トカゲな俺の異世界迷宮生活

本城ユイト

No.04 レベルアップ

 我が家を決めてから体感時間で2時間ほど。
 その間俺は、ひたすら《鑑定》スキルのレベルを上げていた。その甲斐あってか、レベルはすでに3へとアップしている。
 そして―――

【《鑑定Lv4》へとアップしました】

 ポーンという音と共に、突然俺の頭に声が響く。
 俺は思わずガッツポーズしようとして、思い出した。このトカゲの身体じゃ出来ないじゃん。

 という訳で、ガッツポーズの代わりに俺がレベルアップの余韻に浸っていると、どこからかピシリ、と音がした。そして、俺は自分の右前足を見て気づいた。

ああ、さっきの音、俺の身体からだ。

 そう、俺の右前足には亀裂が入っていたのだ。そのことに俺の思考が追い付く前に、どんどん身体の亀裂が増えていき―――

【種族『トカゲ』がLv2へとアップしました】
【《毒Lv1》・《暗視Lv1》を修得しました】

 そんな声がした瞬間、バリッと俺は一皮剥けた。いやホントに文字通り。脱皮したのだ。前に兄弟に咬まれた傷もきれいさっぱり無くなっている。

『うわぁ、おめでとうございます!』

 そんなリリナさんの声とパチパチという拍手の音を聞きながら、俺は絶叫したかった。というか絶叫した。いよっしゃぁぁぁ!と叫んだつもりが、シューシュシュッ!という音しか出なかったが。

 それよりも、《暗視Lv1》が嬉しい。
 これでようやく、まともな活動が出来るのだから。
 そんな期待を込めて目を開けると、昼間とまではいかないものの、月明かりぐらいの明るさで世界が見えた。そして、俺の目の前に飛んでいた女神様も。

 でも、何かがおかしい。
 いや別に暗視に不備があるとかそんなんじゃない。 おかしいのは目の前の女神様なのだ。

 なんというかその………小さいのだ。全体的に。

『ああ、私が何で小さいのか気になります?実はですね………この世界に来るとき、力の大半を失ってしまったんです!なので縮みました』

 
 そんな重大なことをさらりと言ってくるリリナさん。多分目測で見たところ全長10センチくらいだ。
相変わらず脳が事態に追い付いていない俺を、どんどん置き去りにして進行していく。

 なのでもう考えることを放棄した俺は、暗視スキルの試験運転も兼ねて家の外に出ることにした。最初はあの巨大ムカデがいるんじゃないかとビビったが、幸いそんなことはなかった。

 だから俺は、近くをブラつくことにした。もちろん食料を探すためである。断じて暇なのではない。もう一度言おう、暇なのではない!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 家を出てから多分30分くらい過ぎた。
 歩いているうちに暗視スキルが1上がった。そんな俺の背中には草が山積みに積まれている。

 どうするのかって?もちろん食べるんだよ。

 歩いている途中でたまたま見つけた草を鑑定したら、『タール草』という薬草の1種だったのだ。どうやら鑑定スキルのレベルが上がったことで、性能も上がったらしい。
 
 説明によれば水と土があれば結構どこでも育つらしいから、家で栽培するのも良いかもしれない。

 ちなみにリリナさんは家でお留守番中だ。
 この異世界のことを整理するために、無理をいって1人にしてもらったのだ。そんな俺のワガママを笑顔で承諾してくれたリリナさんを見て、やっぱり女神様なんだなぁと思ってしまったのは内緒だが。

 さて、それじゃあ整理していこう。
まず俺が転生したのはトカゲ。多分頭から尻尾の先まで50センチくらいだ。全身赤い鱗なのは少しカッコいいと思った。

 次にスキル。
《鑑定Lv4》に《暗視Lv2》、《毒Lv1》である。
うーん、戦闘面に若干の不安があるな。

 そして女神様のリリナさん。
本人いわく力はほとんど使えなく、テレパシーと翼だけらしい。ぶっちゃけただのナビゲーターだ。

やっぱりこれ、詰んでない?

 一抹の不安に襲われる俺。
 そんなことを考えている間に、家へと帰ってきていた。どうやらほとんどオートマチックと化していたらしい。ちょっと気をつけようと心に誓う。

 俺は洞穴をくぐり、家へ入ろうとして―――入れなかった。

 背中の草が引っ掛かって邪魔なのだ。
 どうしよう、一旦降ろして運ぶにしても多分かなりの時間がかかる。一部は栽培、一部は貯蓄に回そうと思って採り過ぎた。

 俺が大量の草の山を目の前に途方に暮れていると、洞穴からリリナさんが飛び出してきた。

『あれぇ?なにやってるんですか?』

 そう訊いてくるリリナさんに、今までの経緯を説明。その上でなんとか入れなれないかとダメ元で尋ねてみた。

『あっちにあった広めの通路から入れればいいんじゃないですか?』

 ………通路がもう一本あるとか、初耳だ。
というか知らなかった。

 リリナさんの案内でその通路へと行ってみると、荷物の運搬には十分なほどの広さだった。よし、これからは荷物をここから入れることにしよう。

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