私の街

樹子

act3.誰かを嫌いになる方法



私はすっかり一さんのグループに馴染んでいた。
コンビニのバイトが終わると急いで電車に乗って一さん達のところへ向かう。


「おつかれー!」
「化粧落ちてね?」
「うるせ(笑)疲れた!飲む!」


居心地が良かった。
なんだかみんな兄弟みたいで、私にも優しくしてくれて、一さん抜きにしても私はこの人達が好きだった。

慣れてきたお酒をグッと喉に押し込む。じわりとあったまる身体が心地良い。


「はあ、幸せ」


仕事終わりの一杯というやつを噛み締めるには若過ぎるかもしれないが、それも悪くないんじゃないかな、なんて思っていた。


「そういえば夏乃、名古屋の遠征ライブ来るんだっけ?」
「あ、うん行くよ。バス乗ってく」
「ガチじゃん(笑)」


そう。一さんのバンドは名古屋でライブをするらしい。
私は一さんのライブを始めて見た時から、そのバンドのライブだけは皆勤賞だった。見ると泣くほど彼の曲を好きになってしまっていたし、名古屋だから行かないなんていう選択肢は絶対に無かった。

だからバスに乗って行くことにしているわけだが、始めてのバスでの遠出。少し怖くも思う。
帰りは新幹線で帰ってこようと思っているから勿論バスの予約はしてない。


「楽しみ、名古屋とか行ったことない」


後一つ。私には決めていることがあった。

名古屋の遠征ライブが終わったら一さんとのそういう関係を終わりにすることを決めていたのだ。

私が行くライブハウスは一さんとの彼の好きな人が始めて出会った場所であることを私は知っていた。だからこそ私は行こうという気持ちをより強めたし、諦め時は今だとなんとなく思っていたのだ。

人を嫌いになることは難しいけど、嫌いにならざるともなんとか関係を修復し変えていきたいと思ってはいた。
ただ普通の友達に。本当の意味で支えられる友達に。
なれたらいいなと私はなんとなく思っていた。








私は一さんのライブの後、彼のバンドのベーシストと付き合うことになり、一さんとの関係は何も無かったかのように静かに終わっていってしまった。
味気ない終わりではあったが飲みには行くし話もする。

きっと望んだ関係になれたんじゃないかなとなんとなく思っている。


彼はまた別の女の子を月替わりに隣に置いて、寂しさを埋めていた。そういう人だ。
相変わらず大好きな人への曲を書いてはいたけれど。

それはそれは寂しがりなんだなと感じていたから、別に恨めしくはなかった。

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