俺VS妹〜ゲームでバトルだ!〜

チャンドラ

さらばリアルファイターズ

「お待たせいたました! リアルファイターズタッグバトル決勝戦です。選手のみなさんはお願いします」
 俺と水菜はステージに赴き、椅子の前に立った。
 対戦相手も椅子の前に立った。
 対戦相手は俺と同じくらいの男女のペアだった。
 準決勝は苦戦を強いられたものの、なんとか勝利を掴むことができた。
「河田水樹選手と河田水菜選手です! お二人は兄妹です。決勝まで奇想天外な作戦で勝利を掴んでいます。決勝戦ではどんなプレイングを見せるのか?」
 奇想天外な作戦......まぁ、否定はしない。
 準決勝でも俺は一風も二風も変わった戦法を使った。
 司会者は対戦相手の紹介を始めた。
「対するは影裡大河かげうちたいが選手と影裡朱莉かげうちあかり選手です。なんとこのお二人さんも兄妹です! この兄妹対決、勝つのはどちらか?」
 なるほど、二人も兄妹か。
 兄妹なのに似てないと言われることが多い俺と水菜と違い、どことなくあの二人は顔立ちが似ている気がする。
「お兄ちゃん絶対に勝とうね!」
「ああ、もちろんだ。勝ったら今日は焼肉だな!」
 仲も俺たちよりも良さそうなようで。
 相手の妹の方はなかなか整った顔立ちで美人だと思うが、ジャージという女子力がない格好をしている。
 兄の方は少し色黒であまり背は高くない。
 百六十センチ前後という感じだろうか。

 俺は水菜の方に目を向けると、表情が強張っているのが確認できた。
「おい、水菜。大丈夫か」
「う、うん。決勝だから緊張しちゃって」
 まぁ、確かに観客も多い。
 決勝戦だからか分からないが大きいカメラが向けられている。
 緊張するのも無理はないか。
 そういえば優勝したらファミ通に乗るんだっけか。
 ファミ通の記者かなんかだろうか。
「それでは選手のみなさんはVRゴーグルを装着してください」
 俺はVRゴーグルを装着した。
 慣れた手順で職業を選択する。
 もちろん、職業は魔法使い。
 水菜は剣闘士を選択する。
「それでは、ステージセレクト!」
 ステージはランダムで選ばれる。

 俺の目の前に大きな中世のヨーロッパ風の階段が現れた。
 床には赤い絨毯が敷かれている。
 建物の中には洒落たアンティーク品のようなものがところどころに置かれている。
 少し先には対戦相手の大河と朱莉がいた。
 大河の職業、あれはスナイパーである。文字通り銃を使って攻撃する職業。
 隠れたところから不意をつきやすい職業として定評がある。
 朱莉の職業は俺と同じく魔法使いだった。
「ステージは宮殿です! それでは、皆さん準備はいいですか?」
 四人の間に緊張が走った。水菜は人一倍緊張が走ってそうである。

「レディ......ファイ!」
 開始早々、向こうが仕掛けてきた。
「行くよ! お兄ちゃん! バースト!」
「おお!」
 魔法を掛けられた大河が俺たちの方に銃口を向けた。
「スターライジング!」
 銃から大きな星型のエネルギー弾のようなものが発射された。
 いや、なんだその銃。
「リフレクト!」
 俺は呪文を唱え、俺と水菜にバリアを張った。
 しかし、バリアは相手の攻撃に耐えられず割れてしまった。
「ぐ......」
 バリアを破ったことで衝撃が俺の体にかかった。
 体力ゲージが少し減った。
「オラァ!」
 水菜が相手の方に向かっていった。
 全く、あいつ勝手なことを。
 俺がアクセレイトをかけれる必殺技ゲージが溜まるまで待って欲しかったのに。

 水菜は剣を振り回すが、大河と朱莉に華麗に避けられ、距離を取られた。
 大河は何発か銃弾を放ち、水菜の体力ゲージを減らしていった。
 魔法使いもスナイパーも遠距離の攻撃を得意としている。
 わざわざ近づて攻撃する必要がないのである。
「逃がすか!」
 水菜は特攻覚悟で大河に狙いを定め距離を詰めた。
 大河の頭に剣を振り落とそうとした。
「パラリシス」
 コツンと朱莉は杖を水菜の背中に当て、魔法を掛けた。
「し、痺れて動けない......」
 ーーparalysis
 麻痺、なるほど。相手を痺れさせる魔法か。
「まずは一人」
 大河がゆっくりと銃口を水菜に向けた。
 まずいな。
「アクセレイト」
 俺は自分自身に魔法を掛けた。
「スターライジ......うわ!」
 大河が引き金を引く前にやつの脳天に蹴りを入れた。
 大河を数メートルほど吹っ飛ばすことに成功した。
「妹を放してもらうぞ」
 さらに、朱莉に対して顔面にパンチをした。
 こうして描くと外道に思うかもしれないが、ゲームキャラクターを念じて戦うだけのゲームなのでどっかの乗り物の人造人間見たく攻撃されたら痛みが本体にフィードバックするなんてことはない。
 まぁ、罪悪感を全く感じないこともないが、勝負だしな。

「水菜、大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう」
 珍しく素直に水菜は礼を言った。
「今日のお前はいつもより動くが悪い。少し冷静になるんだな」
「そ、そんなことないし! それよりも何か作戦はないの?」
「考え中だ。とりあえず、今は逃げるぞ」
「に、逃げるって.....え? ちょっと!」
 俺は水菜をお姫様抱っこした。
「暴れるな。ひとまず、あいつらから距離を取る。考えるのはそれからだ。アクセレイトの持続時間もあんまり長くないんだから急ぐぞ」
 俺は全速力で水菜をお姫様だっこしながら長い廊下を走った。
 バンバンという銃声が後ろの方から聞こえてくる。
 大河が銃を撃っているのだろうが、幸いにも一発も命中しなかった。

 そして、金色の豪華な扉を見つけ、部屋に入った。
 仲にはとても大きな部屋が広がっていた。
 中央には螺旋階段があり、天井にはかなり大きめなシャンデリアがあった。
 ふむ、でかいな。
「ここで隠れて不意をついて攻撃するってのはどう?」
 水菜が意見を出した。
「無駄だろうな。相手の妹の方、俺も魔法使いだから言うが、相手の位置を正確に特定する魔法を持ってると思う。隠れてもすぐにバレるだろう」
「えー、それじゃどうするの?」
 顎に手を当て、塾考した。
 あのシャンデリアの真下に誘導し、水菜にシャンデリアを落としてもらい、俺ごと潰すという方法を最初に思いついた。
 だがこれはうまく行かないだろう。
 そもそも、相手は俺たちに近づいて攻撃する必要がない。
 いや、待てよ。
 別に真下に移動させなくてもいいのか。
 あの魔法を使えば。
「よし、水菜。お前は螺旋階段を使って最上階に移動しろ。俺がやつらを真下に誘導する。タイミングを見計らってシャンデリアを切り落とすんだ」
「分かった。一回戦の時と同じ作戦ね」
 少し違うけどな。あえてそのことは言わないようにした。
 俺は早速、呪文を使用した。
「シャドークローン」

 一分ほどした後、やつらがやってきた。
「おでましか」
 俺は挑発するように促した。
 大河は二人になった俺を見て怪訝な表情を浮かべた。
「シャドークローンか。また、何か企んでるな?」
「......」
 俺は黙りこくった。
「朱莉、ここは俺一人で十分だ。お前は水菜を追え」
「待て! 逃がすか!」
 俺は朱莉を止めようとした。
「ファスト!」
 朱莉は高速移動の魔法を使い、俺と俺の横をあっさり通り抜けていた。
「お前の作戦は破られた。バレバレだ。一回戦の様子を見るにシャンデリアの真下まで俺たちを誘導して水菜に切り落としてもらい、お前ごとぶつける作戦だったんだろうが、その手には乗るか」
「いやぁ、いい線行ってるよ。確かにシャンデリアを使うことは正解だ。だけど肝心なのはそこじゃない。厄介だったのはあんたの妹さんの魔法の方だ。これで作戦は終了だ」
「何?」
「水菜ー! シャンデリアを斬り落とせ!」
 声を張り上げて、水菜に伝達した。
 水菜は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「やるんだ!」
「な、なんかよくわからないけど! ソードショック!」
 水菜は剣を振り、衝撃波を発せさせた。
 俗に言う、飛ぶ斬撃というやつである。
「リリース、そして、マキシマイズ!」
 俺は光の玉を放ち、シャンデリアに当てた。
 シャンデリアはこの部屋一帯を覆うほどのサイズになった。
 シャンデリアはものすごい速さで落下した。
「え、ちょ!」
 斬り落とした水菜も事態を飲み込めず面食らっている。
「な! やば......うわぁ!」
 大河も慌てふためている。
 朱莉は分からないが落ち着いているのは多分俺だけだろう。
 この部屋にいたすべての者をシャンデリアは押しつぶした。
「なんということだ! 全員潰れてしまった! うん? これは!」
 三人目の俺が向こう側の扉の廊下で生き残っている映像が浮かんできた。
 俺の前にはYou win!の文字が浮かんできた。
「ゲームセット! 勝者は水樹選手と水菜選手だ! なんということだ!」
 シャドークローンで、俺は三人に自分を増やしておいた。

 三人目の俺は向こうの廊下に移動してもらっていた。
 これで全員シャンデリアに潰されても三人目の俺が残っていることで勝つことができる。
 俺はVRゴーグルを外した。
「全く、自分はおろか、私ごと巻き添えにするなんて酷い兄さんだね」
 侮蔑の表情で水菜は俺の方を見てきた。
「まぁ、勝ったからいいじゃないか」
 すると、大河と朱莉が近づいてきた。
「いやぁ、まさかあんな作戦考えるなんてすごいよ。楽しかった。ありがとう」
 大河が手を出してきた。
「こちらこそ」
 俺と大河は握手をした。
 水菜と朱莉も握手をした。
「これ、良かったらどうぞ」
 大河が名刺を差し出してきた。
 名刺にはこう書かれている。
 ーー霊障相談所 所長 影裡大河 
「霊障相談所?」
「俺、霊能力者なんだ! 何か幽霊関係で悩んでたら連絡してくれよな! 安くしておくぜ!」
「あ、ああ。そうか。機会があれば連絡するよ」
 俺は体裁を取り繕い返答した。
 霊能力者ね。本当なんだろうか。

 そして、俺と水菜は優勝賞金を手に入れ、ファミ通に乗ることになった。
 俺のことは自爆戦法のパイアニストという訳のわからん異名がつけられることになった。


 大会から一週間後。
「おら! 水菜、学校に行くぞ!」
 水菜は下着姿でVRゴーグルを身につけていた。
 なんちゅう格好してるんだ。
「ちょっと待って!」
「全く、俺は先に行くからな。サボるなよ」
 俺は家を出た。
 結局、水菜はゲーム二時間という約束をちょくちょく破っている。
 まぁ、学校にはちゃんと言ってるし、そこまで厳しくはしていない。

「待って! お兄ちゃん」
 水菜が走ってきた。
「先に行っちゃうなんて酷いよぉ」
「ゲームしてたお前が悪い」
 俺は冷たく言い放った。
 もう、俺はしばらくゲームはいいかな。
 俺にはゲームの才能があるのかもしれない。
 だが、俺はゲームがそこまで好きではない。別に嫌いでもないが。
 ただ、めんどくさいたちだが、やるからには負けたくはないのである。
「ねぇ、お兄ちゃん......」
 水菜が俯いた。何か言いづらそうな表情をしている。
「なんだ?」
 すると、鞄からごそごそと何かを取り出した。
「これ! 出るっきゃないよね!」
「リアルファイターズタッグバトルチャンピーンシップ......?」
 おいおいおい、ちょっと勘弁してくれよ。
 俺は天を仰ぐのだった。
 どうやらもう少しゲームをすることになりそうだ。

 




コメント

  • ノベルバユーザー603722

    男はこうあるべきです。
    女の夢を見せていただきありがとうございます〜♪

    0
コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品