短編︰東方禁恋録

乙音

第13話 神隠し

それから、1年、いや、2年ほど経ったかもしれない。
私はもうすっかり幻想郷の住民と仲良くなった。

例えば、フラン。
本当にフランとは仲良くなった。

狂気の少女とも言われていたフランだが、
今やすっかり可愛らしい少女となり、紅魔館の皆とも仲良くしている。

寝てばかりの門番の美鈴や酒好きの
萃香ともすっかり仲良くなった。

勿論さとりやこいし、果ては正邪や永琳さん、
幽々子さん、妖夢、てゐ、鈴仙などとも仲良くなり、すっかり幻想郷の住民と化した。 

けれども私の正体は分からずじまい。
それが本当に謎で、私としても気になるものだ。

どちらにしろ今の生活は楽しいし、
別にそれも解明したいとは思わない。

だって、今が幸せだから。
だから、大丈夫。

このままでいい。
……この時は、そう思っていた。

◆◆◆

今、幻想郷では大きな異変が起こっている。
それは、神隠しともいえる現象で、突然人が消えたりするのだ。

もうすでに10人以上の被害が出ていて、
博麗の巫女や、妖怪の賢者である紫さんすらも手をつけられないらしい。

この大異変で妖怪達も混乱しているらしく、
幻想郷中で大規模な殺害事件すらも起こる始末。

これには霊夢も本当に困っている
らしく、幻想郷では皆が錯乱している状態だ。

特に咲夜は、レミリアが神隠しの被害にあい、
泣きわめいて発狂する始末で、紅魔館は咲夜を宥めるので精一杯らしい。

他にもあちこちで事件が起こり、
紫さんもどうしたものかと頭を抱えている。

「どうしようかしら……」

博麗神社で、霊夢がそう呟いた。

「神隠しのこと?」

「ええ。こればかりは、私も手がつけられないわ。
お母さんだったら、どうしていたのかしら」

頼りになる存在だった博麗の巫女。
その存在がなくなった今、霊夢がその代わりをしなくてはならなかった。

しかし、博麗の巫女といってもまだまだ幼い霊夢。
必死に背伸びをしても、それはどうしようもない事実。

ましてや、かつてない大規模な異変なんて
解決出来なくても仕方がなかった。

けれど、霊夢は博麗の巫女として大きなプレッシャーを
感じているらしく、今もああでもないこうでもないと悩んでいた。

「……時々考えてしまうのよね。
お母さんがいたら、こんなことにはならなかったのかもって。
お母さんは優秀な博麗の巫女だったから、こんな異変すぐ解決出来たかもしれない。
それに、解決出来なくても幻想郷のパニックをおさめることは出来たかもしれない。
何も出来ない自分が情けなくてしょうがなくなるのよ」

霊夢はそう言って俯く。

「…………そんなことないよ。
確かに、霊夢はまだ幼いし出来ることも少ない。
でも、誰よりも努力しているでしょ?
いつか、霊夢も霊夢のお母さんみたいな立派な博麗の巫女になれるよ」

「……藍夢……ありがとう」

霊夢がそう言って、にこっと微笑む。
やっぱり、霊夢はすごい。

私は、こんなに頑張れない。
お母さんが亡くなってしまって、笑って居られない。

でも霊夢は、立ち上がったんだ。
自分の力で、誰にも縋らずに。

ものの1日でそれを乗り越えてしまうなんて、
やっぱり霊夢は凄い。

でも。
まだ霊夢だって幼いんだ。

お母さんは大事だし、失ってしまったことへの
喪失感は得体の知れないほど大きいと思う。

心做しか、笑顔が引きつって
いるようにすら思う。

きっとまだ霊夢は、悲しみを乗り越えてない。
これからもずっと乗り越えられないだろう。

そんなもの、乗り越えられるはずがないんだ。
でも、それでいい。

それをバネにして、これからも頑張って
いける力を霊夢は持っているから。

そこで挫折したりしないから。
お母さんのことを忘れることなんてできない。

だから、忘れなくてもいいんだ。
お母さんの事を心の支えにして頑張っていけばいい。

大切なのは、諦めないこと。
霊夢には、沢山の友達がいる。

皆が支えてくれる。
でもやっぱり、霊夢にはまだ難しいことかもしれない。

お母さんが亡くなってしまっても
博麗の巫女として頑張るなんて。

いつも笑っているなんて。
そんなこと、誰だって出来ない。

悲しいものは悲しいし、
それはどう足掻いたってどうしようもない。

だから。
もしも霊夢が耐えきれなくなって泣き出してしまったら。

もしも、霊夢が笑っていられなくなってしまったら。
私が支えよう。

だって私は、霊夢の家族みたいなものだから。
霊夢がすごく大切だから。

だから……霊夢を、守ろう。

私は、霊夢を見つめてそう思うのだった。


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