異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

強引、そして狙い

 
 翌日になってから再び様子を見に行くと少年の方も起きたようで俺の顔を見て早々二人して頭を下げられた。
 少年に身体の具合いを尋ねると元気の良い声で「大丈夫ですっ!」と答えた。
 顔色も昨日に比べれば良くなっている。良かった。

「後で君も風呂に入ってくると良い」
「ありがとうございます!」

 少年がお礼を言い終わると同時に背後からドアが開く音が鳴る。
 そしてマリアさんが俺の隣を抜け、ベッド近くまで行くと少年たちに一礼する。
 二人も慌てたように礼をする。

「準備が出来ておりますので、ご案内致します」
「.......え?」

 少年がすっとんきょんな声を上げるが、俺は気にせず行っておいでと言う。
 そのまま少年は訳も分からないままマリアさんにお風呂へと案内されて行った。
 実はここへ来る途中でマリアさんに少年をお風呂へ入れるようにと頼んでおいたのだ。その訳は....

「さて、君に少し訊きたいことがある」
「….訊きたい事、ですか?」

 俺が頷くと彼女は表情を引き締めた。
 訊きたいこと、それは昨日彼女にゴルゴッコの実について話した際に出てきた「お兄さん」について。
 最初は彼女たちに魔獣と戦わせるためか、わざと危険な目に遭わせようとした、そう考えた。
 しかし後になって思い返してみると違和感があった。
 それはそのお兄さんはなぜ彼女らを狙ったのか、だ。単なる偶然なら運が悪かっただけだが、もし狙ってやったのだとしたらこれは放って置けない。
 偶然なら彼女らが生きていたとしても次に狙って来る可能性は低い。
 しかし狙っていた場合は再び彼女らに危険が及ぶことは明白だ。
 まあ、偶然でも「顔を見られたからには生かしておけん!」なんて言って来るかもしれないが、後者の方が確実だ。
 だからその理由を知りたいのだ。

「君の言っていたお兄さんとはどういう関係なのか聞かせて欲しい」

 少女は少しの間黙ってから、お兄さんとやらについて話し始めた。
 内容をまとめるとお兄さんとは赤の他人で二人がギルドで困っていた所を助けてくれ、冒険について教えてくれたりした。
 そしてゴルゴッコの実を使って魔獣が寄って来たのでどうすればいいかをお兄さんに訊こうとしたら反応がなく、自己判断で撤退した。
 そしてゴルゴッコの実で再び寄って来た魔獣という所で俺が勝手にやっちゃったと。

「なるほど.…」

 互いの関係性はだいたいは分かったが結局これはどっちなのだろうか?
 偶然にも思えるし狙ってにも思える。

「他に何かないか?そのお兄さんと関わりそうな関係とか出来事とか」
「えっと.….ごめんなさい、思い付きません。私達あんまりギルドの近くまで来る事がないので見かける事もいないので.…」
「そうかぁ.….」

 収穫ほぼなしか。
 これは弱ったな。ここでこの兄妹を帰すのは危険だよな.…ん?あっ!

「そうだ、そうだ忘れてた!君らの両親、今頃心配しているよな?」

 やらかしたー、子どもたちが帰って来なかったら心配するよな。なんで当たり前のこと忘れるかなー。
 昨日彼女が目覚めたんだから訊いておけば良かった。

「えっと、私達のお父さ.…父は、その.…..もう亡くなっているんです.……」
「あ….ごめん」

 場が静寂に包まれた。
 どうしよう.….でも、昔俺も似た場面に出会したな。その時は確か....

「君も大変だろうが、頑張りなさい。私(おれ)もそれを乗り越えて今、幸せを感じているんだ。君にも必ず幸せが訪れるはずだ」

 そう自然と口から出てきた懐かしい言葉。
 昔誰かに言われた言葉なんだけど、誰に言われたんだっけ?

「….…」

 少女は黙ったまま、しかしさっきとは違い、哀しい顔ではなく真剣な顔に変わっていたので少し安心した。
 哀しい顔を観せないようにしているのだろう。俺も似た顔をしていたからな、一発で分かる。

「それじゃあ、また来るよ」

 そう言ってこの場を抜ける。その際メルマンさんに視線をやり少女には見えないように手招きをして呼ぶ。
 察しがついたメルマンさんは「私も新しいタオルを...」と言って俺の後に部屋を出た。

「少年の方だけど、もう家に帰しても大丈夫かい?」
「ええ、問題御座いません。ただ二人とも所々に痣などがありましたが、先程の話ですと.…」

 メルマンさんが何を言おうとしているのかは分かる。家庭内暴力。考えられなくもない。
 さて、問題なければ昼前に帰しておくつもりだったんだけど、どうしたものか.…


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