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不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

15.本日も晴天なり

 杏は朝から悲しみに暮れていた。
 やってきてしまったのだ。一学年の宿泊オリエンテーションが。

「おはよう杏。浮かない顔だな」
「おはよう司。そっくりそのまま返すわ」

 黒瀬の顔はここ最近で一番死んでいた。行きたくなさすぎる地獄の遠足へ一歩足を踏み出してしまったからだ。
 助けてくれだれか。そう思わずにはいられなかった。

「おはよー、2人とも。言わなくてもいい、わかってる」

 あとからきた嶋も2人の言いそうなことは予想しているようで、杏は戦場へ向かう兵士のような気分だった。共に参ろう戦友。骨を拾うのはお前に任せるよ嶋。

「皆おはよう。小泉さん今日もよろしくね」

4番目に到着したのは尾白だった。声は明るく弾んでいるが、いつにもまして前髪が重く、眼鏡の面積も広いせいで表情は見えない。

「尾白は肌がとてつもなく白いよな」
「へ?」

 嶋がそう言って尾白の腕をとり、ジャージの袖を捲った。尾白はびっくりして固まっていたが、杏も日頃からそう思っていたので、大いに頷いて尾白の真っ白い肌を見た。

「この白さに料理が上手い関係が…」
「それは関係ないと思う」

 杏の言葉にすかさず嶋が返してきた。杏だって不器用なことは自覚しているが、ちょっとくらい杏の腕が白くないから料理が下手なんだ、って言い訳があったっていいじゃないか。

「いいか、もう一度言うぞ。杏は包丁を触るな。それから味付けもダメ。やっていいのは皿洗いと…皿洗い。わかったか?」

嶋は杏の肩を揺すりながら、先週から再三言い続けていることを何度も復唱した。

「何やってんの。杏もちゃんと復唱して。はい、私は包丁を触らずに皿洗いだけしてます」
「私は包丁を触らずに皿洗いだけしてます」
「もう一回!」
「私は包丁を」

 杏がそこまで言った所で、全ての根源の桃華が走ってやってきた。

「みんなおはよー。翔馬くんも司くんもおはよう!」

 少しダボついたジャージに、いつもはしないお下げ姿の桃華は比護欲をそそる何かがあった。そして嶋と杏に興味はないらしい。嶋は意識をどこか遠くに飛ばして空を仰いでいる。杏も連れて行けよと思う。

「おはよう桃華ちゃん」

尾白は嬉しそうに挨拶を返し、そこにいたメンバーは目を瞠った。

こいつらの仲が進展している。
 杏たち3人は目を見合わせ、このまま尾白に桃華の手綱を握ってもらうのはどうかと目で会話した。
 そんな3人の様子を露とも知らない桃華は、黒瀬の顔を覗き込みながらおはようの返事を待っている。

「司くん?もしかして元気ない?喧嘩でもした?」
「大丈夫だ。元気だし誰とも喧嘩してない」

 喧嘩とはなんだろうか。桃華はたまに突拍子のないことを聞くと杏は思う。ほらまた黒瀬が引いている。本当電波だ。意味不明で理解不能。できれば避けたいがそうにもいかないし、黒瀬と高緑はともかく宗助を守り切らなければならない。

 杏に何が足りないというんだ。歩み寄りの姿勢か?なんせ圧倒的に杏には情報が少ない。

 桃華は宗助のことを少し違えてはいるが、おおよそ理解している。だからこそ味方などという発言ができた。と宗助は捉えていた。
 それは、あえて確信をついて宗助の気を引こうとしているように杏には聞こえた。厄介なのは桃華にはそれを実現できる引力が備わっていることだ。

 だが、宗助はそれを止める権利を自分たちが持っているわけではないとも言った。結局は本人次第なのである。

「だったら何?」
「はい?」

 気づけば杏は宗助にそう返していた。

「だったら何よ。私はあの電波が気に食わないの! それに宗助も司も高緑先輩も私のものなの!」
「すっごい我儘だね」
「そうだよ。私って我儘なの。でもね宗助、ある程度他人を思いやれれば、自分の心は自由なの。私が電波にむかつくのも、電波が宗助に気安く話しかけて腹が立つのも私の自由だ!」
「今の杏、栗山桃華にそっくり」

 その通りだと思う。杏は自分の周りの人がとられそうで焦っているだけだ。だって邪魔をしているのは彼女の方じゃないか。お助けキャラどころか杏は敵対勢力にでもなってやろうか。

 そんな先日のことをぼんやりと思い出していると、黒瀬が杏の視界に入って手を振っていた。

「杏? 号令かかってるぞ」
「あ、本当だ。ありがとう」

片方の眉を挙げて怪訝な顔をしていた黒瀬にお礼を言って、杏は黒瀬と足早に整列場所へ向かう。さあ戦場へ行こう。

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