幻想求むる狂戦士
第三話 企み
「君は間違っているとは思わないのかい?」
そんな声がかけられたのは、作業所へ向かうところだった。
「んあ?」
ま~た面倒くせえヤツが絡んできやがったなあ、と思ってると相手にも伝わってしまったようだ。
「だから!同胞を殺し続けることが!間違っているとはおもわないのか?」
「思ってるさ」
即答してやる。
お前の何十倍も、何百倍も思っているとも。
「な・・・、それならなぜ!」
「馬鹿かお前は?間違ってることはあって当然。むしろ世界が間違ってるまである。
で?
それで、どうする?」
「は?」
「間違ってるものを直せないなら自分が間違えるしかねえだろうが」
それとも、オレに代わりに死ねと?もっともオレが死んでも何も変わらないのだが。
そんなことも考えずに話をするな。イライラするな。
いっそ、この場でー
全く意識の外から叫び声が飛び込んできた。
「このおとこおおおお!殺してやるうううう!」
「もう少し、待ってくれ」
昨日、恋人?をオレに殺された女が銃を向けている。
考えていないのはオレで、考えているのは彼だった。
実際、彼が制止していなかったらオレは物言わぬ死体となっていただろう。
「そうか・・・このためか」
やられた。
ほぼ完全に注意がコイツに向いていた。
いつもなら人が話しかけて来るだけで不信なのだが、今日はマーシュと長話をしていたせいで自然に思えた。いやむしろそれがまともだったのだろう、ここじゃなければ。
「ふ。まんまと引っ掛かってくれてありがとう。
君が少しでも反省しているようなら話は違ったんだがね」
とりあえず時を稼ごう。
そうやっていつも先延ばしにしているのだから。そもそもここにいるのも、だ。
「へえ。どうやって?
まさかあの女を説得できねえだろ?」
「いやあ。ボクに協力してもらおうとね」
つまり当初の協力者の女を殺してでもオレの力を借りたい何かがあると。
「へえ。賢いな。あの女を切り捨てオレを使う、か。
そりゃあ等価交換にならねえぞ」
「ボクは何かを捨てて何かを手に入れる気はないよ。
できることなら全部欲しい」
「・・・さっき女を止めたのはそのためか。
なら、やめときなよ。
オレは人の下につく気はねえからよ」
「うーん、残念だなあ。ちょっと痛い思いをしてもらおうか」
男の方も銃を抜いて構える。
さて。どうしたものかねえ?
男の銃が確実にオレに死をもたらすだろう。
背中の剣が抜ければ別なのだが。
女の銃は避けれるか?約10m。素人だろうから、あるいは。だが、かわしきれなかったとき、それはほぼ死を意味する。ここには治療なんてないのだから。
緊張が辺りを包む。
暑くもないのに、汗が垂れる。
均衡を破ったのは男でも女でもオレでもない声だった。
「お、おいおい」
男の視線がそちらにズレる。
でかしたぞ、マーシュ
右肘で男の銃を弾き飛ばし、左の拳で腹を殴る。グッと呻いて気絶する。
女が慌てて銃を構え直すを横目で捉える。
よし、躱してー
机の角に左膝がぶつかる。
狭い!
ならば!
二つの銃声が重なって響く。
女が眉間から血を吹き出して倒れるのを確認し安心するも、右肩を赤黒い血が伝う。
クソッタレ。何で貫通するんだよ!
最終的にオレがとった行動は男の体を盾にするというものだった。
躊躇わずに撃ったことは意外だったが。
辺りが悲鳴に包まれるのも構わず次は男に銃を向ける。すでに銃弾が身体を貫いているが、まだ動けるはずだ。
「やめろ!」
マーシュが叫ぶのに冷徹な銃声で応える。
「お前!何を!」
何を生温いことを言っているのだろうか。下手するとこの血よりもずっと生温い。
人を殺していいのは殺される覚悟があるヤツだけだろうが。
現場が悲鳴と陰欝に包まれるのを、また新たな声が破る。
「皆さん労働の時間ですよ?」
「~っ、元はといえばてめえがあああああああっ!」
一人が喚き散らし銃を澄まし顔の男に向けて撃つ。
無駄だ。
男に到達するまでに縦断が鉄の粒となって消える。
魔術。我々人間が最も忌み嫌うもの。
「反抗的ですねえ。
でも、殺しはしませんよ。生かさず殺さずといった今が一番ですからね」
「てめえ、何しに来やがった」
「おやおや。そんな怖い顔しないで下さい、あなたとボクの仲でしょう。
あれ?右肩を撃たれたんですか?らしくないですね」
「てめえが剣を封印したんだろうが、鎖で」
「ふ~ん、そうでしたっけ」
そこで言葉を切り、オレを見据える。
「じゃあ、あなたは鎖が無かったら斬るんですか?その剣で」
ゾクゾクと冷気がはしる。これは魔術なんかと違う人間的恐さだ。
そして。あの光景が蘇る。
鮮血。
震え声。
涙。
笑顔。
「はっはっは。冗談です。また会いましょうね。剥奪名さん」
その背中を睨みつけながらも。
見ているのはさっき甦った光景だった。
そんな声がかけられたのは、作業所へ向かうところだった。
「んあ?」
ま~た面倒くせえヤツが絡んできやがったなあ、と思ってると相手にも伝わってしまったようだ。
「だから!同胞を殺し続けることが!間違っているとはおもわないのか?」
「思ってるさ」
即答してやる。
お前の何十倍も、何百倍も思っているとも。
「な・・・、それならなぜ!」
「馬鹿かお前は?間違ってることはあって当然。むしろ世界が間違ってるまである。
で?
それで、どうする?」
「は?」
「間違ってるものを直せないなら自分が間違えるしかねえだろうが」
それとも、オレに代わりに死ねと?もっともオレが死んでも何も変わらないのだが。
そんなことも考えずに話をするな。イライラするな。
いっそ、この場でー
全く意識の外から叫び声が飛び込んできた。
「このおとこおおおお!殺してやるうううう!」
「もう少し、待ってくれ」
昨日、恋人?をオレに殺された女が銃を向けている。
考えていないのはオレで、考えているのは彼だった。
実際、彼が制止していなかったらオレは物言わぬ死体となっていただろう。
「そうか・・・このためか」
やられた。
ほぼ完全に注意がコイツに向いていた。
いつもなら人が話しかけて来るだけで不信なのだが、今日はマーシュと長話をしていたせいで自然に思えた。いやむしろそれがまともだったのだろう、ここじゃなければ。
「ふ。まんまと引っ掛かってくれてありがとう。
君が少しでも反省しているようなら話は違ったんだがね」
とりあえず時を稼ごう。
そうやっていつも先延ばしにしているのだから。そもそもここにいるのも、だ。
「へえ。どうやって?
まさかあの女を説得できねえだろ?」
「いやあ。ボクに協力してもらおうとね」
つまり当初の協力者の女を殺してでもオレの力を借りたい何かがあると。
「へえ。賢いな。あの女を切り捨てオレを使う、か。
そりゃあ等価交換にならねえぞ」
「ボクは何かを捨てて何かを手に入れる気はないよ。
できることなら全部欲しい」
「・・・さっき女を止めたのはそのためか。
なら、やめときなよ。
オレは人の下につく気はねえからよ」
「うーん、残念だなあ。ちょっと痛い思いをしてもらおうか」
男の方も銃を抜いて構える。
さて。どうしたものかねえ?
男の銃が確実にオレに死をもたらすだろう。
背中の剣が抜ければ別なのだが。
女の銃は避けれるか?約10m。素人だろうから、あるいは。だが、かわしきれなかったとき、それはほぼ死を意味する。ここには治療なんてないのだから。
緊張が辺りを包む。
暑くもないのに、汗が垂れる。
均衡を破ったのは男でも女でもオレでもない声だった。
「お、おいおい」
男の視線がそちらにズレる。
でかしたぞ、マーシュ
右肘で男の銃を弾き飛ばし、左の拳で腹を殴る。グッと呻いて気絶する。
女が慌てて銃を構え直すを横目で捉える。
よし、躱してー
机の角に左膝がぶつかる。
狭い!
ならば!
二つの銃声が重なって響く。
女が眉間から血を吹き出して倒れるのを確認し安心するも、右肩を赤黒い血が伝う。
クソッタレ。何で貫通するんだよ!
最終的にオレがとった行動は男の体を盾にするというものだった。
躊躇わずに撃ったことは意外だったが。
辺りが悲鳴に包まれるのも構わず次は男に銃を向ける。すでに銃弾が身体を貫いているが、まだ動けるはずだ。
「やめろ!」
マーシュが叫ぶのに冷徹な銃声で応える。
「お前!何を!」
何を生温いことを言っているのだろうか。下手するとこの血よりもずっと生温い。
人を殺していいのは殺される覚悟があるヤツだけだろうが。
現場が悲鳴と陰欝に包まれるのを、また新たな声が破る。
「皆さん労働の時間ですよ?」
「~っ、元はといえばてめえがあああああああっ!」
一人が喚き散らし銃を澄まし顔の男に向けて撃つ。
無駄だ。
男に到達するまでに縦断が鉄の粒となって消える。
魔術。我々人間が最も忌み嫌うもの。
「反抗的ですねえ。
でも、殺しはしませんよ。生かさず殺さずといった今が一番ですからね」
「てめえ、何しに来やがった」
「おやおや。そんな怖い顔しないで下さい、あなたとボクの仲でしょう。
あれ?右肩を撃たれたんですか?らしくないですね」
「てめえが剣を封印したんだろうが、鎖で」
「ふ~ん、そうでしたっけ」
そこで言葉を切り、オレを見据える。
「じゃあ、あなたは鎖が無かったら斬るんですか?その剣で」
ゾクゾクと冷気がはしる。これは魔術なんかと違う人間的恐さだ。
そして。あの光景が蘇る。
鮮血。
震え声。
涙。
笑顔。
「はっはっは。冗談です。また会いましょうね。剥奪名さん」
その背中を睨みつけながらも。
見ているのはさっき甦った光景だった。
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