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短編︰東方禁恋録

乙音

第10話 一体何者??

「霊夢…………っ!!!!」

霊夢に会いたい。
ただ、それだけのために私は博麗神社へと走って、走って、走って、走って。

やっと、やっと会いたい人の姿を見つけた。
「霊夢!」

「どうしたのよ、藍夢。
そんなに慌てて……きゃっ、」

霊夢を見ると、一瞬で汚い感情が嘘のように溶けていく。
霊夢を見て、一気に心が暖かくなるのを感じた。

「霊夢う………………!!」

反射的に霊夢に抱きついて、私は泣いていた。
おろおろとしている霊夢を見ると余計に安心して涙が止まらない。

何故か、【幸せ】だと強く感じた。
永遠に、こんな時が続けばいいのにと心から願った。

だけど。だけど。
やはり神様というものは意地悪で。

たった一人に永遠の幸せをあげることは出来ない。
幸せにはいつか、終止符が打たれる。

けれど、この時の私は本当に、こんな幸せな日々が
ずっと続くと思っていた。

◆◆◆

「で?どうしたのよ、あんなに泣いて……」

すっかり涙が枯れた頃、霊夢が心配そうに聞いた。
いつもヘラヘラと笑っている私だからこそ、号泣していた事に驚いたのだろう。

「ん〜、本当にくだらないんだけど……悪夢を見ちゃって」
「悪夢……?」

「はは……この歳で悪夢を見たくらいで泣いちゃうなんてね。
涙腺が緩くなったかな」

乾いた笑みを零すと、安心したように霊夢が笑った。

「もう、悪夢くらいであんなに泣いてたの?
藍夢も、可愛いとこあるのね」

悪夢くらいで。
その言葉に妙に反応してしまった。

「ちがう……あれは本当に、リアルで……現実味があって……。
まるで自分の事のように、怖かった……」

私がボソッと呟くと、霊夢が首を傾げた。

「ん?何か言った?」
「……いや、何も言ってないよ」

まただ。
またあの感情が浮かび上がる。

苦しくて辛くて…………。
誰かを憎んでいるはずなのに、誰かに助けを求めている。

『………………助けて』
「……っ?!」

あの、子供の声だ。
夢の中に現れた、あの子供の。

「どうしたの?藍夢」
「……ごめん、霊夢。私帰るね」

「え?ちょ、藍夢っ……!!!」

呼び止める霊夢の声を無視し、家へと走る。
勝手に来て号泣して、勝手に変えるなんて自己中だ。

分かってる。分かってるよ。
けど……どうしようもなく苦しくて辛くて悲しくて。

あのままだと、霊夢に当たってしまいそうだった。
だから、逃げた。

もう、この感情なんて嫌だ。
これっぽっちもそんなこと思っていないのに、醜い感情が溢れてきて止まらない。

「はぁ……はぁっ……」

段々と呼吸が荒くなり、胸がつまりそうだった。
……さっきの子供の声。

一体何だったのだろう。
夢の中の子供。

かぐや姫みたいに艶やかで美しい黒髪。
……あれ?かぐや姫って何?

不思議と、幻想郷ではありもしない言葉が浮かんでくる。
いつも、そうだ。

幻想郷ではない言葉や物を、私は当然のように知っている。
生まれた時から、それが当たり前のように染み付いていた。

それに、艶やかな黒髪……??

『わぁ、あいはすごくきれいなくろいかみだね!』

霊夢に言われた言葉を思い出す。

「…………なんで、私」

今まですっかり忘れていた。
自分の髪の毛を。

肩まで伸びた艶やかな黒髪。
夢の中のあの子とそっくりだ。

いやいや、早まっちゃいけない。
だって、幻想郷にだって黒髪の子はいっぱい居るでしょ?

ドクドクと五月蝿い心臓をギュッと抑えた。
ありえない、ありえないから。

でも、私は夢の中の子供と同じように、
髪をポニーテールにしてるし。

……ポニーテール?
ポニーテールってなんなんだろ。

一気に疑問が湧き上がる。
私は一体何者なのか。

なぜこんなに知識があるのか。
何故、目が覚めたらあんな所にいたのか。

何故、記憶喪失になったのか。
親はどこにいて何をしているのか。

幻想郷の住民ではないのか。
なんでこんなに醜い感情が現れるのか。

あの悪夢は一体何なのか。
これが解明される日は来るのだろうか。

正体のしれない自分にゾッとする。
……一体、私は何者なのだろう。

結局、ひたすらそれを考えているうちに夜は更けていった。

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