神色の魔法使い

門永直樹

1章13話 青く高い秋の空に

「ちょっと待ってくれ……!シスター。こりゃ本物のカタビラ草じゃないか!」
「えぇ……。カタビラ草だと聞いております。それでご相談しているのですが……。」


***


街から来る行商人のサザンは、いつも孤児院の子供達が森で集めている薬草を買い取っていた。
この日もいつもと同じく買い取った薬草の代金をシスターに支払って帰ろうとした時、シスターに呼び止められたのだ。

「サザンさん、実はうちで育てている薬草が随分と増えたので売りたいと思うのですが……。」
「え?薬草を育ててるのかい?そりゃまた器用なことで。良いぜ。物が良けりゃいくらでも買い取るぜ。」


***


「いや……。シスター、こりゃ買い取れないよ……。」
「そうですか……。物が悪いという事でしょうか?」
「いやっ!逆だよ!物が良すぎるんだよ!こんなに葉が大きくて花まで咲いてるじゃないか……。俺の手持ちのお金じゃ足りない……、全然足りないって事さ!」

驚いて大声を上げるサザンの言葉の意味にシスターもまた驚いた。

「そうなんですか………?!」
「あぁ……。カタビラ草は基本的に王国の薬師達が扱ってるんだが、今は栽培不可能と言われていて自然の物しか出回ってないんだよ。だから自生している場所は薬師会で秘密に管理してるらしいんだ。なんせ上級以上のポーションの材料だからね。なんでこんな所で育ってるんだか……。しかもこんなに沢山……。」
「それはきっと……。精霊様や……神様のご加護があるからだと思います……。」

シスターはそう言いながら思い出していた。
優しさの中にどこか陰のあったクレイグ、食いしん坊で憎めないユリ、氷のような美しさを持つドリュアス。

彼らと出会ってから半年の月日が流れていた。

クレイグが植えたカタビラ草はよく育ち、その根を広げて庭の一角に所狭しと群生している。あまりにも株がひっつくと発育が悪くなると思い、間引いたカタビラ草を買い取ってもらえないかとサザンに相談したのだった。
シスターが売るのを諦めようとした時、サザンが勢い良く口を開いた。

「よし!シスター!今は手持ちの金が30万イラしかもってないんだが、残りの金は次に必ず持ってくる。だから俺にこのカタビラ草を五株売ってくれないか?!頼む!!」
「え?え?今……いくらっておっしゃいました?」

サザンの言った金額に自分の耳を疑って聞き返した。

「いや、全然足りないのは分かってるよ!うちの商会とシスターの長い付き合いに免じて手付け金で30万イラって事で頼むよ!買い取り値の相場としては一株が25万イラ位だと思うんだ。」
「25万イラ………!!」

高額だとは聞いていたが、まさかそんなに高値で取引されているとは思わなかったのでシスターは平静を装うのに必死だった。

「わ……わか…りました。ではサザンさん、それでお願いします…。」
「すまないな!シスター!次に来る時は必ず残りを持ってくるから!じゃあこれ、金貨で30枚入ってるから確かめてくれよ。大きな取り引きになるから急いで帰ってうちの大旦那に報告しなきゃ!じゃまたな!」

ズッシリと重い金貨が30枚入った革の袋を持ってシスターは庭に呆然と立っていた。
この孤児院を作ってから毎日の食費をどうやって捻出しようかとばかり考えていた日々だった。
その悩みから急に解放されたのが嘘のようだった。

「クレイグさん……ありがとうございます……。」

遠い東の空にクレイグを想い、シスターは指を組み合わせ感謝を捧げた。


***


「お兄ちゃん!みんな、お昼ご飯だよっ!」
「あぁ!ありがとうエマ、今降りるよ!」

孤児院の雨漏りの修理にバート達はみんなで屋根の上に上がっていた。
しっかりとした足取りでバートが屋根に掛けてあるハシゴを一段一段降りてくる。

バートや子供達の身体が『再生』してから半年、筋力の左右差も次第に無くなり日常生活においてすっかり不自由は無くなっていた。
あの日、精霊が預かったというギフトは『神色の魔法使い』からの贈り物であり、同時にクレイグからの贈り物だったのだと皆の中では結論付いた。

「食べないの?お兄ちゃん……。」

テーブルにバートと向かい合わせに座るエマがバートの顔を不思議そうに覗き込んだ。

「ん?あぁ、食べるよ。いや、考え事してたんだ。エマの声もほんと良くなったし、俺の足もすっかり元通りになっただろ。……あれだけ信心深かった父さんと母さんが死んでしまって、俺もエマも大怪我してさ。本当に神様がいるんなら……この現実はなんなんだよってあの頃いつも思ってたんだ。」

神妙な面持ちのエマにバートは続ける。

「だけどシスターに出会って……俺達みんなの事を面倒見てくれて。クレイグさんが俺達の身体を元に戻してくれた。神様がいるかどうかは今でもわかんないけど……今はあの頃よりも神様に感謝してる。」

バートがニカッと笑ってパンを口に頬張った。その笑顔には少年のあどけなさが未だ残っている。

「…大人になったらシスターやクレイグさんみたいな……誰かを助けられるような……強くて優しい人になりたいよ。」
「うん……そうだね。じゃあ私は……ユリさんみたいな食いしん坊さんになろうかな!」

エマもパンを口に頬張るとにっこりとバートに笑って見せた。

「あはははっ!そりゃ頼もしいなっ!じゃあしっかり食べてくれよ!」

孤児院の笑い声が青く高い秋の空に響いた。庭のカタビラ草が風にそよいで勢いをつけて揺れていた。





【作者から一言】
ここまで読んでくださってありがとうございました。
一章はこんな感じで終わりを迎えました。
あーでもないこーでもないとか考えたり、書いては消したりしてなかなか筆が進みませんが二章からもゆっくりとお付き合い下さい。
クレイグとユリの旅はこれからも続きますのでどうぞよろしくお願い致します。

暖かい春の日に
皆様の健康と笑顔をお祈りして

門永直樹

「神色の魔法使い」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く