異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

苦悶、そして約束

 
 彼らはバジルの言うことを心底意味が分からないといった表情で彼を見ている。

「話しをってその小僧がワイバーン共を動けなくさせてるってこったろ?だから今のうちに叩こうって....思って....なあ?」

 一人の男が周りに同意を求めるように促す。そしてそれに頷く者たち。
 そんな彼らにバジルは淡々と言う。

「彼はそれにやだけどって何かを続けようとしていたよ。それなのに遮って文句ばかり、それが邪魔しているって言っているんだよ」
「....っち、分かったよ。んで?何が言いたいんだ?」

 納得がいっていないのか態度は悪いが俺の話をちゃんと聞いてくれる気にはなったらしい。

「あのワイバーンたちが街や人に被害を及ぼすようなことをしようとしたらいつでも、殺せる。そう能力で縛ってある」
「 ︎」
「それを信じて、ワイバーン共を見逃せと?」
「ああ」

 バジルは一瞬だけ驚愕の表情を見せたがすぐにいつもの爽やか笑顔を浮かべた。
 それは彼だけではなく、討伐隊や防衛隊の面々も驚いている。そんな中、彼らを代表して先ほど遮ってきた男が質問してきた。

「......」
「......」

 互いに無言のまま数秒の間が出来る。
 代表が無言なためなのかそれとも雰囲気からなのか、周りの連中は俺と男を交互に見合っている。

「確かにテメェの能力が強えのは分かった。だが、それを安易に信じる訳にはいかねえ」

 まあ、そりゃあそうだよな。
 いくらいつでも殺せると言われてもそれで街が完全に安全なのかどうかは分からない。だから信じられないのも無理は....

「だからそれを俺に使ってみせろ!」
「......は?」

 今、なんて言った?え?使えって正気か?

「正気か?」
「正気、じゃねえ。だが、確かめておいた方が安心出来る」
「軽くでも身体への支障は大きいぞ」
「身体張っての冒険者だ。覚悟は出来る」
「身体あっての冒険者だぞ」
「別に五体満足でなくても出来る。だから左腕をくれてやる」

 そう言って左腕を突き出してきた。
 予想外だな、どうしたものか。

「.....」

 チラッと彼の顔を見る。それを見て彼が言ったことが事実なのだと悟った。
 本当に覚悟を決めているようだ。
 なら俺もそれに応えよう。
 そう意を決して彼の左腕を触る。

「があっ ︎あああぁあぁぁぁ!あがあああぁぁぁぁっ!!!ぐああぁあぁぁぁぁっ!!!!っっっあ、ぎぃああぁぁああぁぁっっ!!!!ああっ、あああぁあぁぁぁっっ!!!!」

 彼の腕に触れ能力発動させた瞬間彼は痛みで悶絶し始めた。
 今、彼の左腕には想像を絶する痛みが常時走っているだろう。俺のように表面だけ、ではなく左腕全てを凍らせている。
 その痛みは俺の時とは比にならないだろう。
 最初『麻痺』で痛みだけでも止めてやろうかとも考えたがそれでは彼の覚悟に泥を塗る。
 だから俺が出来ることはただ見守る、それだけ。
 彼の叫び声を聴いて街の中にいた残りの面々も出てきたが状況が分からず、佇(たたず)んでいる者に訊いては驚きで佇む、という流れになった。
 ただ何人かは医者や俺に止めるように脅しに来たが、全てが無意味になった。
 医者がいるのは隣の街か、ネビュラの街の医者。ただし避難させているのでそこから連れて来る必要があるためほとんど時間は同じくらいだ。
 そして脅してきた面々は黙って観ていていただくようにした。大丈夫、ちょんって触れただけだから。
 数分ほど悶絶し絶叫を繰り返してから彼はゆっくりと立ち上がった。そんな彼の腕は青紫色で震えている。
 肩で息をしながら、こちらへゆっくり近づいて来る。そして俺から数歩ほど離れた場所で止まる。
 彼の顔はまだ痛いはずの痛みを我慢しているためか強張(こわば)っている。

「....はぁ...はぁ....っ、その能力なら信用できる.....俺ら討伐隊はあのワイバーン共を討伐しない事を約束する。良いなぁ、お前ら!」
「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」
「あれ観ちまうと、な。信用出来るわ」
「触った一瞬だったしな」
「殺せなくても、今みたいに翼とか脚とかに使ってもらえれば有利になるだろうし」

 彼の決定に誰も否を唱えない。それは彼の人望の厚さからなのか、それとも先ほどの苦悶と絶叫のおかげでなのか。

「.....私達も討伐は止めておこう。貴方を敵に回す方がワイバーン共よりも恐ろしい」

 防衛隊の方でも討伐しないでくれるようだ。
 別に俺が止めるからって危険ではないだろ、失敬な。動けなくさせて終わりなんだから。

「てか隊長、腕大丈夫ですかい?」
「ああ、問題ない」
「治りますかねぇ?」
「....多分無理だな。まあ時期に慣れるだろうよ」
「聞いた話なんですが、この国のどっかに凄腕の薬師がいるそうです。捜しますか?」
「いるか不明なら、依頼の途中にでも捜せば良い。依頼優先だな」
「分かりやした」

 そんな会話をしているのが聞こえたが、俺にはどうしようもない。
 一応『ウォーミル』で温度を上げてはいるが後遺症が残らない可能性はかなり低い。治癒核でも治るとは思えない。
 しかしこれを選んだのは彼自身だ。非道とか言われても仕方がないけど、悪いが俺の出来ることはない。
 だから出来ても今話に出た薬師が見つかることを願う。
 それからしばらくして街の人たちが戻って来たが、ちゃんとその前にワイバーンたちは去らせた。
 夜になった隙にゲートでワイバーンたちと会った場所よりさらに先の方へと飛んでもらった。
 翌日大騒ぎになったが、去って行ったと言ったら今度はちゃんと信じてもらえた。
 気づいたらバジルの姿もなかったのはなんとなく分かっていた。


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