた。
踵を返して応接室へ向かう。
正直連れて行きたくはない。アンタレス王国の法はそこまで詳しく知っている訳ではないけれど気になっているものはある。
それを簡略すると「罪の重さによっては奴隷とされる」。そんなものがある。
だから下手をすれば彼女は....
頭を振りその考えを振り払う。
まだそうなると決まった訳じゃないんだ。きっとそんなに重い罪になるとは思えない。
そう自分に言い聞かせて応接室の扉に手をかける。
「大丈夫だからな」
「?」
ドアノブを回し中へ入る前に呟く。
リリーはファブルさんを見ると一礼をしてから俺の横に座った。
互いに自己紹介をしてから、少し間を置いてファブルさんは口を開く。
「では改めて今回の件について説明させて頂きます」
そう前置きを置いてから用件を話始める。
「今回アンタレス王国の方から私の所に窃盗と暴行の容疑にてリリースティア様の名前が届きました」
「え....」
「暴行による怪我も酷いとの事ですが何よりも、盗まれた物がその者の家宝との事ですので....」
訝しげな表情のリリー。
「こちらとしても弁護致しますが──恐らく難しいかと.....」
「何か間違いじゃないんですか?」
「残念ながら、事実です」
軽く首を振りながらファブルさんは否定する。
愕然とするリリーに何も言えない俺は拳を強く握る。
「ご同行、願えますか?」
「!.....」
「......」
不安の表情のリリーがこちらを見てきたが、俺にはどうすることも出来ないため、せめてもと思い彼女の眼をまっすぐ見返す。
今、俺に出来るのはこれだけだ。
それで何を悟ったのかは分からないが、リリーは一瞬顔をしかめてからにっと笑顔を浮かべる。
「そうだよな....ボクの事なのにアズマを頼っちゃダメだよな。うん───」
彼女は元気よくそう言うと一旦俯いてから何かぶつぶつ言っている。
それを聞き取ることは出来なかった。
その状態が少し続いてからファブルさんが口を開く。
「ではそろそろ」
「──はい」
二人とも立ち上がり、扉の方へと向かって行く。
扉が自然と開き、先にファブルさんが出て振り返る。多分扉の後ろ脇には誰かが立っているだろう。
「じゃあアズマ、ボク、行くよ。こんな感じで悪いけど、皆にも言っといてくれ。君達といられて楽しかったって──多分、もう会えないと思うけど、元気でって」
「!....」
そうほんの少しだけこちらに顔を向けた彼女は元気のあるようでない声で告げる。
目元もほとんど見えないような角度で振り向かれたが、俺はそれを見落とさなかった。
泣いていた。彼女は涙を流していたのだ。
頬を伝うそれを彼女は隠しながら、言ったのだ。彼女にとっての最期の言葉を。
俺はそれに答えることなく、また見送ることもなく、ただ部屋の中で黙って座っているだけだった。
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