トカゲな俺の異世界迷宮生活

本城ユイト

No.17 1層攻略戦 ②

ジュッ!と地面が溶ける音が断続的に響く中。
俺達は、かなりの苦戦を強いられていた。

『ちょっ、コイツ強すぎないッスか!?』

『ホントだよな!クソッたれ、マジで誰だよこんなチート仕様にしたヤツ!後でぶん殴ってやるッ!』

今のところ致命傷だけは避ける方向で頑張ってはいるものの、やはり全てかわすという離れ業は出来ない。
なので、少しずつダメージが蓄積していくが………。

『上から来ます、3秒前!』

『りょーかいッ!』

『分かったッス!』

リリナさんの指示の元、俺達はギリギリで酸攻撃を回避する。そもそもの戦闘力のないリリナさんは、司令塔的な立ち位置。的確な判断で敵の攻撃を伝えてくれる。

『ヒュウー!さっすが女神様、頼りになるう!』

『馬鹿なこと言ってると死にますよ!?前方から来ます、早く避けて下さいッ!』

『えっマジか!?』

慌てて視線を向けて見れば、確かに超高速でこちらへと迫る一撃が………って、ヤバイこれ死ぬッ!

とっさに身体を沈めた俺の上を、間違いなく致死量であろう酸が通りすぎていった。というか少しかすってるじゃねぇか!痛ってぇ!

『あっぶね!死ぬとこだった!』

『ちょっ、気をつけて下さいよ!?ここで海翔さんに
死なれたら………ッ!』

『えっ………?』

いつになく必死な表情でそんなことを叫ぶリリナさんに、俺は不覚にもドキリとしてしまう。あれっ、もしかしていつの間にか恋愛フラグ立ってた?でも確かにちょっと可愛く見えてきて………。

『私の負担が増えちゃうじゃないですか!』

前言撤回、やっぱ可愛くないッ!
いや、見た目は超絶完璧美少女(1/16スケール)なのだか………中身がなぁ。残念、ホントに残念………。

『というか心配とかは一切無いわけ!?』

『無いですね』

『あっさり言い切りやがった………ッ!』

というか女神様って、もっとこう………優しさとかに満ち溢れたおねーさんじゃないの?ドSな女神ってそんなに需要ないと思うんだけど………。

『………後で天界送りにしてあげましょうか?』

『ふえっ!?な、なんでそんなぶちギレてんの!俺なんにも言ってないよ?』

『いや、わりとハッキリ口に出してましたし………』

『なっ………マジか』

どうやら俺は、うっかりリリナさんの逆鱗を刺激してしまったらしい。ヤバイよねコレ、マジで天界送られちゃうかも………ッ!

『あのっ!そんなことより目の前の敵ッス!』

『そうですよ海翔さん!なにボサーッとしてるんですか!?死にたいんですか!?』

『いやほとんどリリナさんのせいなんだけど!?』

くそっ、このドS女神!自分のことだけ棚に上げやがって!いつか見てろよ、絶対に反撃してや―――れませんよね。仕返しが10倍くらいで返ってきそうで怖すぎるッ!

以外と小心者チキンな自分を再確認して落ち込む俺。なんかやだよな、こういうの。どこか遠くの世界で、1からやり直したいものだ。

『ちょっ、アニキ!なんでいきなり遠い目で黄昏てるんスか!?上、早く避けてーッ!』

『海翔さん、早く現実に帰って来て下さいッ!ほ、本当に避けないと死にますよ!?』

なんか遠くの方で声が聞こえる気がするが、気のせいだろう。というか雨なんて久しぶりだ。ずっと迷宮の中にいたからな………。

『………綺麗だな、雨ってさ』

『どこの世界に旅だってんスか!?というかコレのどこがキレイ!?完全にただの最強酸性雨ッスよ!?』

『つ、ついに壊れた………ッ!私がストレス与えすぎたんですか!?やり過ぎました!?ねぇ、ちょっと!』

『と、とにかくこっちの横穴に引っ張り込むッス!手伝え女神ッ!』

『私にだけタメ口ですか!?』

なんか身体がズルズル引き摺られてるけど、気のせいだろう。というかよく見たらこの女神様綺麗だ。ずっと元の世界で2次元キャラを見てきたからな。

『フツーに可愛いね、リリナさん』

『………ななな何言ってんスか!?コレのどこが可愛い
んスか!?ドSで適当で可愛い要素皆無ッスよ!?』

『ちょっと、それどういうことです!?後でちゃんと話聞かせてもらいますからね!』

俺は周囲の喧騒をどこか遠くに聞きながら、自分の言葉を繰り返し呟いていく。

『うん、可愛い可愛………ん?可愛いか?そうだよな。ドSだし適当だし脅しが怖いし。中身がアレだよな!』

『そうッスよ!目が覚めたッスか!?』

『ああ!リリナさんのおかげで完全に目が覚めた!そうだよな、今バトル中だったな。どうやら俺は、悪い夢でも見てたらしい………』

アッハッハーと高らかに笑いあう俺達2人。やっと目が覚めた。今まで本当に悪い夢でも見てたみたいだ。実際はただのいつもの現実逃避だけどな。

『後で覚えてて下さいね?』

『はっはっは!もうその手の脅しは通じないぞ!』

『成長したオイラ達をナメるなッス!』

狭くあまり身動きの取れない横穴の中で、俺達は並んで啖呵を切った。今まで散々やられてたんだ、やられたらやり返す、倍返しだぁッ!

こうしていざ最終決戦!となりかけた数秒前。
ズッドン!と横穴が、というか迷宮全体が揺れた。

『『な、何だぁ!?』』

『これは………マズいです海翔さん、天井が!』

『うえっ!?ヤベッ、とにかく脱出しろぉっ!』

俺達がなんとか飛び出した直後、横穴の天井がガラガラと音を立てて崩落した。

『あ、あっぶねぇ‥‥‥。あとちょっとで生き埋めになるとこだったぜ………』

内心冷や汗が止まらない俺は、コーキとリリナさんの姿を探して辺りを見回す。すると、不意に後ろからポンポンと俺の背中が叩かれた。

振り返って見れば、コーキとリリナさんが上を見上げて呆然とした表情を浮かべていて。そして、つい釣られて俺も顔を向けると―――そこには。

ムシャムシャと紫のカブトムシを食べている、山のように巨大な影があった………。

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