異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

ピンチ、そして終わり

 
 キリたちの元へ走る。着いた頃にはキリの周りにいたスノウマンたちが雪へと姿を変えていた。
 しかし最後の1体を倒したところでキリがふらつき倒れかけたのを片膝を着き剣で身体を支えた。

「キリ!大丈夫かっ⁈」
「う、うん...大丈夫。魔力を、減らし過ぎたみたい...」
「そうか。ならドレインで」

 そう思いキリに触れるため手を伸ばそうとした時だ。背中に衝撃が走り14メートルほど飛ばされて地面に倒れた。

「ん...何だ?」

 起き上がるため上半身を起こすと雪が落ちてきた。なるほど、あの時と同じで雪を飛ばして来たのか。

「ごおぉぉぉっ!」
「きゃっ ︎」
「 ︎」

 エルダースノウマンは地面で体力を回復しているキリを拾い上げた。
「避ければよかった」「剣で斬りつけて脱出しろ」なんてことは今のキリには出来ない。これは俺のミスだ。
 人には個人差で魔力量が違う。そしてこの魔力が枯渇し過ぎると身体が全く動かなくなってしまうのだ。
 迅速からの一撃で決着がつくと考えていたための失敗だ。
 俺は急いでキリを助けに走る。

「ごおおぉぉぉぉぉっ!!!」

 エルダースノウマンが雄叫びをあげると、パキンッとガラスが割れたような音が聞こえた。そしてエルダースノウマンの周りをキラキラした何かが舞い始めた。
 千里眼を発動させてそのキラキラした物を拡大してみる。紅色の小さなカケラ。
 それはつい先ほど見たエルダースノウマンの集隊でスノウマンを召喚するための核だった。

「さっき壊したばかりだぞ!」

 その紅いカケラが雪の上に落ちると雪が盛り上がってスノウマンの姿で現れた。
 ざっと20数体はいそうだ。それが全てエルダースノウマンを取り囲むように立っている。

「邪魔だ、どけっ!」
「きゅ」

 目の前にちょうど出てきたスノウマンを左手首から首まで剣を走らせる。

「ごおぉぉっ!」
「ぎゅう!」
「ぎゅう」
「ぎゅう?」
「きゅう」
「くっ...うおぉぉっ!」

 エルダースノウマンの叫びに従ったかのようにスノウマンたちが俺の行く手を阻んできた。
 俺はそいつらを片っ端から剣でぎ払って行く。

「ごおぉぉおぉぉ!」
「 ︎」
「んん、んんんっ ︎」

 エルダースノウマンが叫んだのでそちらに視線を移すと腕を頭より上に上げ、氷の牙が見える口を開けながら手の下の方を離して足だけが垂れた状態にしている姿が入って来た。

「おい、まさか!」
「ごおぉぉぉ...」

 手を口元まで下げゆっくりと口を閉じ始める。

「やめろぉぉぉっ!!!」
「....」

 俺はスノウマンたちを無視して走り出す。
 走馬灯ってあるだろ。死ぬ間際に景色がゆっくり見えたりする、あれ。今も何故かそんな風に感じているのだ。

(もう形振り構っていられない!)

 俺はそう意を決する。後のことなんてこの際気にしていられないのだから。
 自分の足元にゲートを開く。

「ふんっ!」
「ごおぉぉっ ︎」
「んはぁっ」
「キリっ!」

 ゲートでエルダースノウマンの手のギリギリのところに出てキリを掴んでいる指を全て斬り落としてからすぐにキリの手を掴んで身体の軸を使ってキリを口の中から外へ手を離して飛ばす。
 そして触っている一瞬の間にキリの身体に負担がかからないよう気をつけ、尚且なおかつ素早く俺の魔力をキリへ送る。
 そのままの威力でエルダースノウマンの口の中へ入り奥へ行こうとしたがその前にゲートを開いて口の外へ脱出する。

「ごおぉぉ?...ごおぉぉ...ごおぉっ!」

 エルダースノウマンが口の中に何もないことが不思議に思い周りを見回して俺の見つけたらしく唸りをあげている。
 しかしそれは俺も同じだ。
 大切な人を食おうとしたんだ。怒るに決まっている。

「「「「「ぎゅうっ!」」」」」
「ぎゅぅぅ!」
「ぎゅうう!」
「!」
「「「「「「「「 ︎....」」」」」」」」

 絶対にエルダースノウマンあいつを殺す!
 その意によって恐怖でその場にいたスノウマンたちが全員気を失った。東が放った殺気によって。
 東の放った殺気はスノウマンたちでは収まらず、仲間たちにも恐怖を与えてしまった。

「何だこりゃぁ。寒気やら震えが...急に」
「これってアンタレスでも感じた、アズマの殺気」
「くっ」
「苦しい」
「ニーナ!しっかり」

 全員のレベルがスノウマンたちより高かったおかげで気を失うことはなかったが、それでも何かしら影響を受けてしまった。
 みんなの声を訊き我に返った東は急いで心を落ち着ける。

「ごおぉぉぉ」

 殺気の影響はエルダースノウマンにも及んでいたらしく心が落ち着くまでエルダースノウマンは動こうとしなかった。

「...よしっと」

 心を落ち着け終わったので核のことをみんなに伝えるためまずヒューズさんの元へと走る。
 周りには気を失い核の状態になっているスノウマンや、身体を保って倒れているスノウマンと分かれているが今は放っておこう。

「...!ごおぉぉっ!」
「「「「「「「「「 」」︎」」」」」」」

 エルダースノウマンも少し遅れて我に返ったらしく再び叫び出した。その声にみんなも我に返ったようで身構え始めた。
 横目で後ろを見るとファフスさんが槍でエルダースノウマンの手の甲を突いていた。もちろんだがエルダースノウマンの胸に傷が治っていた。しかし紅い核はなかった。

「あ、ヒューズさん」
「ん、おまえか。今何が起こった?それにこいつらは一体どうなっている?」
「それは後で説明するから、今はファフスさんと一緒にエルダースノウマンの核を捜すのを手伝ってくれ。核はあいつの身体のどこかに必ずある」
「...そうか」

 ヒューズさんは何も言わずに俺が来た方へと走って行った。
 次はバジルとナルガスさんだ。

「バジル、ナルガスさん」
「アズマ、さっきのはもしかして君かい?」
「説明とかは後でするから、今は全員であいつの核を捜したい。核は身体のどこかにある」
「...確証の方は?」
「ある」
「....分かった、信じよう。行くよ、ナルガス」
「....」

 ナルガスさんはやはり何も言わずバジルと俺が来た方へと走って行った。

「バジル、違う!もう少し右だ!」

 違う方へ行きかけていた2人に慌てて正しい方角を教える。
 2人がだいたいの距離を離れたことを確認してからゲートを発動する。バレた時はその時何とかしよう。
 ゲートをキリたちがそれぞれいるところに繋げて集合する。

「アズマさっ、きのは、何だった、の?」
「アズマ、あんたまた」
「さっきのはアズマの能力なのかい?」

 ゲートを繋いぐと次々と同じ質問をされた。殺気のことを知っていたサナは少し怒っており、キリは呆れていた。
 そんな彼女らをなだめてからヒューズさんたちにも言ったことを伝える。

「なるほどね」
「でもさっきからアズマたちが攻撃しているのに倒せていないってことは核は頭にあるんじゃないの?」
「それはどうだろうな。ただ攻撃が浅くて届いていないだけかもしれないからな」
「そっか」
「だから大変だろうがキリに見つけてもらいたい」
「分かったわ」

 そう言ってキリが目を瞑り、意識を集中させる。

「核は...サナの言った通り頭にあるみたい」
「よし、それじゃあキリが核を、俺たちはキリのサポートだ」
「「「「「?」」」」」

 全員がよく分からないという顔をする。

「アズマ、さぽーとって何?」
「え?...あー、手助けって意味だ」

 実際は支えるとかだったはずだけどそんなに間違ってないからいいだろう。しかしこの世界って地球の通じる言葉と通じない言葉があったりするから少し大変である。
 とりあえず意味は分かってくれたようなので俺たちもエルダースノウマン目掛けて走り出す。
 今回は先にキリの魔力や体力を回復させておく。

「おらぁっ!」
「ごおっ!」
「ヒューズ!」
「分かっているっ」
「ごおっ...ごおぉっ!」
「うおぉっ ︎」

 俺たちが着くと、作戦のことを伝え忘れていたのに戦闘をしていたエデルさんがエルダースノウマンのほぼ真っ正面から殴りかかっていた。
 それは右腕でガードされてしまったがそれを待っていたかのようにヒューズさんが左足のすねを俺が見えただけで11回のラッシュを喰らわせていた。ラッシュを終えるとヒューズさんは背後へ下がった。
 殴られたところは3つほどだが拳の跡が現れていた。
 エルダースノウマンがヒューズさんのラッシュによって体勢を崩しかけたが足を前に出して体勢を保ち、着地したばかりのエデルさんに殴りかかった。
 それをエデルさんは間一髪で避ける。

「待たせた」
「遅いぞ」
「悪い」
「作戦はおまえたちに任せる」

 ヒューズさんはそう言って再びエルダースノウマンの方へ去って行った。
 それじゃあ始めるか。

「リリー、能力で俺の力を上げてくれ」
「うん。『筋力増加/付与』」

 リリーがそう言うと彼女の前に文字が現れた。リリーはそれを俺目掛けて指で弾いた。
 文字が俺に触れると文字が消えた。
 分からないが多分能力は付与されたのだろう。

「俺があいつの右腕を何とかするから、サナはバジルたちと気を引きながら攻撃を、ユキナとニーナは後方からみんなのサポート、キリは俺の合図で核を攻撃。リリーはキリに筋力増加と魔力に対しての能力を付与。出来そうか?」
「大丈夫、付与出来るよ」
「よし、なら行動開始だ」

 俺たちはそれぞれの場所へ移動する。
 あの腕を何とかする。自分で言っておいてなんだが、かなりの難題だな。指ですら勢いよく振らないと斬り落とせなかったのにな。
 などと自分で自分の発言に苦笑しながら、地面を思いっきり蹴る。

「ま、難題なだけで無理な訳じゃないけど...」
「 ︎ごおっ!」
「っな!」
「っ ︎」

 肩辺りまで飛んだところでエルダースノウマンが俺の存在に気づき、アッパーをするように攻撃して来た。
 しかし俺はお構いなしに剣を振るった。リリーの筋力増加のおかげでエルダースノウマンの拳諸共もろとも肘まで裂くことが出来た。
 だが裂いただけでは少しすればくっ付いてしまうので斬り落とさなくてはならない。
 痛みに苦しんでいるエルダースノウマンから少し視線を周りに向けるとキリは俺らから30メートルほど離れたところで剣を構えて待機している。リリーの前に3つほど文字が宙に浮かんでいる。
 バジルが小刀を投げるとそれをエデルが柄を殴って加速させてエルダースノウマンの腹に突き刺した。
 さらに小刀が刺さっている周りに雪の槍が5本飛んで来て刺さる。飛んで来た方を見るとニーナが宙に雪の槍を浮かせていた。
 その隣でユキナもニーナが作った槍を構えている。そしてそれを軽く投げると俺が裂いた方の腕の肩に刺さった。
 サナやヒューズさん、ナルガスさんやファフスさんはそれぞれの武器や能力を使って戦っている。
 それを確認したところで俺は最後の攻撃の構えに移る。

「ごおっ!ごおっ!ごおぉぉぉぉぉっ!」

 様々な攻撃の痛みの苦しみからかエルダースノウマンが左腕を左右に振ったかと思うと雄叫びを上げた。
 しかし雄叫び急にやめたかと思うと左手を胸のあたりに持って行った。そこには確かに何もなかった。だが雪の色が徐々に変わっていき紅い核が出来始めた。
 だがその間に俺は飛んでいた。

「ふんっ」
「ごっ ︎」

 そのまま力任せに勢いよく剣を振り下ろし、今度こそ肩から右腕を斬り落とした。
 腕を斬り落としたことで一瞬のひるみが生じた。
 狙うなら今しかないな。

「キリ、今だ!」

 そう叫んでエルダースノウマンが叫んでいる間に宝物庫から取り出しておいた雷光核を頭あたりに投げる。

「...はあっ!!」

 そう威勢の良いキリの声が訊こえたかと思うとキリが俺がいるよりも、エルダースノウマンから7メートルほど離れたところに着地した。
 キリの無事を確認したところで視線をエルダースノウマンへと戻す。
 エルダースノウマンは声を出すこともなく身体が徐々に雪へと変わり、腕や身体の少しがボロボロと崩れ落ち始めた。

「ごぉ...ごおぉぉぉぉ....」

 エルダースノウマンは最後の力とばかりに前に突き進んで来たが一歩前に出ただけで自身の体重にもろくなった脚が砕け、それにより体勢を崩しそうになったがそれを左手で支える。
 だが無論その腕も衝撃によって真ん中からヒビが走り砕け散り顔面から雪へ倒れた。それにより地が少し揺れた。

「ごおぉぉぉ....」

 首だけで顔を上げ、こちらを睨みながら低い声で唸る。
 エルダースノウマンは唸りながら頭も崩れ落ち、完全に雪へと姿が変わった。
 エルダースノウマンがいたところには小さな雪山が出来ており核が転がっているのかが確認出来ない。

「終わったのか?」
「ああ」

 エルダースノウマンの姿が雪へと変わるとつい先ほどまで激しく降っていた吹雪が収まり、アトラス州に来た時のようにしとしとと降る勢いに変わった。
 それにより視界が見易くなり、気づけばヒューズさんが俺の側まで来ていた。
 ヒューズさんはそれ以上何も訊かずにバジルたちの方へ去って行った。

「アズマ」

 ヒューズさんと入れ替わる感じでサナたちが駆け寄って来た。キリもリリーに支えられながら近づいて来ていた。
 魔力を使い過ぎたのだろう。キリの手を取って魔力を送る。リリーやユキナ、ニーナも魔力をかなり消費しただろうから3人にも魔力を送る。
 気のせいかサナの表情が険しい気がする。余ほど疲れたのだろう。

「やったのよね?」
「ああ」

 キリの能力だ。外しているはずがない。そう確信しているのでヒューズさんの質問にも曖昧な返事ではなくはっきりと答えたのだ。

「おーい、アズマ!そろそろ行かないと陽が暮れるよー!」
「帰るか?」
「ええ」
「うん」
「はい」
「ん」
「うん」

 俺たちはそう言ってバジルたちの元へと歩き出す。
 忘れずに残ったスノウマンやスノウマンの核を破壊して行く。その数76体分。
 多過ぎだわ!

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