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不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

22.イベントぶっ潰すなんて思わないじゃん!

メーデーメーデー。

気まずさ全開の今日この頃。
誰だよ2人ペアで肝試しやろうって言ったの。誰だよ男女ペアになるようにくじ引き作ったの。

目の前に立つこの男とだけは絶対に勘弁して欲しかった。
確率ゲーの癖に15分の1のあたりを引き当てるなんて、幸運なのか悪運なのか。どっちかっていうと、悪運だ。嬉しくなさすぎて杏だってびっくりだ。

「杏、お前怒ってるだろ」

黒瀬にはこの顔は怒っているように見えるらしい。杏の眉毛は八の字に下がって、神に祈るように手を組んでいるのにだ。

「別に、怒ってませんけど」

冷静に、あくまで、冷静に。
杏よりも高い位置にある黒瀬の顔を見つめる。下からのぞき込むように見ると、黒瀬の顔はいつもよりよく見えた。いつものシワがより一層深くなる。シワの癖がついて将来皮膚がたるんでしまいそうだ。可哀想に。
怒ってるだろうと決めつけるにしては、黒瀬の顔は苦しそうで勘違いしてしまいそうになる。それなのに彼の声は冷たくて、杏なんか面倒なやつだと思っているに決まりだ。なぜだか心の奥深くがヒリヒリと痛んだ。

「俺は、栗山の事なんてなんとも思ってないから…。俺は、俺は…」

黒瀬は杏の肩を両手でそっと掴むと、何か言いたげに、言葉を口から吐き出そうとして引っ込めた。俺はなんなんだ。

「…なに?」

黒瀬に掴まれた肩が鼓動と共にじわじわと熱くなる。男の人の大きな手だった。

「栗山は変な奴だ、俺はなんとも思ってない。気持ち悪い。だから、俺はあいつの事はなんとも思ってない」

言葉を探すように目を彷徨わせて、黒瀬はゆっくり己に言い聞かせるように言った。

それは、気づいた思いを誤魔化すような態度だ。きっと黒瀬は気づいてしまったのだ。栗山さんへの小さな恋の芽生えに。
なんとも思ってないなんて嘘だった。

そこではたと気づいた。
なぜ自分はこんなに嫌な気分になっているのか。心臓にちくりと刺さった針を引っこ抜いたけれど、でもそこには何も書いてなかった。それならこの針は一体なんだ。

黒瀬に対して、杏はどうなりたいのだろう。

「司くーん! 何番だったー?」

2人の沈黙を割いたのは、こともあろうかあの栗山桃華だった。その可愛らしい栗色の髪を揺らして走りよってくる彼女は、なんの疑いもない純粋な少女だ。彼女が裏では男を侍らせたいと本気で思っていても、杏をダシに使って攻略キャラと仲良くしようとしていることも、おくびにも出さない徹底した美少女っぷり。

「…やっぱ、きらいだ」

黒瀬が桃華が好きなのが許せないのではなくて、桃華が黒瀬を好きなのが許せない。可愛い弟が女から見ると最悪な女を彼女にする時と似ている。まあ、弟なんていないけど。

こいつだけはやめとけの典型である。

「俺、杏と一緒だから」

黒瀬は走りよってくる桃華を避けるように後ろに下がると、杏の左手首を掴んで引き寄せた。

「…司くん」

伸ばしかけた手が宙を掴み、桃華は呆然と黒瀬の掴んだ杏の左手を見ている。
やめてくれよ、と思う。
結局この場は引いても、後で文句を言われるのは杏で、迷惑なのも鬱陶しいのも杏のせいにされるのも明確なのだ。
胃がキリキリしてきた。どうしてこうも思う通りに物事は運ばないのだろうか。

「な……んで?」

ほらみろ。

桃華は黒瀬を見上げて小さく呟く。それは聞き取れないくらいの大きさで、杏には辛うじて雰囲気で感じ取れる位のものだ。
桃華の言うところの、イベントってやつなんだろう。
黒瀬の所にくる、ということは尾白でも紫月でもなく、黒瀬の専用イベントといったところだろうか。
心底どうでもいいが、黒瀬が本当に桃華を好きになったのか確かめるべく、もう少し付き合ってやることにした。

「あ、私の6番なんだけど、司くんの何番だったかな…?」
「9番だけど、それがどうかした?」

杏も黒瀬と共に番号の書かれた紙をみる。走り書きの数字から、くじを作る時間も少なかったと予想できる。どうせ当日に男女ペアにしようぜとか言って作り替えたに決まっている。

「もしかして司くんのそれ、9番じゃなくて6番なんじゃないかな? 」

食い下がる桃華と、クジを睨みつける黒瀬。3枚とも6とも9とも取れる書き方で、肯定も否定もできない。

「キミ、9番?」
「あ……紫月先生」

1歩後ろに引いて事を見守っていた杏の後ろから、ぬっと出てきた綺麗な顔がくじをじっと見ていた。

教師にあるまじき長い髪を束ね、唇がゆっくりと弧を描く。紫月の眼は楽しそうに細められている。

「ごめんね、男子が1人体調不良みたいで。3人でもよかったんだけど、三島くんがぜひ先生もって言うから、調子に乗っちゃった」

とか言って、たいして申し訳なさを感じていない顔で眉を八の字にした。それから紫月は艶のある長い髪を風に任せるように揺らめかせて、細くもない手首にぶら下げたままの懐中電灯をとった。

「それじゃあ行こうか、小泉さん」

ぴきぴきと青筋が走る。

まじかよ、である。
ほらみろ、紫月とだなんて言うから、桃華を始めとした大人な恋を夢見ている女子の目がギラギラしている。なんであんたなのって。

「え、でも…」
「あれ、9番じゃなかった?」

いたずらが大好きな小学生のような態度で、にこりと威圧した紫月は、杏の返事など聞いていなかった。

「…キュウバンデス」
「よかった、間違えたかと思った」

ギリリとハンカチを噛み締める音がする。杏はまんまと嵌められたのかもしれない。あわよくばカッコイイ先生とのロマンチックラブ的な、女子高生特有の気の迷いをガードするための盾として。勘弁してくれ。こんなストレス社会はノーサンキューだ。

「待ってください。紫月先生のって6番なんじゃないですか?」

黒瀬の声がした。

正直どっちでもいい。
9でも6でも。
杏の取れる選択肢は紫月か黒瀬か。はたまた渾身の演技でどちらも桃華に押し付けるか。

こうなったら一か八か、やるしかない。
あざとく、弱々しく、そしてサッと引く。

重心を軽く後ろに引いて2歩下がりながらよろめくふりをする。それから近くの人にぶつかって、弱々しくこう言うのだ。

「ごめんなさい、貧血で…」

尻すぼみに言うのがポイントである。女優ではないので泣くなんて芸当は出来ないが、こんなもんで大体は誤魔化せる。

畳み掛けるように

「先生に付き合ってもらうのも申し訳ないので、部屋で休んでも良いですか? 少し安静にすれば大丈夫なんです」

ぎゅっと紫月の上着の裾を握りしめて、杏は上目遣いで懇願した。

完璧だ。

「それは大変だ。じゃあ、一緒に医務室へ行こうか」
「待ってください。先生はお忙しいでしょうから俺が行きます。ほら、杏。こっちだ」

黒瀬はさっと杏をいたわるように背中に手を添えた紫月を睨みつけた。その形相は親を殺された復讐鬼のようであり、同時に姫を守ると誓った剣士のように見える。
杏たちの行方を周囲が固唾を飲んで見守る中、渦中の男性たちは女性陣には目もくれず、バチバチと火花を散らしている。

紫月の方は面白がっているだけのようにみえるが、どうにも黒瀬がからかいがいのある男なのがいけない。そう杏は思った。

それから、コンマ2秒開けて思う。この作戦を使うのは今日で辞めてやる、と。

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