私の街
prologue
私が10代を過ごしたこの街は。
居酒屋が多くて、夜になると賑わって、終電が過ぎると誰もいなくなるような街だった。
私はこの街で沢山の愛に触れた。
ぽっかりと空いてしまった穴をひたすらに埋めるように、人を愛したり、嫌ったり、裏切ったりした。
嘘もついたし、お酒も飲んだし、煙草も吸った。
決して見本と言えるような生き方をしてきたとは思ってはいないが、私はこれで良かったと思っている。
今日、私はこの街を離れる。
成人式を終え、年度も変わる。潮時だ。
人も、周りも、変わってしまった。あの頃私と共に歩いた人達はそれぞれ別の道に踏み出し始めている。
だけど私は忘れたくない。だから記す。
死ぬような思いもしたけれど、私はこの街に来て良かった。
"彼"が運転席に座る車の助手席に乗り込む。この小さな、思い出の塊のようなアパートとももうお別れだ。
「名残惜しい?」
「ううん、もう大丈夫。行こう」
これは私がひたすら足掻いた話。
愛されず、邪険にされ。
人と接することを怖がって、依存することに慣れた。
こんな私が、幸せになってしまう話。
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