悪役令嬢は魔王の小鳥

せれぶ

2話

スカートを気にしつつがさがさと森の中を歩く。魔物はいないのかしら。
しばらく進むと切り株を見つけた。ちょうど疲れてきたことだしあそこで休もうかしら。ぱっぱっと土を払い座る。


「……あら…」


ふと上を見ればきらきらと輝く星と淡く光る月が見えた。あぁ…本当に綺麗。お祖母様の愛したこの場所、美しい空、どうせ死ぬならばここで死のうかしら。というかここがいいわ。
なんなら魔物に殺して欲しかったけれど…痛いのは嫌だし。

とりあえず眠ろう。ここにずっといれば食料もないし水もないから必然的に死ぬ。もしかしたら魔物が通りかかって殺してくれるかもしれない。

そんな希望を抱きながら切り株に横たわる。かなり大きな切り株だったから余裕で寝っ転がれる広さだった。
目を閉じて周りの葉のかすれる音と星の音を聞いて。
ゆっくりと意識を手放した





「はぁ…次はなんだ。私を倒そうと粋がる騎士か?はたまた魔物を従えようとする愚者か。」

私の魔王城の周りに広がる通称黒の森。そして魔界の入口。
愚かな人間が入り込もうとも森がそれを許さず、大体は知らせが届いても森が殺してしまう。
それで人間を殺したなんだと言われてもそちらが手を出したのではないかといえば耳を塞いでそんなものは知らんと…本当に呆れる。
どうせ次もそんなものだろうと聞き流そうとしたがそういうわけにも行かなくなった。


「いえ、その少女は貴族…らしいのですが」

「なに…?」


詳しく聞けば馬車から落とされ暴言を離れたあとそのまま捨てられたそうだ。…またか。
だが貴族の娘というのが気になる。せいぜい来るのは貴族であっても男ばかりであった。なにか事件でも起こしたか皇族に不利益をもたらしたか…まぁ気にすることでもないが。
…だが、1つ気になる情報があった


「…嬉嬉として森に入った…だと?」

「えぇ…敵対心や恐怖心がほとんど感じられず…今は魔大樹の切り株の上で眠っていると…」

「……ほぉ…」


森が殺さなかったのであれば多少は話の通じる人間なのだろうか。
…興味が湧いてきた。


「私が行こう」

「人間に魔王様直々行かせるわけにはまいりません。もし何かあったら…」

「人間如きに私が傷一つつけられると?」

「いえ、滅相もございません」

「ならば問題なかろう」


ですが…と引き留めようとする部下を無視し、直接外に出るための窓を開きばさりと翼を広げ空へ飛び立った。





「……」


魔大樹にそろそろ着くはずだ。確認するために下を向くと…びしりと体が一瞬固まり、当然翼の動きも止まるので落ちるかと思った。
慌てて翼を動かしゆっくりと地面へ降りる。

空からでもわかる、美しい純白の長い髪。さらりと髪が黒い幹にかかり白がよく映えていた。
豪華すぎない、淡い青のドレスは彼女によく似合っていた。

起こさぬように近づくと彼女の顔が良く見える。白く長い睫毛に淡いピンクの頬。
思わず手を伸ばし頬に触れそうになるが、自分の尖った爪を見て手を止めた。
触ってしまえば壊れてしまうのではないか。薄い硝子のように繊細そうな子の娘が。
…こんなことを思ったのはあの娘がいなくなってからは初めて…いや、あの娘よりもその思いが強い気がする。


「…まさかまたこんなになろうとはな」


できるだけ傷つけぬよう優しく娘を抱き上げた。驚くほど軽い彼女を落とさないようにほんの少しだけ力を入れる。


「ん……」

「!」


小さく聞こえた娘の声。ぎゅぅっと心臓を掴まれたような感覚に囚われつつ起こしたのかと思い慌てて様子を見る。
幸い少し動いただけで起きてはいなかったようなのでそのまま翼を広げて城まで飛んだ。




「ふぅ…」


ゆっくりと着地し足で窓を開く。たまたま中にいた部下にはしたないですよ。と言われるがそんなこと知らん。私は1秒でも多くこの娘に触れていたい。


「…というか魔王様!人間の娘を抱いているなど…っ!」

「うるさい。私はこの娘が気に入ったのだ。すぐに部屋を用意しろ。」

「へっ、は!?」


目をこれでもかと言うほど大きく見開きあんぐりと口を開ける。お前そんな顔できたのか。
部下の新しい一面に少し驚きながらもゆっくりとソファに娘を寝かせる。
小さく寝息を立てる少女に愛おしさがこみ上げる。…というかよく起きないな。


「…早くしろベルフェル」

「…御意」


諦め始めたのか少し大人しくなり、渋々部屋を出る。その直後人間めがぁぁぁあ!!!という声が聞こえた気がするが私はその声で娘が起きないかという心配の方が強かった。
結果起きていなかったのでよしとしよう。





「くそぅ…うぅう……」


あの人間のためにこのベルフェルが魔王様に睨まれるなど…!
あぁでも魔王様のあの目は素敵でございました…真っ赤な美しい目が私を突き刺して…はぁ…♡

いや、それよりもあの娘だ。魔王様に気に入られるなど…すぐに飽きられて魔物の餌になれば良いのだ。確かに少しだけ見えた絹のような白髪はすばらしいと…いやいや魔王様の艶のある黒髪の方が圧倒的に美しい…


「流石に気持ち悪いわベルフェル」

「あ?」


後ろを見れば紫煙を燻らしながら冷めた目で私を見る女。…魔王様の第2の部下、ルジェロン。
露出の多い服をいつも着てはしたない…。


「気持ち悪い顔で魔王様魔王様って…いつもそうだけれど今日はいつもよりどろどろしてるじゃない。どうしたのよ。」

「どろどろとはなんだ。私は魔王様をこれ以上ない程尊敬して…」

「はいはいわかったから。で?」


こんの…私がま王様をどれだけ尊敬しているかを語ろうというのに……。
まぁ今はいい。

「……魔王様が人間の…貴族の娘を気に入られた」

「ふぅん……はぁ!?」


いつもの澄まし顔はどこへいったやら焦った顔で私に詰め寄る。


「なんで!?魔王様がなんで人間なんかと!?」

「知らん!…確かに見栄えは悪くは無い娘だったが…きっと何かされたのだ!きっと魅了チャームかなんかを!」

「人間がそんな魔法使えるわけないでしょ!ちょっと行ってくるわ!」

「やめろ。今あの人間が寝ていて魔王様が起こさぬようにしているのだ。
それよりも今は魔王様の命であの人間の部屋を用意せねばならん。
せめて魔王様の機嫌を損ねぬ様人間には勿体ないがちゃんとした部屋を用意せねば…」


なんですって…!と呟くと何か考えるような仕草を取りすぐに顔を上げた。


「…あたしも行くわ。」

「それは構わんが…あたしになってるぞ。」

「あっ……私も行くわ」

「はいはい」


こいつといると疲れる…はぁ。
それよりも部屋をどんなデザインにするか考えなければ……

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