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短編︰東方禁恋録

乙音

第17話 記憶の水晶

「これが、記憶の水晶よ」

そういって、パチュリーが自慢げにそれを見せた。

◆◆◆

今日も、いつも通りに霊夢と大図書館に来ていた。
すると、パチュリーが本を読むのをやめて、私たちに話しかけてきた。

「とてもいいものが手に入ったのよ」

と。
その良いもの、というのが【記憶の水晶】と言うらしい。

何でも、その人の記憶を
思い出すことが出来るらしい。

そんな都合の良いものがあれば、苦労なんてしなくても
済むのだが……私はそれにかけてみることにした。

もう今はヒントも何も無いのだ。
なんだって試してやる!

まあつまりはヤケになっているだけなんだけど。
まあ、それはともかく。

パチュリーはすごい魔法を淡々と使っているし、
嘘をついたことだってない。

だから、つい期待してしまうのも仕方がなかったのだ。
それで私が試して見たい、と言ってパチュリーが持ってきたのがこれだった、というわけだ。

◆◆◆

「本当にこれで記憶を呼び戻すことが出来るのかしら?」

「私が言うんだから確かよ」

透明な水晶は、シンプルなのに、いや、シンプル故か、
ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

まさに魔法の道具というような気がする。

「じゃ、藍夢。
この水晶に触ってみて」

そう言われて推奨に触れてみると、
キラッのその水晶が輝いた。

「………………」

しかし、それだけだった。
どれだけ待ってみても、変わる様子はない。

やっぱり、記憶が戻るなんて都合のいい道具、
あるはずがなかったのだ。

まあ初めから期待はしていなかったし、いいかな。

「ちょっと、やっぱりなにもならないじゃない!」

パチュリーを責める霊夢を引きずって
博麗神社に帰ろうとした時、ふっとまぶたが重くなった。

眠気に負け、私は思わずまぶたを閉じてしまった。

◆◆◆

「気持ち悪い!」

「なんでうちの子は変な力を持っているのよ……」

人間離れした身体能力。
それだけなら、まだ良かった。

私は、変な能力を持っていた。
だから……それが全ての元凶だった。

親や友達から憎悪の目線を向けられ、
誰も私とは遊んでくれなくなった。

「あの子はおかしいから、遊んじゃいけません」

「あのこと遊んでいると、いつか殺されちゃうわよ」

「なんであんな子が生きているのかしら。」

「恐ろしい。
早く死んでくれたらいいのに」

「うちの子も危険にさらされそうで怖いわ」

「もしかしら、あの子の母親も人間じゃないんじゃないかしら?」

「お父さんだって、もしかしたら怪物かも……」

「あのこの両親とは、距離を取りましょう」

私がいたせいで、お母さんとお父さんまで孤立してしまった。
だから、私は2人に捨てられた。

寒い道をさまよって、ひたすら食料を探す日々。
やがて、もうすぐ死んでしまう、と幼いながらに察した。

それで、私は-

◆◆◆

「はっ!
これも、夢……?」

目が覚めると、パチュリーと霊夢、咲夜がいた。

「大丈夫?! 
藍夢!」

「え?うん、私はどうして……」

「水晶に触れた途端、倒れたのよ。」

「そうなんだ……」

「痛いところはない?」

「うん、全然大丈夫。」

「何か、変わったところはない?
例えば、記憶が戻ったとか」

「ううん、いつも通りだよ。
心配かけてごめんね。」

「いえ、大丈夫よ。」

「ごめん、ちょっと私家に帰るね」

「え、ええ。分かったわ。」

3人に見送られ、私は紅魔館を後にした。

◆◆◆

まだ頭がズキズキとする。
流れ込んだ大量の情報量に、頭が追いつかない。

いつもと変わらない、なんて嘘だ。
あの水晶の効力は、本物だった。

昔の記憶が、戻った。
ずっと謎だった、私の正体が。

でもこれは、霊夢たちにバレちゃいけない。
これがバレてしまったら、霊夢たちを悲しませることになるだろうから。

これでようやく、全て納得が言った。
神隠しの異変についても、全て解決した。

ふっ、と下を向いて、力を入れる。
そうでもしないと、泣いてしまいそうだったから。

幸せには終わりがくる。
それは分かっていた。

でも、それでも。 
こんなのあんまりだよ。

……私は、外の世界から来た人間で。
そもそもここは、幻想郷では無くて……。

私が創った、ただの幻想、ただの夢の世界だったなんて。

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