異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

料理対決開始、そして手まりずし

 
 東がテリオスの企みを阻止するべく動き出してから数日が経ち、料理対決当日となった。
 釈放されドミニオさんに連れられ会場へと案内された。会場と言っても整えられた庭にテーブルにテーブルクロスをかけた物、椅子、調理台一式が用意されているだけで他は何も。

「では勝負が始まるまで此方でお待ち下さい」

 こちらってミルフィーさんの背後で立ってろと。
 そう心で嘆きながらも周りの様子は伺っておく。貴族やその貴族が呼んだ料理人の人たちも何人か来ていないようだ、空席が四つある。テリオス子爵の姿も見えない。
 ミルフィーさんの息子さん、名前は確かベルクさん。
 四十代ほどで整った髭を生やし、レストランとかで見るシェフの格好、シェフコートを着た威厳のありそうな人がこちらを観ていた。
 怖い感じだが気にしないようにしよう。
 さらに少し経ってから残り貴族と料理人たちが到着した。最後にテリオス子爵で、彼だけ特別製の椅子に腰掛けた。

「皆様お揃いになりましたので始めさせて頂きます!」

 ゴーンとデカい鐘を叩いた音が響き、司会の人がそう叫んだ。

「先ずは今対決審査員の方々を紹介させて頂きます!左から...」

 そう紹介されて行った十八人の審査員の方が軽い挨拶や会釈をして行く。
 次にこの料理対決のルール説明。
 食材費は貴族たちが持ち、無料提供。さらに特殊な食材が使いたいのなら自分で用意すること。道具も然り。
 制限時間二時間以内に完成させ、審査。互いのチームの料理を食べてから判決。それをトーナメント式で二日に分けての対決。相手チームは審査員が既に組んでいるそうだ。
 優勝した者たちに食貴の称号を授与。不正行為なしの正々堂々の勝負。

「それでは場所エリアを発表致します!Aブロック...」

 司会者によってそれぞれのブロックが発表されていく。
 俺らはCブロックの第一試合からだ。
 ベルクさんが移動し始めたので追て行きながらもテリオスや他の人も伺っておく。今ところは何もなさそうだが油断は出来ない。

「うおっ っと︎」

 油断ならいないので目を離さなかったら石につまずき転びかけたがなんとか耐えた。

「何をやっている」
「悪い」

 ベルクさんも呆れた顔で訊いてきた。
 昔言われたながら歩きは危険だと改めて思い知らされた。

 ______________

「それでは判決を!」

 審査員が決まった点数の書かれたプレートを持ち上げ、その合計点は三十点中十九点。

「六、七、六で..一九点、ミルフィー亭側の勝利です!」

 司会者がそう叫ぶ。
 相手チームの合計点は四一点、俺らは四九点。流石は王国料理長のベルクさんは二八点、俺は二一点。
 確か次の試合は約二時間後、かなり時間があるがその間に昼を済ませておかなくてならないそうだ。ベルクさんに言われた。

「アズマ様、昼食のご用意が出来て御ります。此方へ」

 昼を宝物庫にある物で適当に済ませようしたらドミニオさんにそう呼び止められた。
 案内されたのはミルフィー亭用のテーブル。そこに見たことのない豪勢な料理がそれぞれ置かれている。
 料理は当然ながらどれも美味しかったが、皆んなにも食べさせたいという気持ちの方が大きく味わうのを忘れそうになったのは内緒である。
 作り方教えてもらえないかな...

「勝者!ミルフィー亭!」

 審査員の方がそう叫ぶ。
 相手のチームの人がガックリと項垂れているのを横目にベルクさんはスタスタとミルフィーさんの側へ寄る。
 何も言わず、ただドミニオさんが用意した椅子に足を組み腰かける。俺の分もあるがあの無愛想に座っているベルクさんの隣に座る気にはならない。
 しかしドミニオさんがチラチラこちらを見て来る。多分座れっと言いたいのだろう。
 俺は渋々椅子に座ることにした。
 居心地は悪いがとりあえずこれまでのことについて考える。
 昼食を食べ終えた後の試合は二つともちゃんと勝てた。そしてさっきの試合で二日目の試合、準決勝が終わり、いよいよ次が最後の試合になる。
 他の料理人たちの対決を観ている間に次の料理を考えるようにしていたが流石に準決勝まで来たので家ではなかなか作らない物を作った。
 まあ準決勝さっきはオリジナルソースにしたサーモン?マリネだけど。
 この世界では魚を生で食べることはほぼないようで、審査員も困惑した様子だった。なんなら「こんな下手物を我々に食べろと言うのか⁈」と怒鳴った者まで出た。
 しかし一人の女性審査員が勇気を振り絞ってマリネを恐る恐る口へと運んだ。そしてしばらく沈黙が走ってから「美味しい!」の一言では止まらず長々とマリネの感想を話し始めた。
 そこからはまあ色々あったが全員満足してくれた。
 勝てたことで決勝戦へ進出したのだが、決勝戦の相手はテリオス子爵のところの料理人。
 時間がある時に少し観に行ったが特に不正などしていないように見えた。料理には・・・・ね。

「準決勝が終了致しました!これより決勝戦の準備を致しますので、今しばらくお待ちください!」

 司会者がそう叫ぶ。
 最後のことについてもう一回考えておかないとな。

 ______________

「七、八、八で...二三!先程のと合わせて...テリオス亭、四六です!」

 司会者が叫ぶ。
 俺らよりも早く作り終えたのでテリオス亭は結果が決まった。それにしても当然ながらどれも美味しそうな料理ばかりだった。
 俺は下処理などで時間がかかったが後少しで終わりそうである。

「おおっと、ここで現王宮料理長のベルク選手が調理を終えたようです!」

 そう司会者の声が聞こえたので後ろ振り返ると両腕に料理皿を乗せて運ぶベルクさん。どんな料理を作ったのか気になるがこれ以上は時間がないので作るのに専念する。
 背後から驚きの声や歓声などが訊こえるが無視である。

「えー結果は...六、七、六で...一九です」
「え?」

 無視出来ない言葉が訊こえたので振り返ると俺は目を疑った。点数の書かれたプレートは今司会者が言った通りだったのだ。

「馬鹿な!私の料理がそんな程度なはずがない!」
「えーと、この点数について審査員の方に訊いてみたいと思います。なぜこれほど低いのですか?」
「説明が必要かね?この対決は味や見た目などで点数を点ける。要は不味かったんじゃよ」
「そんなハズあるか!調理は完璧だ!」
「幾ら君が完璧と言おうが、この点数が我々が君の料理に対して出した答えだ!これ以上文句を言うのなら退場して貰う!その場合、ミルフィー亭の敗北と見做みなすがね」
「くっ」

 審査員からの言葉でベルクさんが押し黙る。視線をテリオスの方に向けると笑っている。
 周りにバレないようにゲートを使いベルクさんの作った料理を食べてみる。
 肉はとても柔らかくなっており、下の上で溶けるようになくなった。味付けもしっかりしており、香ばしい香りが口の中でも漂っているように思える。
 しかしなんと言ってもソースである。肉や肉に使った調味料にあったソースなのだが、肉を飽きさせずに食べ続けられそうなサッパリ感もある。
 素人の舌でもこれだけの味ならあの点数はやはり可笑しいと確信出来る。だが俺にはどうしようもない、今はな。
 俺は急いで、しかし丁寧に最後の仕上げをする。
 完成だ。
 俺は完璧した料理を台車に乗せて持って行く。ベルクさんのように持てないからだ。

「!どうやらミルフィー亭のもう一人の料理人も調理が終わったようです!」

 司会者の叫びに全員の視線が俺に集まる。俺は料理を審査員の前に置く。

「これは...」

 審査員たちは困惑した表情になる。
 まあ当然の反応だ。何せ、この世界では生の魚はほとんど食べないのだから。今回作った料理は『手まりずし』だ。
 
「な...何だね...これは?」
「手まりずしだ」
「この米の上に乗っているのは?」
「刺し身...生魚の切り身や海老、玉子に貝、それと」
「!魚⁈」
「それも生の!」

 俺の言葉に周りが騒めく。
 決勝戦は貴族たちやそれまで審査員を務めていた人たちのほぼ中央で行われている。ライブクッキングは地球にもあったがこれを決勝戦だけ行うのは不正などをしていないかを全員の前で公にするためらしい。
 なので貴族たちや他の審査員たち、ベルクさんも驚いた表情を浮かべている。
 審査員たちが椅子を引いて立ち上がった。

「こんな物食えるか!」
「君は何を考えているんだ!」
「そうよ!これは私どもを、いえ、料理を侮辱しているのと同じよ!」

 三人とも顔を真っ赤にするほど怒っている様子だ。
 魚は血抜きをしてからさばくのだがこちらの魚もそうだが生臭さや血の微妙な臭い、粘り気などが残ってしまう。
 それにこっちでは海などで泳いでいるうちの三分の一は魔獣だ。なので生で食べようなんて考えない。
 焼けば美味しいけどな。

「もう審査は終わりだ!」
「ええ、まさかこんな料理と呼べない物が決勝さいごに出るとはね」
「勝者は決まりましたわね」
「待てよ」

 食べずに先に進めようとするのを止める。

「何かね?もう一度機会チャンスを寄越せと言うのなら...」
「まさか忘れているのか?」
「何の事かね?」
「この対決、料理対決は開催の際に審査員に守るよう義務付けられた物だよ」
「だから一体何の事だと訊いているんだ!」
「“作られた料理は残さず食べる。それが料理を作った料理人への感謝”って」
「「「 ︎」」」
「もう一度訊くぞ、忘れてないよな?」

 審査員たちが押し黙る。
 危なかったー、調べている時に偶然見つけたけど役に立って。
 一人心の中で安堵の息を吐く。
 審査員は椅子に座り、互いに顔を見合わせてから恐る恐る銀のスプーンの上に乗っている何かの刺し身が乗った手まりずしを口へと運ぶ。

「「「あぬ.....!」」」

 沈黙が生まれた。その間は俺以外が固唾を飲んで審査員たちの様子を伺っていた。

「「「(う....う、美味い!)」」」

 三人の審査員の表情があからさまに美味いと言っている。
 使った魚の種類などを俺が知る訳もないのだが、魚は味見はしてあり、下処理で臭みや粘り気などもなくしてある。
 刺し身は酒に浸けておいても美味くなると親戚に訊いたことがあったのでどうせなので今回試させてもらったのは内緒だ。セール以外じゃ、魚とか買えないし、勿体なかったのでやってない。
 そんなことは置いておいて、審査員たちは次の手まりずしに手を伸ばそうとしていた。よしよし、ここからちょっと難しいが成功させないと勝てないかもしれない。

「んー?こんな料理食えないんだろ?一気に口に放り込んで飲み込まないのか?」
「くっ...そ、それは...」
「!そう!これは料理に感謝しなければならないからです!」
「そ、そうとも!感謝をしながらゆっくりと...これは致し方ない事なのだ。義務付けがなければこんな料理とも呼べない物など...」
「はい?別に義務付けられてるのは残らず食べる。それが料理人への感謝なら全部一気に食べちゃってもそれで感謝になるんだからそれで良いじゃん」
「ぐぅっ...」

 審査員たちは完全に黙り切った。

「何をしてる!そんな物!早く食べて、点数を点けろ!どうせ、我輩の勝ちは揺るがんのだ!」

 横からテーブルを叩いて怒鳴りつけるテリオス。
 ナイス。

「ほら、あの人もああ言ってるしさ一気に食べたら?」

 あまりやり過ぎず、しかし確実に揺るがさなくては。
 審査員たちの顔は全員蒼白に近い。その気持ちはなんとなく分かる。俺も小さい頃にレストランの外に料理の見本、サンプルとして置かれている物を見た時は辛かった。食べたくても食べれないのだから。
 だから多分彼らも同じだろう、“食べたくても食べれない”。
 だけど人間には絶対に逆らうことの出来ない欲求がある。だから...

「さあ!とっととそんな物食って、我輩に勝利をよこ...」
五月蝿うるさい!」

 まるで時が止まったかのように静かになる。
 俺は計画の成功に薄っすらと笑みを浮かべた。

「な!五月蝿い、五月蝿いだと⁈我輩に向かって何という口を!」
「事実を申したんです!貴方のせいでこの料理を味わう事が出来ないんです!」
「そうですわ!私どもはこの美味なる料理を味わいたいのです!なので静かにして下さいまし!」

 そう言ってまだぎゃあぎゃあ言っているテリオスを放置して料理に向き合い、ゆっくりと次なる手まりずしを口へと運んだ。

「んー...魚の身がプルプルだわ」
「この薄赤の物はプルッチュかね?」
「ああ、でもこの料理だと甘海老って言う」
「え ︎それプルッチュなの!」
「ええ...ん!甘い、それにこれも身が締まっているのにとてもプルプルです」
「ん..!本当にあのプルッチュか!パサパサしているのに全く身が取れない、あのプルッチュか!」
「ああ」
「信じられん。あっちも、それにこっちも...生の魚がこれほど美味いとは。それにこの貝...今まで食べてきたどの貝よりも美味い。一体なぜ?」
「それは下処理の時にちょっとな」
「それにこのお米、少し甘酸っぱいわ」
「それは酢飯、シャリとも言って寿司には大切な物だ」

 そこからはさっきまでとは全く違う絵図らとなった。相変わらずテリオスが騒いでいる。
 そして三人は全ての手まりずしを食べ終えた。
 三人は互いに顔を見合わせてプレートを持ち上げた。

「なっ ︎」

 テリオスの声が訊こえた気がしたがそれよりも他からの歓声の方が大きかった。

「えー、十、十、十で三十!満点!料理対決始まって以来、初の満点が出ました!」

 司会者そう叫んだ。

「合計は...四九!よって!ミルフィー亭の勝利です!」

 再び大きな歓声が響いた。
 ミルフィーさんとドミニオさんは泣いており、テリオスは悔しがっている。ベルクさんは立ちながら顔を伏せている。
 テリオス亭の料理人は悲しんで...いない ︎むしろ喜んでいるようにも見えるが大袈裟に喜びを表していない。
 審査員たちはほっとしている者や申し訳なさそうな顔をしている者もいる。さっきの三人もなぜか落ち込んでいる感じがする。
 さて、終わりへ向かうとするか。

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