俺VS妹〜ゲームでバトルだ!〜

チャンドラ

もう一人の俺を使って妹に勝て!

「うらぁ!」
 いきなり水菜は俺に斬りかかってきた。
 俺は慌てて木の影に隠れた。
 ザンッとう音を立てて、水菜が斬った木が倒れた。
 倒れた木の年輪もリアルである。よく見ると、木には数匹、昆虫がいる。
「オラァ!」
 再び、妹が襲いかかってきた。
 俺は慌てて逃げた。
「逃げんなぁ!」
 水菜は逃げる俺を追いかけてきた。まともに闘っても勝ち目はうすいだろう。
 俺は隙ができるのを待った。
 しかし、段々と距離がつめられてきた。
 全力で走っているのだが。
 そういえば、魔法使い系の職業は身体的スペックがあまり高くないと聞いたことがある。
 そのせいだろうか。
「隙あり!」
「うぎゃぁ!」
 俺は無防備な背中を斬られ、俺は倒れた。
 痛いけど......いや、痛くない。まぁ、ゲームだしな。
 しかし、俺に横に表示されていたライフゲージは三分の一ほど減った。
 打たれ弱いにもほどがあるんじゃなか?
 隙を突くつもりが、見事、水菜に隙を突かれた。
「あははは! 私に勝とうだなんて、百年早いんだよ!」
 水菜は剣を振り落としてきた。
 俺は間一髪、避けた。
「この......ちょこまかと!」
 俺は近くにいた蜘蛛に目をやった。
 なかなか大きいカラフルな蜘蛛である。
 水菜は虫が大の苦手である。
 よし! 
 俺は蜘蛛を素手で掴み、水菜に投げつけた。
「ぎゃぁぁぁ!」
 蜘蛛に恐れをなした水菜はブンブンと剣を振り回した。
 よし、隙ができた。
「フレイムボール!」
 俺は呪文を叫ぶと、杖から大きな火の玉が発生し、水菜の方に向かっていった。
「うわぁ!」
 水菜の体力ゲージは半分まで減った。
 実はゲームを買う前に俺はゲームの操作方法をある程度公式サイトから読み込んでおいていた。
 操作方法はいたって簡単。
 体力ゲージと必殺技ゲージがある。
 体力ゲージはもちろん、攻撃を受け、ゼロになると負けになる。
 体力ゲージは魔法や特別な技を打つと回復したりする。

 必殺技ゲージは、時間がたつと溜まっていき、技や魔法を使うと減る。

 しかし、このゲームの醍醐味は別のところにある。
 必殺技は自分のしたい攻撃を念じると自由に使うことができる。
 公式サイト曰く、たくさんプレイするほど使える技や呪文が増えるらしい。
 また、普通のゲームと同様、必殺技ゲージがたまりきっていない状態で技を打っても発動しないことがある。
 必殺技ゲージがたまりきっていても全方位に隕石を落とすみたいな呪文を念じても発動しない。
 必殺技ゲージが減るだけである。
「お返しだ! ライトニングブレード!」
 雷の剣を纏った水菜が俺に斬りかかった。
 必殺技を使えるっていうことは、水菜もおそらく公式サイトから操作方法を知ったのだろう。
「うわ!」
 痛くはないが、リアルな映像だけに思わず声をあげた。
 体力は一気に残りわずかになった。
 ポケモンでいうと気合のタスキでHP1まで耐えたみたいな感じだ。
「これでとどめだ!」
 水菜が文字通り、とどめを刺しに来た。
「フラッシュ!」
 杖を掲げ、呪文を唱える。
「うぉ、眩し!」
 水菜が叫んだ。
 この呪文には全くもって攻撃効果はない。
 単にまばゆい光を発生させるだけの呪文である。
 俺は水菜が怯んだ隙に木の影に隠れた。
 そして、俺は水菜から距離をとった。
 俺は作戦を考えた。
 今気づいたが、何もしない間は、わずかだが体力ゲージが少しずつ回復している。
「くっそー! どこいったー」
 水菜の叫び声が聞こえてきた。
 というか、リアルで叫んでるのだが。
 フレイムボールをもう一発当てれば恐らくは勝てるのだろうが、さっきのは蜘蛛を使って運良く隙を突くことができた。
 しかし、真正面から技を打ったところで、躱されるかガードされ、斬られて終わりだろう。

 俺は必殺技ゲージがマックスになるまで、その場で待った。
「どこだー! くそー!」
 水菜は闇雲に木を斬りまくっていた。
 何をやってるんだ。あいつは。
 環境破壊は楽しいゾイ! ってか?
 まぁ、いい。
 作戦は考えた。
 だがこの魔法をうまく発動させることはできるのだろうか?
 いや、やってみないとわからないか。
 俺は天に望みを賭けようと空を見上げた。
 二匹のカラスが並んで空を飛んでいた。
「シャドークローン」
 ポンともう一人の俺が現れた。
「お前が囮になれ」
 俺は俺に指示をだした。
「いやいや、お前が囮になれ」
 俺が偉そうに指示を出してきたので、俺は言い返した。
「ジャーンケーンポン!」「ジャーンケーンポン!」
 俺はグーを出した。
 俺はパーを出した。
「やりぃ! それじゃ、頼むぞ!」
「く、くっそ......」
 俺はノコノコと水菜の元へ向かっていった。
 水菜は辺りをキョロキョロと見渡している。
「水菜!」
 俺は叫んだ。水菜が俺の場所に気がついた。
 しかし、もう一人の俺の場所は気づいていないようだ。
「やっと見つけたぞ! ライジングブレード!」
 バチバチと雷を纏った剣を使って、迫ってきた。
「フレイムボール!」
 さっきと同様、火の玉を発生させ、水菜に向かって投げた。しかし、
「無駄だぁ!」
 雷のを纏った剣は、俺のフレイムボールを突らぬいた。
 そのまま、剣は俺の胸へと突き刺さった。
 俺の体力ゲージはゼロになった。
「勝った.....!」
 水菜は勝利宣言をした。
「勝った......!」
 俺も水菜の真似をして勝利宣言をした。
「フレイムボール!」
 もう一人の俺が必殺技を放った。
「え?」
 水菜が気づいた時には直撃していた。

「ゲームセット!」
 ナレーションの声が流れた。
 画面にはYou Win! の文字が浮かんでいる。
 俺はVRゴーグルを外した。
 水菜はVRゴーグルを掛けたまま、放心状態になっているようだった。
「おい、水菜」
「......」
 返事はない。ただの水菜のようだ。
「おいって!」
 俺は水菜のVRゴーグルを外した。
 水菜の目には涙が浮かんでいた。
「お、お前。そんなに俺に負けて悔しかったのか?」
「そりゃぁ......私、自分ゲーム強いって思ってたのに......あんまりゲームしないお兄ちゃんに負けるなんて......」
 やれやれ、どんだけゲーム好きなんだ。こいつは。
 まぁ、一つのことにそこまで好きになれることは嫌いじゃないけど。
「なら、次は俺に勝ってみろ。このゲームはやるから」
「え......いいの?」
 水菜はキョトンとした顔をしている。
「まぁ......ただ、俺が勝ったものだから俺も使わせてもらうぞ! それとゲームは一日二時間、学校はちゃんと行くこと! 家事も手伝うこと! それは守れよ!」
「うん、ありがとう! お兄ちゃん!」
 あっけらかんとした笑顔で水菜は礼を言った。
 やれやれ。
 俺はやはり水菜に甘すぎるのかもしれない。


 水菜と対戦してから三ヶ月経過するが、あれからゲームは一日二時間の約束はちょいちょい破りやがるものの、今のところ学校はちゃんと行っており、家事も少しづつだが手伝うようになった。
 俺は水菜と一緒に学校に向かった。
「昨日は、私の全勝だったね〜」
 優越感に浸りながら水菜は俺を煽ってくる。
 悔しいがゲームのセンスは水菜が上のようだ。
 俺は八割の確率で妹に負ける。
「き、昨日はたまたま調子が悪かっただけだ」
 ふふっと笑うと、水菜は思い出したと言わんばかりにスマホを取り出してきた。
「そうだ! お兄ちゃん、これでてみない?」
 水菜はスマホを使ってとあるサイトを見せてきた。
「リアルファイターズタッグ大会......?」


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