異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
余裕、そして虫
不意打ちのように現れた自分の部下たちが次々と倒されていったためかボスの表情は....平然とした表情を浮かべている。
俺たちは全員赤ランク以上とはいえ三人(ニコルは膝をついて四つん這いでうな垂れている)だ。
ましてや相手は連携の腕は赤ランクに匹敵するほどの者たちが俺たちから一人の犠牲も出すことなく倒されたのだ。
なのでそれがなぜなのかは分からない。
普通は驚くか恐怖するかを想像するのだがこの男はそれを浮かべていない。
まだ何か策があるのか?
「ここまではやるとはな、褒めてやろう....そこでだ、貴様らの実力に免じて俺たちはもう手出しをしねぇから今すぐ帰れ」
....何を言っているんだ、こいつは?
「何言ってんだ、こいつ?」
ワオルさんがそう呟いた。
まあ、みんなそう思うよね。
「?通じなかったか?今すぐ帰れって言ってんだよ。でなけりゃ、力尽くで追い返すぞ⁈」
そう言ってボスは眼帯を外した。
「「「 ︎」」」
眼帯の下にあったそれは人間の物とは到底思えないものだった。
剥き出しになったそれは蠢いているのだ。まるで喜んでいるかのように、脈を打つかのように。
「ひぃっ ︎ボ...頭!その眼は一体どうされたんだ⁈」
我に返ったニコルがボスの眼を見て驚きの声を上げ、俺たちが聞きたかったことを訊いてくれた。
「どうした?何がだ?普通と少し違うだろうがいたって普通の眼ではないか」
....何を言っているんだ、こいつは?
「普通....頭!それのどこが普通なのですか ︎どう見ても異常だ!」
「ああ?」
ニコルの発言が気に障ったのか片方の目で鋭く睨む。
「...ぶっ、はあーはっはっはっはっぁ!ああ、俺も最初は異常だと思ったさ!だがな、これは素晴らしいぞ!」
そう叫ぶと机に置いてあった酒瓶を取り一気に飲み始めた。
「ぷはぁー!こいつを使えば高ランクの冒険者も騎士団達も気にしなくて良い!この魔道具にはそれだけの力がある!」
魔道具 ︎あのぶよぶよして蠢いているものが⁈...あ、違う違う。
今まで見てきた魔道具はどれも固有能力のような力が宿っていた。しかしそれはこの男の魔道具のように動いてなどいなかった。
というか道具と付くのだから蠢いているの自体可笑しいことにも思えるのだが、もしかしたら俺が知らないだけなのかもしれない。
今度神様...いや教えてくれるか分からないからここはエデルさんに訊こう。
彼なら仕事柄そういうことにも詳しいと思うから。
「降参するならば許してやらん事もない!さあ、どうするぅ?」
嘲笑の笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
「ボ、頭!お、俺はいつまでもあんたに突いて行く!だから俺だけは...」
ボスに助けを求めようとしたニコルが突然しゃべるのをやめた。
いや、やめたのではなく....しゃべれなくなったのだ。
「「「 ︎ ︎」」」
両手を首の横辺りにやり震えながら振り返ったニコルの喉には穴が空いていた。
奥には貫通していないのか穴は薄暗い。それはこちらとしてはありがたいことなのだが、しかしいつ?どうたって?
「何で...」
「?何で?使えない物はとっとと棄てるのが普通だろ?貴様らは使わなくなったごみを捨てずに取っておくのか?」
ワオルさんの疑問に至極当然とばかりにボスは述べた。
仲間をごみと同じ扱い....
「それに、この魔道具の力はこんな物だけじゃないから、存分に楽しんで観ていろ」
「... ︎ ︎」
そうボスが言い終えると同時にニコルの表情が険しくなり、両手で喉を抑えている。
その手の間からウニョウニョと二、三匹のいも虫のような虫が出てきた。その数は次第に増えていく。
そしてその虫たちが出てきた喉の穴の大きさが次第に大きくなっていっているのに気がついた。
食ってるのか⁈
それを見てなのか喉に穴が空いたからなのかニコルは倒れた。
しかし虫たちはそんなことはお構いなしに増えていきニコルの身体を食らって行く。
口や鼻、耳からと色々な所から虫が這い出てきては宿主を食っていっている。
「うっ ︎」
アルが表情を険しくして手で口元を抑えている。
俺やワオルさんも同じ気持ちだ。これ以上は観ていられない。
「待て」
ニコルを助けようと駆けかけたその時、ワオルさんが止めた。
「無理だ、ありゃあもう助からない」
「まだ望みがあるかもしれないだろ?」
「例えあったとしてあの虫が体内にまで入っているのなら傷を治しても無駄だ!それにあの魔道具がどういう物なのか分からないまま近付くのは危ない!だから止めておけ」
ワオルさんの説得で俺は自分が冷静になったのを感じた。
ワオルさんの言っていることは正しい。
今俺が使用と考えたことは虫を殺してから治癒核で傷を治す、というものだった。
体内の虫はウォーミルを使えば良いと考えていたが、冷静に考えればそれは困難であり例え出来たとしても体内に異物を残してしまう。
つまりどうしようもなかったのだ。
そしてさらに言えばどうしようもない状態の時に再びボスが魔道具を使えば、近づいた俺も今のニコルのようになっていただろう。
「ありがとう、助かった」
「気にすんな」
互いに顔を見合わせずに話す。
さて、どうしたものか。あの魔道具を発動させないためには一瞬でカタをつけなくてはならない。
俺が本気で近づいてから気絶まで持って行くのには多少かかる。その間に発動されては意味がない。
キリの『迅速』があれば何とかなったかもしれないな。
となると....気づかれないよう、そして一瞬で気を失わせるしかないか。
あんまり使いたくはなかったんだが、この際どうしようもない。
俺はそう意を決して口を開く。
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