白昼夢

安湖

1話 前編

 うちの大学は変わっている。
それに気がついたのは1年生の秋頃だった。わが久山大学はあまり頭がいいとは言えない大学だ。校内は誰も完全に把握出来ていないと言われるほど広いが周囲は山に囲まれ、街に行くにはバスで30分かかるうえに土日は2時間に1本しか来ない。

そのせいか全体的にのんびりとしており、みんな遅刻しても急がないし服装や髪型も奇抜な人が多い。
このあたりはまわりの大学と変わらないかもしれないが、普通科の大学だというのに校内には猫や犬、しまいには羊やヤギもいる。生徒達は慣れきっているため誰も驚かないが、校外から来た人は必ず驚く。

噂では10年以上在学している人や12ヶ国語が話せる人もいるとか。そんな変な大学、入学希望者はさぞ少ないことだろうと思うが何故か定員割れしたことはないらしい。おもしろがってわざわざ引っ越して来る人やなにか目的を持ってくる人もいるが、知らずに入学してくるものは稀だ。
なんと、私は知らずに入学してしまい、半年以上こんなものかと思いながら生活していたが、だんだん普通ではないことに気がついてきた。


 「ねぇ・・・・・うちの大学って変だよね?」

大学で再会した幼馴染のチアキに聞くと、呆れた顔で「いまさら何言ってんの?」と返された。

「このあたりじゃ有名だよ」
「そうなの?」
「相変わらず鈍感だねハルカは」

チアキは笑いながらペンをくるりと回した。100人以上が一気に受ける授業なので私語をしている人も多い。半円状の席の中心にある教卓では、今にも死に絶えそうなおじいちゃん先生が講義をしている。

 「ほら、見て。たとえばあの人」

チアキがペンで指した方を見ると、地味な男の人がひとり黙々とノートをとっていた。まともに聞いている人の方が少ないこの教室では逆に浮いている。

「青木ユウキ。心理学科の3年生なんだけどUMAの人で妖怪なんじゃないかっていう馬鹿みたいな噂もある」

UMAとは世間的には未確認生物のことであるが、久山大ではサークル名であり活動内容は名前のとおりUMAについて研究しているらしく、変人の多い学内でも異質な存在である。

 「なんか何も無い空間から小判を出したとか、式神を持ってるとか、そんなわけないのにねぇ。ていうか時代錯誤すぎるよね」

チアキは鼻で笑い、思い出したようにそういえばと続けた。

 「最近は占い始めたみたいで、よく当たるって先輩が言ってたな」
「占い?」
「水晶で見るらしいよ」
「水晶・・・・・」

オーソドックスすぎて逆に胡散臭い。

「未来が見えるらしい」

ふぅんと返事をしたところでチャイムが鳴った。おじいちゃん先生がのろのろと黒板を消している後ろを生徒たちがぞろぞろと出ていく。

 私も荷物を片付け顔を上げると、青木ユウキと目が合い、その瞬間ゾッと寒気が背中を駆け抜けた。ちょうど話題にしていた気後れということだけでなく、あまりにも温度がない目でこちらを見ていたのだ。私はすぐに目をそらしたが、なおも視線を感じる。

 「チアキ・・・・・」

隣でスマホをいじっていたチアキの腕を引っ張り小声で呼びかけた。チアキはどうしたのと聞こうとしてやめたようだった。青木に気がついたらしい。そのまま私の腕を引いて足早に教室を出た。

 「やばいよ」
「うん・・・・・聞こえてたのかな」
「それだけじゃないでしょ・・・・・あの目は」

チアキは舌打ちをして今出てきた教室のドアを睨んだ。

「ただでさえ変人が多いのに油断したね」

本人の近くで話をしたことだろうか。
チアキはこの辺りの人間なので県外から来ている私より詳しい。どういうことか聞こうとしたが今からバイトだからと帰ってしまった。


 まっすぐ帰りな、とチアキに言われたが来週までのレポートが仕上がっていないので図書館に寄った。
目当ての資料は地下書庫にしかなかった。
地下書庫は暗くひんやりとしていて、人もあまり寄り付かないところだ。人混みや図書館の張り詰めた空気が苦手なので普段は地下の方が好きなのだが、今日は昼間のこともありあまり行きたくなかった。

 階段を下りる固い音が冷たい空気を揺らしている。やはり人はおらず肌寒い。鉄の本棚の間を通る度に陰からなにか出てくるのではないかという気がする。
目当ての資料を見つけ、早く戻ろうと階段を登っていると足元をなにかが通った。振り返ると、3段ほど下で青木がこちらを見ていた。

「!」

 声も出なかった。何度も階段を踏み外しそうになりながら駆け上がり地上に出た。図書館に続くドアを開けると、静かな図書館に私の足音が響いていたのか皆こちらをぎょっと見ていた。

 「あの・・・・・出来るだけ静かにお願いします」

「あ・・・・・ごめんなさい」

職員さんに注意されたが、安心感すら覚えた。
青木は追っては来ていないようだった。



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