トカゲな俺の異世界迷宮生活

本城ユイト

No.22 テレポート

静寂が支配した2層。
フロアの大部分を湖と化したこの層で今、非常事態が
発生していた。

それは、1層と繋がる階段のすぐ側で。
なにやらゲッソリとして倒れている3人(?)である。

だが、倒れているからといって別に凶悪なモンスターと死闘を繰り広げたり、勇者に選ばれし聖剣的なやつを探しにきての遭難というわけではない。

理由は単純。

ぐぅー。

『リリナさーん、お腹鳴ってんぞー』

『それはきっと晃樹のお腹ですよ………』

ぐぐぅー。

『ほーら晃樹じゃないですか』

『今のはそうッスけど。さっきのは違うッス!』 

ぐぎゅるるるー!

『今のは完っ全にアニキッスよね?』

『正解だ、ご褒美に食料調達係に任命しよう』

『ただ楽したいだけッスか!』

そう、ただの空腹である。

1層フロアボス戦でのレベルアップによる空腹感、そしてそれを解消する前にリリナさんのゲーム騒動による焼き魚の炭化という悲しき原因によるものだ。

その後もなんやかんやあって、そろそろ断食3日目へと突入しかけている。正直、かなり辛い。

『くっそぅ、あの時リリナさんがユニークスキル二刀流とかに覚醒しなければ今頃………!』

『ちょっと!わたしのせいにしないで下さいよ!』

『いや、あれはそもそもゲーム始めたアンタのせいッスよね………?』

もう何度繰り返したかも分からない押し問答の末、解決策など浮かばない不毛な争いによってますます空腹になる3人。この負の連鎖によって、フロアボス戦なんかよりよっぽどピンチである。

『なんとかしないとな………。割とマジで』

『そうッスね………。このままじゃ死ぬッスよ』

ぐでっと脱力したままそう言う俺とコーキ。すると、不意にリリナさんが上体を起こして。

『仕方ありませんね。あの手を使いましょう』

『!?な、何か解決策があんのか!?』

『マジッスか!?ただの使えないダメ人間じゃなかったんスね………!』

俺達が揃って期待の視線を向ける中、リリナさんはすっくと立ち上がって、背中の翼を広げると―――

『じゃ、わたしは天界で食べてきますね』

『まてやコラこの裏切り者がっ!』

『卑怯ッスよ自分だけ!』

そのまま1人美味しいものを満喫しようとするリリナさんに、俺達は必死で抗議。するとリリナさんは、くるっと振り替えってドSな笑顔を作ると、一言。

『………ざまぁ乙ー!』

『あの野郎逃げやがった!』

『くそぅ、最近ドSじゃなくなってたのに!』

すうっと空気に溶け込むように消えていったリリナさん。マジで帰ってきたら1発本気でぶん殴ってもいいだろうか。女神だからって容赦はしない。

『アニキ、あの女神叩きのめすッス』

『だな。食べ物の恨みを思い知らせてやる』

メラッと殺意に燃える俺達だが、今はそんなことをしている場合ではない。このままではリリナさんが帰ってくる前にこちらが天界へとレッツゴーしてしまう。

よって。
現在の最優先事項は、やはり食べ物なのだ。

『しゃあねぇな。また釣りでもするか………』

『えー?またッスかー?』

『それしか方法はねぇだろ?それにお前は釣り好きだろうが』

『そりゃあそうッスけど!やっぱこの状態じゃ楽しめないっスよ。せめて1層の我が家に帰れれば………』

『あの階段を上ってか?』

そう言ってちらりと視線を向けた先には、真っ暗な入り口を構える階段が。正直、もうあんな地獄の上り下りはしたくもないし思い出したくもない。

故に俺は諦めろと口にしようとして―――閃いた。

『そうか………その手があった!』

『な、なんスか!?なんか閃いたッスか!?』

『ああ。よく考えたら俺《テレポート》修得してんじゃん。だから我が家にひとっとびできる!』

『ハッ!た、確かに………!』

目から鱗と言わんばかりに驚くコーキ。何故俺はこんなチートスキルを忘れていたのだろうか。バカなんじゃねぇの、過去の俺!というか10秒以前の俺!

というわけで、《テレポート》発動。

ブンッ………と輝く魔法陣が出現する。例のカブトムシの時は出なかったのだが、その辺は使用者によって変わるのだろうか。もしリリナさんを取っ捕まえてスッキリした後に覚えていたら訊いてみよう。

………なんか言い方マズかったかな。
俺がリリナさんを襲ってイロイロするみたいな感じだが………違うからな?そこまで俺、人を捨てたつもりじゃないから。まぁ俺、人じゃなくてトカゲだけど。

『アニキ、少しは上手くなったッス』

『だからなんでお前は俺の独り言を拾ってんだよ』

『いや、割と駄々漏れッスから………』

『えっ、そうなの?やだ恥ずかしいッ!』

どこか記憶の片隅に引っ掛かっていたセリフを口にしながら、俺達は輝く魔法陣の上に乗って。

『テレポートッ!』

俺がそう叫ぶと同時。
カッ!と魔法陣が一際まばゆい光を発した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして、体感的には数秒後。
とんっと足が地面を捉える感覚。
おそるおそる目を開けてみれば、そこはものすごく見覚えのある場所で。

帰ってきた、と直感する。
不意に懐かしさが込み上げてくるが、それを一瞬にして上回るものが俺の心の奥から沸き上がってくる。

それは―――言わずもがな、食欲ッ!!!

そして、俺とコーキの視線が部屋のすみに自生するタール草へと注がれて。

『アニキ………』

『ああ、言いたいことは分かる。こうなりゃ恨みっこなしだぜ………?』

スッと互いに覚悟を決め、コツンと軽く拳(?)をぶつけ合う。そして最短距離でタール草まで走り出せるように身構えて―――

『海翔、いっきまーす!』

『晃樹、行くッスよー!』

と、どこかで聞いたようなかけ声と共に、タール草群生地へと頭からミサイルのように突っ込んでいくのだった。

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