話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

21.人の不幸で飯を食う男

食べ終わった食器を洗う音を聞きながら、つまらなそうな顔で杏と嶋は皿を布巾で拭いていく。終始無言で食べたカレーはものすごく美味しかったはずなのに、どんな味だったのかもう覚えていない。

「にしても、あの態度はどうなわけ?シメるか?」

拭き終わった皿を戸棚に戻す杏に、嶋は手に持った布巾を軽く振りながら言った。気に食わないと顔を顰めた嶋の言葉は嫌悪と言うより友人としての愛のある怒りのように聞こえた。

「同感なんだけど、しばらく顔をあわせたくないから私はパスで」

そう返して黒瀬の笑った顔を思い出していると、調理台に寄りかかった嶋が気まずそうに肩をすくめた。嶋がわるいわけでもないのに、困ったように微笑んで杏の肩を優しく叩いた。考えてもどうにもならないとわかっているが、認めたくないのだ。黒瀬が栗山のことを好いているのか、栗山の本命が黒瀬なのか、取り巻きの一人にするだけなのか、そうだとして杏にできることはなにか、それから杏が誰を好きなのか。たぶん逃げているだけなんだ。すべてから。そう思う。

「そんなことよりこの後の肝試しのことでも考えよーぜ! な! 翔!」
「うわ、やめてよ大輝くん。僕、考えないようにしてたのに…」
「想像通りの反応をありがとう、君は期待を裏切らないな尾白翔馬くん」

気を取り直したように明るい声で尾白の肩に手を添えた嶋は、屈託のない笑顔で尾白と杏に笑いかけた。嶋の良い所は空気を明るくできるところだ、と杏は思う。彼は自分本位に見せかけて相手や、他の周りのことをよく見ている。話の持って行き方一つを取ってみてもそうだ。嶋がいないとつまらないと言う友人も多いこともあり、なんで黒瀬と友人をやっているのか時々疑問に思うほどだ。

「大輝くんは面白いね」

尾白は困ったように笑ったが、どことなく嬉しそうだった。はじめはそれこそ見た目通りの静かで奥手な子だと思っていたが、案外明るく笑うし話してみると料理が得意で手先が器用だった。話してみなければ人となりなんてわかったものではない、と杏は思った。話してみたらとんでもない電波発信機だったこともあるから、プラスばっかりではないこともだしかである。

「さ、一回部屋寄ってから玄関行こうぜ」

蛇口をひねって水を止めた尾白に合わせて、嶋が布巾を物干しにかけた。憂鬱だと肩を落とした尾白の肩を組むように寄りかかった嶋は、いたずらっこのような顔をして笑うと、尾白を引っ張るように調理室から出ていった。

「あーあ、翔くんかわいそ」

杏がひとりごちるころには、嶋と尾白は男子部屋へと通じる階段を上って消えていた。調理室にはまだ片付け中の生徒数人と担当の先生が一人。杏も片付けは終わったので帰ろうとしたところで

「おーい小泉。生ごみだけ俺のところにもってこーい」

生徒たちの片づけをぼんやり見守っていた冴えない担任が杏を名指しで呼んだ。だるそうに窓の桟に腰かけて足を組むその様は教師としていかがなものかと思うが、杏には関係ないのでさっさと生ごみをまとめて帰ることにした。

三角コーナーを覗いて適当にまとめていると、不意に水道の流れる音が止まり、残りの生徒もぞろぞろと調理室から出ていく。あっという間に教室には杏と担任の二人きり。1人だけ取り残された杏の元へゴミ箱を持った担任が来ると、顎でさっさと捨てろと言うとくわっと大きなあくびを一つした。

「先生としてどうなの?」
「先生としてはしっかりやっているので大丈夫。それよりなに、お前の班仲間割れしたの?」

ダルそうに生ごみの入ったゴミ箱を持ち上げた担任に杏が苦言を呈すと、担任の中谷はぼさぼさの髪の毛をかき上げながら憎たらしく微笑んだ。三度の飯より生徒のいざこざを美味しく食べているろくでもない教師である。

「仲間割れではない、たぶん、おおよそ」

生ごみの匂いを防ぐように鼻をつまんだ杏は、早くどこかに行けと念じながら中谷を手で追い払う。これ以上は担任であっても話さないという壁を張っておくのだ。この手の人間は事件を追いかける刑事と編集者並みにしつこいのだから、青春真っ只中の青い子供たちを守るためにも、大事なことだ。

「俺が臭いみたいなのやめろよ。これでもまだギリ20代なの」
「そうなんですか? てっきり35歳くらいかと思った!」
「知ってるくせによく言う」

中谷は顔を顰めながらついでに見回りも手伝えと言って窓のカギを確認してまわる。仕方がないので杏もおとなしく水道の蛇口を固く締めて回る。

「俺の予想ではさ、黒瀬が仲間割れの原因だと思うわけ。ほら、栗山はどう見ても黒瀬狙いだろ?あ、でもあいつ青葉とも仲がいいって…。そういや柴先生はあいつらできてるって言ってたなぁ」
「げぇ、先生達って生徒の恋愛事情把握してるの? 怖すぎなんですけど…」
「しかたないだろ。生活指導部だから誰と誰が付き合ってて、別れたとか意外と耳に入ってくんだよ。青春中のガキどもは人間関係がぐちゃぐちゃだからな、感情のセーブがまだまだヘタクソなんだよ」
「感情のセーブが下手…」

ケタケタと笑いながらガスの元栓を占めてかかる中谷は、微笑ましく見守る親鳥担任にしては苛立ちを覚えるような憎たらしい顔をしていて、悪い大人だなと思う。

「中谷先生、片付け終りそうですか?」

悪い顔の中谷と軽口を言いながらおおよその確認が終わる頃に、あのウインドブレーカーを着こなしたエロフェロモン先生が調理室へ顔を出した。彼は杏の姿を見て少し目を見開いたが、すぐに何事もなくはいていた軍手を脱いでポケットにしまうと、手首に下げていた懐中電灯を手に持ち直した。きっと外で肝試しの準備をしていたのではないかと思うが、やっすい業務用の軍手でさえオシャレに見えてしまうからすごい。

「ああ、紫月先生。こっちはもう終わりだ、終わり。小泉が手伝ってくれたしな」

中谷は杏の方を見るとまた胡散臭くニタっと笑って、もうお前は釈放だと言わんばかりにしっしと手を振った。なんて横暴なサツなんだろうか。この調子ではまた「男女問題により仲間割れした」とみて再捜査、からの重要参考人として署で話を聞かせてもらおうかの流れになるに決まっている。署はもちろん職員室の「しょ」である。断じて言うが犯人は杏ではない。私欲まみれのサツに捕まるわけにはいかないので、杏は憎たらしい顔にさっさとお別れをして部屋に帰ることにした。

だからそのあと中谷と紫月がどんな話をしたのかは知らないのだが、その後の肝試しでの紫月の顔は半ば強張っており、中谷と言えば面白いおもちゃを見つけた子どものように笑っていた。それから杏や黒瀬、桃華を順番に見てはお腹を抱えて震えており、人をいらだたせる天才なのではないかと杏は思う。

「不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く