悪役令嬢は魔王の小鳥

せれぶ

1話

大きな切り株に寝転がる美しい少女。2対の角と大きな蝙蝠の羽を持った黒ずくめの美青年がそれを見つめる。

そして彼は少女を抱くとばさり翼を広げ飛び立った_





かつりとヒールの音を立てて“1人”の令嬢が入ってきた。
純白の髪の美しい少女、マリアンヌ・スカーレット公爵令嬢である。

パーティでフィアンセ無しで会場に入る。これは由々しき事態だ。

…が、彼女は焦ることもなくいつものように堂々と歩く。そんな彼女に逆に焦る周り。気にする様子もなく彼女はシャンパンをもらいこくりと飲んだ。
彼女が1人で会場に入ってきたことも忘れ、会場中の男性はその仕草にぽーっと見惚れ女性は憧憬の眼差しを向ける。

そんな中バンッと大きな音を立てて開いた扉。1人でホールに入ってきた私を凝視していた貴族達のほとんどが音の方へ顔を向けた。

入ってきたのはこの国…シルヴィア国第1皇子、ミッシェル・ロワイエ・シルヴィア。そしてもう1人…皇子に可愛らしく寄り添いながら歩いてくる少女、リーシェ・モージェン

皇子は立ち止まるとリーシェの肩を優しく抱き、ギロリと私を睨みつけてきた。
リーシェはそれに頬を染め安心したように微笑む。皇子はそれを見て満足そうに笑い、こちらに顔向き直した。そしてすぅ…、と息を吸うと


「マリアンヌ・スカーレット!!」


と私の名前を叫んだ。再度周りの人の視線が私に集まる。皇子の隣に立っているリーシェは申し訳なさそうにこちらを見つめた。


「…はい、私はここにいますが。」


どうされました?と返せばより一層睨んできた皇子。


「今、この時を持って!僕とマリアンヌ・スカーレット侯爵令嬢の婚約を破棄する!!」


その瞬間ホールがざわついた。なぜ?どうして?そんな声がちらほらと聞こえる。


「そして、僕はこの人…リーシェ・モージェン伯爵令嬢と婚約することを決めた」


またまたざわり。


「…申し訳ありませんマリアンヌ様…」


おどおどと、申し訳なさそうにリーシェが私にそう言った。そう思うなら皇子と接触せずに過ごせばいいものを…本当、馬鹿みたい


「……えぇ。構いませんことよ。それで、私はどうなるのかしら?」

「…は?」
「ぇ、?」

「?」


あら、なにかおかしいことを言ったかしら?だって、彼が私と結婚したくないと仰っているのでしょう?それならばわがままを言ったって変わらないと思うのだけれど。


「…いいのか?」

「皇子が破棄すると言うのであればもちろんお受けしますわ。まさかとは思いますが皇子はそうやって私の気を引きたかったんですの?」

「そんなことがあるわけあるか!」

「それを聞いて安心しましたわ」

「〜ッ」

「ま、マリアンヌ様…」

「あらごめんなさいね?それで、どうするのかしら」


お父様はきっとお怒りになって…また殴られるかもしれないわ。痛いのは嫌いなのよ、私。あと理不尽も嫌い。悪いのはお父様なのに何かと言いがかりをつけて…楽しいのかしら?誰のおかげであの生活ができていると思っているのかしら。


「ふん…貴様はリーシェへの虐め、ホールでの辱め等々…それらの罪で地位剥奪、そして国外追放だ」

「あら、それは納得出来ませんわ。私そんなことやっていませんもの」

「っ…マリアンヌ様……あんなに酷いことをしたのに…」


大きな目に涙を浮かべふるふると震えるリーシェ。皇子はぎゅっと安心させるようにリーシェを抱き寄せた。


「み、ミッシェル様っ」


頬を赤く染めるリーシェに皇子は優しく笑いかけた。


「大丈夫だリーシェ、僕が守ってやる」

「ミッシェル様…」

「そういうわけだ。衛兵!あやつを捉え黒の森へ置いてこい!」

「「は、はいっ」」


複数の兵に腕を掴まれる。だけどそれは全然痛くなくて手加減してくれていることがわかる。


「…申し訳ございませんマリアンヌ様」

「気にしてはいないわ」


荒く、だけど優しく馬車に載せられ連れてこられたのは黒の森。
鬱蒼と生い茂る真っ黒な葉に黒と紫の地面。ギャアギャアと鴉や鳥の魔物が空で鳴いている。


「きゃッ」


乱暴に馬車から皇子に突き落とされ地面に倒れ込む。そんな私を見て皇子は


「前からお前が気に入らなかった。魔物がなんだと…下等生物に現を抜かし愛しているなど!そんなことを言っている癖に勉強も何もかも僕を抜かしやがって!
…これでこの国の1番はボクだ」


そういうと皇子は馬車の扉を閉めた。がらがらと馬車が音を立てて去っていく。


「……ふぅ」


ゆっくりと立ち上がりドレスについた土埃を手で払う。

さて、これからどうしようかしら。きっと国に戻ってもまたここに捨てられるだけだしそもそも地位が剥奪されているから行っても下手すれば奴隷行き。さすがにそれは避けたいもの…


「……さて、最後は来たかった場所で死にたいわ」


昔から興味があった。最愛のお祖母様が話してくださった黒の森。黒い葉、黒い木の幹、黒い花。全てが黒くて禍々しくて…美しいと。

来たかったけれど身分が邪魔で来られなくて…ふふ、あの娘のおかげね。3秒だけ感謝してあげるわ。
そんなことを思いながらルンルン気分で森の中に入った。

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