異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

言語、そして料理

 
 東がユキナの救出に向かい、奪還している一方で、東に後のことを任されたニーナは一生懸命その少年、もとい少女の看病をしていた。
 看病と言っても怪我の処置はしてあるので汗を拭いたりするだけだ。

「ユキナさん、無事だといいなぁ」

 そんなことを呟きながら少女の額に乗せてある布を取り、たらいにある水で冷やしてから絞りもう一度額の上に乗せる。

「...ん....んん...」

 乗せて手を退かそうとしたところで少女の目が開き始めた。

「.... ︎」

 そして数回瞬きをして視界がはっきりしたのだろう。少女はニーナの顔を見るなりその顔は驚きの表情へと変貌し、ニーナの手を振り払う。そのまま慌ててニーナから距離を取り壁まで逃げる。

「あ...あ、あの」
「近寄るな!」
「 ︎ご、ごめんなさい...」

 少女に近づこうとしたところですごい剣幕で止められ、つい謝ってしまった。

「....ここは...どこだ?」
「えっと...あの...や、宿屋です...」
「宿屋?ボクをどうする気だ?」
「?」

 ニーナは少し戸惑ってしまった。確かにニーナはこの国の言葉は多少だが分かる。しかし少女がテンパっているせいで早口になり上手く聞き取ることが出来なかった。

「も...もう一度を言ってください」
「はっ?」
「ひぃっ ︎ごごご、ごめんなさい!」
「....あなたってここの国の人?」
「い...いえ違います」
「獣族...これなら分かる?」
「 ︎」

 少女が少し考えてから話したのはニーナやサナのいたアルタイルの言語だった。

「アルタイルの言葉が話せるの?」
「ええ。少しだけどアルタイルでも過ごしたことがあったから」

 ニーナは少しホッとする。

「それで?」
「え?」
「ボクを宿に連れて来た理由。君は獣族だから奴隷か?」
「ブンブン(首を左右に振る)」
「じゃあやっぱり何でボクをここに?君を見ているとボクを捕まえて売ろうと企んでいるようにも見えないし」
「それは...」

 ニーナは少女に全てのことを話した。自分たちがここに来た時に男に追われている彼女見て助けようと思ったこと。しかし怪我を負った彼女を自分と姉で治療をするためにこの宿に運び入れたことを伝えた。
 少女は少し考えたあと、口を開く。

「今はあなたの言うことを完全に信じることは出来ないけど、助けてくれたことには感謝してる。ありがとう」
「そんな...」

 グゥゥゥゥゥ!ギュルギュルギュル!
 ニーナが照れた顔を浮かべたかと思いきや、少女のお腹からキリにも負けないような腹の虫の音が部屋に鳴り響いた。

「あらら...」
「ご、ご飯食べられそう?」
「食べられるけど。ボク、お金持ってないし」
「私が出すから、大丈夫ですよ」
「それは無理。これ以上、見知らぬあなたに助けてもらえないし」
「で、でも...」
「大丈夫。ボクは食べなくても平気だから」
「そんなこと」
「何の話?」

 ニーナの言葉を遮るようにしてサナとキリが部屋に入ってきた。

「お姉ちゃん、キリさん」
「あれ?あの子、目が覚めてたんだ」
「うん」
「でも寝てなくて大丈夫?」
「...平気」
「「「 ︎」」」

 キリ自身は自然に体調を確認したのだが、すぐにしまったという表情へと変わった。しかしキリの問いに答えた時の少女の言葉はベガの言語だった。
 これには3人は驚きを隠せなかった。

「私の言葉が分かるの?」
「ああ。ボクは色々な国に住んでいたからね」
「すごい」
「ええ」
「うん」

 サナの言葉にキリもニーナも同意する。ニーナは日常会話と非常時の言葉くらいしか話すことが出来ないので、それをさらに超えた少女に驚愕するしかなかった。

「えっと...で?さっきは何の話をしてたの?」
「...あ。えっとあの子、お腹が空いているみたいでお金を持ってないって言うから私がご飯をご馳走しようとしたけど止められちゃって」
「なるほどね」
「なら作ったのを味見してもらうことにしない?」
「それいいですね」
「うん。やるね、キリ」
「えへへ、ありがとう」

 キリの提案に賛同の声が上がり、提案者のキリも笑みを浮かべる。

「じゃあ、私が取って置きの料理で」
「「それはダメ ︎」」
「うぅぅ...」

 サナが張り切ろうとしたとこで2人に大声で止められた。サナは少し残念そうな表情を浮かべる。
 そしてお腹を空かせている当の本人を無視して進められていく話にただただ少女は戸惑いを浮かべるだけだった。

「どんな料理、作るつもりだったんだろ(ボソ)」

 そう誰にも聞こえない小声で頭の中を横切った疑問を呟く。
 
 話が決まりニーナ、キリや食材の買い出し。サナが少女のお世話である。理由は、まあ言わない方がサナのためにもいいだろう。

「....」
「.....」

 しかしキリとニーナが出かけてからしばらく経つが、少女とサナの間に会話などは一切ない。
 ただただ気まずいだけである。

「ねぇ?」

 少女は椅子に腰掛けながらサナに声をかける。

「何?」
「その....君たちはどうしてボクを助けたんだい?」
「....え?」

 サナは思いも寄らない質問に思わず聞き返してしまった。

「いやね、君たちはこの国に用があったから来たんだよね?」
「そうよ」
「それでいつこの国に?」
「今朝...だけど」
「今朝 ︎てことは、ボクがちょうどあの男に絡まれてた時じゃないか。余計に何でボクを助けようと思ったの?赤の他人なのに」
「そりゃあ私も着いてすぐに面倒事はごめんだったけど、アズマがもうあなたを助けに行っちゃったし」
「へー。そのアズマってどんな人?」
「うーん...優しくて強い男、かな。頼りない時もあるけど、私たちを大切に想ってくれているのは確か。今だって仲間のために一生懸命だし」
「そうかい。...君は....君って何て名前なんだい?」
「そっか。自己紹介とかしてなかったもんね。私はサナ」
「サナね。ボクは、リリースティア。リリーかティアって呼ばれてる。よろしく、サナ」
「こちらこそよろしくね、リリー」

 2人は朗らかな笑みを浮かべて、相手の名前を口にした。
 そして少女、もといリリーの表情は笑みから悪戯(いたずら)を企んでいる少年のような笑みを浮かべ、口を開く。

「さて、話は戻すけど。サナはそのアズマって人のことが好きなのかい?」
「 ︎ ︎...えっ!あっ。えっ!あの...その ︎」

 リリーの思わむ質問にサナは再度驚かされた。
 サナの頬は一瞬にして真っ赤になり、テンパってしまい言葉にならない言葉を口に出していた。
 するとそんな中部屋の扉が開いた。

「「ただいま」」
「おっ!お帰り!早かったわね!」
「う...うん。お店が近かったから」
「どうしたの?お姉ちゃん。そんなに慌てて。それに顔も赤いみたいだ...」
「大丈夫!大丈夫よ!私は全然元気だから!早く作りましょ!私は味とか皿洗いとかをするから!リリーはここで待っててね⁈」

 ニーナが額を触ろうと手を伸ばしたのを掴む。そしてこの場を早く脱したいサナは早口で指示を出し、ニーナとキリの手と引いて早々と部屋を出て行った。

「あらら...アズマ...か。ボクを受け入れてくれるといいけど....」

 リリーは静かな部屋の中、ポツリとそう呟く。

 ______________

「「「ごちそうさま」」」
「?」

 4人は食事を終え、キリ、サナ、ニーナは東に教えてもらった言葉を合掌して告げる。その言葉の意味を知らないリリーは小首を傾げる。
 料理はこの宿屋の厨房を借りてニーナが作った。サナはともかくキリもあまり料理の手伝いはしていない。元々彼女は食べる方が専門である。

「それにしても、あの時のキリには驚いたわ」

 一息ついたところでサナが厨房の時のキリを思い出す。

「うん。キリさんってお料理、苦手だったんですね」
「ごめん...」

 キリは自分の行動を思い出し、頰を少し赤く染める。

「まさか、野菜を切るのに普通の包丁じゃなくてロンナイフで切ったもんね」
「うぅぅ...」

 キリの頰がさらに赤くなる。
 ロンナイフとはふぐ引という包丁に似た物で、刃が長く、刃先も直線的なので短めの刀に見えなくもない。
 本来魚など(ふぐ引はふぐの上身を切り分けたり刺身にしたりするための専用の包丁)で使う包丁をキリは知らずに使ったのだ。
 最初は普通の包丁で切っていたのだが綺麗に切ることが出来ず、悩んでいると、そのロンナイフが視界に入り、多少手に馴染ませてから野菜を宙に投げ切った。
 キリの剣の腕前はよく、切られた野菜は等間隔に綺麗に切られていた。
 そのあとは、ほぼニーナが料理を作った。先ほどの宿の亭主にもお礼ということで少しおすそ分けした。

「もうその話は許して」
「えへへ、ごめんね。キリ」
「私もすいませんでした」

 そんな3人の話を笑いながら聴いていて、リリーは久しぶりに“楽しい”という感情を抱いた。




コメント

  • そら

    ストーリー性があって面白いです。
    今後が楽しみです

    0
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