異世界では、誰だって主役になれる

皐月 遊

2話 「魔法を使うのに免許がいるんですか!?」

「…腹減った…」

こんな事を言っているが、今も俺はパンツ1枚だ。 だから暖炉の前から動く事が出来ない。
もしパンツ1枚で動き出したら、俺は変態野郎としてこの城を追い出されるだろう。

「ヨウタさん、お腹すいたんですか?」

「あぁ…何も食べてないからな…」

朝ご飯も食べずに外に出たからなぁ…何か食べればよかった…
まさか異世界に飛ばされるなんて思わないもんな。

「はぁ…仕方ないわね、何か作って来てあげるから、そこから動かないでね」

「本当か! 助かるよアスラさん!」

「アスラでいいわよ。 フランも手伝って」

「はーい!」

2人は部屋を出て行った。 見ず知らずの俺にご飯を作ってくれるとは…なんて優しいんだ…

てか、呼び捨てでいいとは言われたが、俺にはハードルが高い。
…まぁ、頑張って呼ぼう。

「…にしても、異世界か…」

漫画や小説だけだと思ってた。 なぜ俺が異世界に飛ばされたのか分からない。 だが、折角異世界に来たんだ、楽しまなきゃ損だよな。

それと、ここが異世界って事は、さっきのは魔法って事だよな……

「…すげぇなぁ…!!」

もしかしたら俺も魔法が使えるかもしれない、そう考えるとテンションが上がる。

俺は、魔法を使いこなしている自分を想像する。

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『…ククク…! お前は伝説の魔法使い…夜川陽太だな?』

『なんだ、俺の事を知ってるのか』

何もない広い荒野に、俺…夜川陽太は立っていた。 俺の前には、人々が恐れている存在、ダークナイトキングが立っている。

『ダークナイトキング。 俺はお前を倒す! お前を倒して、この世界を救うんだ!』

『ハハハ! やってみろ伝説の魔法使い!』

『行くぜダークナイトキング! スペシャルサンダーショット!!!』

『ナイトメアビーム!!』

俺のスペシャルサンダーショットと、ダークナイトキングのナイトメアビームが激突する。
だが、どんどん俺のスペシャルサンダーショットがナイトメアビームを押していく。 そして、スペシャルサンダーショットがナイトメアキングを撃ち抜いた。

『ぐふっ…私の負けだ…夜川陽太よ…お前の勝ちだ…』

『ナイトメアキング。 お前は確かに強かった。 だが、俺には敵わなかったようだな。 ハハハハハハハハハ!!』

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「ハハハハハハハハハ!! 見たかナイトメアキング! 俺が最強だ!」

「さっきからうるさいわね!! 大声出すんじゃないわよ!」

「ナイトメア…キング…? スペシャル…サンダーショット…?」

料理を持ったアスラが怒りながら部屋に入ってきた。 その後ろでフランが困惑顔をしている。

「…あ、あれ…? 声に出てた…?」

「ずっと出てたわよ。 何よスペシャルサンダーショットって」

「…あ、あぁ…ああ……」

嘘だろ…聞かれた? 全部…? 全部聞かれちゃった…?

「あああああああアアアアアアア!!」

俺は顔を両手で隠し、発狂する。 恥ずかしすぎて死にそうだ。

「だから大声出すんじゃないわよ! 」

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「…さっきはすみませんでした」

なんとか落ち着き、俺は2人に頭を下げる。 俺の前には美味しそうなサンドイッチが置いてある。

「もういいから、早く食べなさい」

「ヨウタさんって面白いんですね!」

「ぐふっ…!」

この子、笑顔で傷を抉ってきやがった! なんて恐ろしい子なんだ!

3つあるサンドイッチを1つ持ち、一口食べてみる。

「…美味っ…」

何が入ってるのか分からないが、今まで食べたサンドイッチの中で一番美味い。 

あっという間に食べ終えてしまった。

「ごちそうさまでした。 はー美味かった〜」

「それは良かったわ」

「ありがとなアスラ、フラン。 初対面の俺にここまでしてくれてさ」

素直に感謝をする。 フランは微笑んでいたが、アスラは照れ臭そうに頬をかいていた。

「あ! そうだ、ヨウタさん、ヨウタさんってどこに住んでるんですか?」

フランが聞いてくる。 ……あ、俺、この世界に住む場所ないじゃん。
お金もないし…住所不在の奴を雇ってくれる場所もあるわけがない。

…あれ? これ詰んでね?

「…か、帰る家…ないです」

「えぇ!?」

「どういう事?」

んー…どういう事って言われてもな…まぁ、隠す必要もないよな。

「俺、実はこことは別の世界から来たんだ。 信じられないかもしれないけどな。 だから、この世界に住む場所がないんだ」

「別の世界ですって? …フラン、本当?」

「嘘は言ってません。 別の世界なんてあるんですねぇ…」

「へぇ…なるほどね」

なんと、信じてくれた。 さっきも思ったが、フランは何故嘘をついてるか分かるのだろう。
今度聞いてみよう。

「なら、この城に住むといいわ。 部屋ならいっぱいあるし」

「えぇ!? いいのか? 俺男だぞ!?」

「何かしようとしたら抵抗すればいいだけよ」

おぉ…確かにアスラに抵抗されたら勝てる気がしないな。 まぁ、襲ったりなんてしないけどね。

「…じゃあ、お世話になります!」

こうして、この世界で俺の住む場所が決まった。

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「ここがヨウタの部屋よ。 隣が私、その隣がフランの部屋よ」

今、俺はアスラとフランに案内され、自室になる部屋の前に来ていた。
あ、もちろん服は着てるぞ。 ちょうど乾いたからな。

「え、隣同士なのか?」

「この城は広いけど、使ってるのは1箇所だけなのよ。 いちいち動くの面倒くさいし、不満?」

「いや! 大丈夫です!」

実際に部屋に入ると、ベッド、タンス、机、イス、本棚と、必要なものが揃っていた。 広さも十分だ。 だが、埃がすごい。 長年使っていなかったのだろう。

「この部屋は好きに使っていいわよ。 …あ、あなた、そういえば荷物とかないのよね?」

「あぁ、突然この世界に来たからな」

荷物どころか着替えもないぞ。 今俺が来ているのは黒のスウェットとトレーナーだ。 あとはそれにロングコートを着ていた。 つまりパジャマである。

「なら、服とか買いにいかなきゃね」

「え、いいのか?」

「替えの服がないと困るでしょ? この城に男の服なんてないし」

ロングコートは着てもいいと思うが、流石にスウェットとかでは出歩きたくないしな。

「じゃあ…頼む」

「久しぶりのお出かけです!」

フランが目をキラキラさせている。 ちょうどいい、異世界を観光してみるか。

「それじゃあ、早速行くわよ。 テレポート」

「えっ…?」

突然、俺たち3人の身体を光が包み込んだ。 そして、次に目を開けると…

「えええぇぇっ!?」

目の前には、煉瓦造りの建物が並んでいた。 ここは大通りなのだろう、人が沢山いる。

…ていうか、なんだ今の!?

「え、な、なんで…? 一瞬で来たぞ!?」

「テレポートっていう魔法ですよ。 行きたい場所に一瞬で移動出来るんです」

「なにそれ、すげぇ便利な魔法だな!」

「あ、アスラさん! フランさんも! お久しぶりです!」

突然、大通りを歩いていた人達が全員アスラ達を見てそう言った。
…え、この2人、そんなに人気なのか?

「えぇ、久しぶり」

「お久しぶりです〜」

2人もあまり気にしてないみたいだし、芸能人みたいだなぁ…

そして、アスラが俺の手を掴んで歩き出した。

「ごめんなさい。 用事があるから通してね」

アスラがそう言うと、皆一斉に道を開けた。
なんか面白い光景だな。

あれから数分歩き、俺達は服屋へとやってきた。

「おぉ〜、やっぱ日本とは違うなぁ」

当たり前だが、日本にあるような服は1つもない。 全てコスプレ衣装みたいだ。

そして、ここで俺はある事に気がついた。

「…字が読めない…」

値段も分からないし、看板も読めない。 この世界の文字は何1つ分からない。
…これは不便だぞ…

「あ、ヨウタさん。 そっちは女性服のコーナーですよ」

「え? うわ、本当だ!」

考えながら歩いていたからか、前を見るとスカートが飾ってあった。 俺に女装の趣味はない。
速やかにフランの元へ移動する。

「文字が読めないなら仕方ないから、私達が選んであげるわ」

「何から何まですまんな…」

「ヨウタさんは黒と赤とかが似合いそうです!」

「あら奇遇ねフラン。 私もそう思ってたわ」

……なんかこれデートみたいだな。 こんな美少女2人と出掛けられるとか、考えたこともなかったなぁ…

「コレなんてどうかしら」

「あ、ならソレにコレを合わせましょう!」

美少女2人が俺の服を選んでくれてる…幸せだぁ…

こうして、2人が選んだ服を試着してみた。
赤いインナーに、黒のロングコート、そして黒ズボンだ。
デザインはもちろんいいが、驚いたのは、とても動きやすいという所だ。

とても軽くて着心地がいい。

「気にいった?」

「あぁ、めっちゃ気にいったよ!」

「似合ってますよヨウタさん!」

「そう、じゃあ買ってくるわね。 それはもう着て行きなさい」

…女の子に払ってもらうって、なんか情けないな…
だが俺はお金を持っていない。 いつかは返そう。

それからは、俺の日用品。 タオル、歯ブラシなどを買い、またテレポートで城に戻った。

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「…え? 魔法を教えて欲しい?」

「あぁ! 俺でも使える魔法ってないかな!?」

城に戻り、部屋をある程度使えるくらい綺麗にしたあと、俺はリビングでくつろいでいたアスラとフランの元へ向かった。

「ヨウタさんは魔法が使いたいんですか?」

「そりゃもちろん! 魔法使えたらかっこいいだろ!」

「まぁ…あなたでも使える魔法はあるっちゃあるけど…」

「あるのか!? ぜひ教えてくれ!」

魔法とかめっちゃテンションあがるぞ! どんなに弱い魔法でも魔法は魔法だ。 
やっぱり属性とかあるのかな。

「でもあなた、免許持ってないでしょ?」

「……へ? 免許?」

「魔法免許よ。 免許を持たずに魔法を使うのは犯罪よ」

「魔法を使うのに免許がいるんですか!?」

「当たり前じゃない。 学校で魔法の知識を学ぶのよ。 私達も今通ってるし」

はあぁ〜…マジかよ…こっちにも学校とかあるのか…

……ん? 今”私達も今通ってる”って言ったか?

「え、ならなんでアスラ達は魔法使えるんだ? まだ在学中なんだろ?」

「私達は初級魔法免許と中級魔法免許を持ってるからいいの。 今は上級魔法免許を取るために通ってるわ」

…なるほど、初等部中等部上等部みたいなものか。

「あ、ならヨウタさんも一緒に通いますか? 初級魔法免許ならすぐに取れると思いますよ」

「え! いいのか!?」

「別にいいわよ? どうせ私達、学校が始まったら学校の寮に泊まる事になるから、城には居れなくなるし」

寮とかあるのか。 …てことは大きそうだな。

「ま、入学するには適性検査を受けなきゃいけないから、全員が入れるわけじゃないけどね」

…なるほど、全員が魔法を使えるわけじゃないのか。

「あ、じゃあヨウタさんは編入になるんですね」

「それはいつでも大丈夫なのか?」

「いいえ、いつでもってわけじゃないわ。 えーと確か……明後日ね」

「明後日!? 急すぎないか!?」

「ちなみに、明後日からは学校も始まるから、もしヨウタが適性検査で合格しなかったら、この城に1人で暮らす事になるわ」

…この城で1人…だと…!? そうだ、この2人は寮に泊まっちゃうんだもんな……

「…ぜ、絶対に受かってやるぜ! 」

俺は、明後日の適性検査に向けて、闘志を燃やした。

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