八女津一族の野望

ひなたまひる

忘れ去られた運命の一族


子供のころ、大人たちにこんなことを言われたことはないだろうか。
「時代が時代ならここは首都だったかも知れないよ」
平安から江戸まで都であった京都はもとより、奈良、大阪、岐阜、神代にさかのぼれば島根宮崎、時の権力者が権勢を振るった本拠地や居城なら、その可能性は確かにあったはずだ。

八女に生まれ育った人間もまた、この言葉を誰もが一度や二度とは聞いたことがある。
そんな時、子供たちは決まって笑い飛ばすのだ。

何を寝言を?
八女がどうやったら首都?
時代に取り残されたこんなド田舎なのに。

八女市は福岡県の南部、熊本と大分との県境に位置する。
見渡す限り田んぼと畑、山あいには杉林と果樹園が広がる典型的なド田舎だ。
高速道路行政や新幹線計画にも置いて行かれ、工業開発にもソッポを向かれたまま、まるで陸の孤島のように近代化から隔てられてしまった町である。

かつてはこじんまりとした賑わいを見せていた町の中心地はシャッター街となり、徒歩ですれ違う人はほとんどいない。
無駄に整備の行き届いた道路を、暴走する軽自動車が行きかうばかりだ。

しかし、時折、真剣な眼差しで先達の声を聴くものがある。彼らには確信があった。
いや、信念といったほうがいいかもしれない。
いつか必ず、我々がこの国の頂点となる。
そして八女を首都に。
その目的が達成するときまで、彼らは決して諦めはしない。
八女津一族。古代より八女から日本征服を目論む、歴史に埋もれた一族の末裔たちである。

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