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不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

9.杏の大切な○○○

杏が大好きな女性アーティストの曲を4曲程聞き終わった頃に、泣きながらエレベーターのボタンを連打している彼女が目に入った。それから数分もしないうちにエレベーターが来て、彼女は杏に気が付くことなく下を向いたままそれに乗り込んで見えなくなった。エレベーターのドアが閉まる音がして、杏は慌てて階段を降りた。

「ごめんね嘘ついて。ごめんね傷つけて。宗助もそうしたくてしてるわけじゃないんだ」

エレベーターの下っていく点滅を見つめたまま杏はそう呟いていた。彼女には宗助なんか忘れて幸せになってほしいと思う。

「あーんー、待たせてごめんなー」

間延びした声に振り返ると、ドアから少し顔を出した宗助が疲れ切った顔で笑っていた。その顔にちょっと笑った杏はお疲れだねーと声をかけて宗助と共に部屋に入った。

案の定リビングに置いて行った杏のカバンはなくて、どこにやったのかと思えば、宗助は申し訳なさそうに洗濯機から杏のカバンを取り出した。

「なんで洗濯機のなかなの。笑わせないで」
「くまなくいろんなところ開ける子だからさ、人が入れるスペースはダメかなーと思って。女の子の物があるだけですごい剣幕で怒って、杏の荷物が危険にさらされる気がした」
「でもあの人めっちゃ泣いてたけどね」
「あー、うん、告られたからフッたの」
「相変わらずですなぁ」

宗助は彼女をフッたことにもう興味がないようでそっけなく話したが、杏にはそんな宗助が少し寂しそうに見えた。杏には宗助が人に執着するがゆえに、いつかいなくなってしまう可能性におびえているように見える。だから宗助はあまり人を懐に入れたがらない。女の子は余計に。

寂しくて肌を合わせる癖に、宗助は信じきれないのだ。

「やっぱり杏といるのが落ち着くなー」
「血がつながってるから?」
「俺は血のつながりとか信じてないけど、杏だけは信じてあげてもいいと思う」
「それは光栄ですな」

杏と宗助は気を取り直して、杏の愚痴聞き大会を始めることにした。

「それで、杏の話って何?」
「…同じクラスの女の子がすごく、なんと言うか電波をこう、びりびりーって出してて。それから私のことをお助けキャラだから手伝えって言って、それからみんなあたしのことを愛してくれるから一緒に暮らすのって言って」
「まった杏、とりあえずオチ」
「電波女に宗助を紹介するように言われた」

杏の言葉に宗助はまたかと呆れたように肩を竦めた。そんな宗助をみた杏はバツの悪そうな顔で宗助のせいではないことを告げた。

「そうじゃないの。宗助だけじゃなくて司も文芸部の先輩も、あと生徒会長と同じクラスの子と紫月先生もたぶんそうなの」

杏の言葉に理解しがたいような顔をした宗助は、頭を掻きながらため息をついた。そんな宗助を見て杏はカバンからノートを取り出して図を書いてわかりやすく説明しようとペンを走らせる。

「ふーーん、要はその栗山って子が逆ハーレムを築いて、みんなで仲良く幸せに暮らしたいってこと?」
「まあ、そういうことかな」
「でもこれまだ6人しかいないな、7人なんだろ?」

確かに宗助が言うように図にしたとき6人しかいなかった。ただ、杏は宗助と高緑を紹介しろといわれただけだった。

「それに、高緑は部活の先輩なんだろ?それを紹介しろっていうのはまだわかる。でもなんで俺のことその子は知ってんの?俺たちが従兄妹同士だって教えた?」

その言葉に杏はハッとした。宗助と杏の関係を知っている人は学校にはいないはずだ。杏は黒瀬にすらも宗助との血縁関係は話していない。中学も違ったし、高校に入ってからだってこのことを誰にも言ったことはない。

「…私誰にも話してない」
「だよなぁ、俺も杏のことは誰にも言ってないしなー」

桃華の情報に、もしかする桃華はとんでもなく優秀な電子機器だったんじゃないかとの考えが杏の頭によぎった。深刻そうな顔でうつむく杏の髪を宗助は優しく撫でて大丈夫だと微笑んだ。

「大丈夫、杏になんかあったら俺が守ってやる。なんたってお兄ちゃんだからね」
「そっかー、それは心強いな」

杏の恐怖は募るばかりだったが、宗助に相談しに来たのは間違ってなかったと思った。いつものごとく近宗助が寄ってきた桃華をぱっくり食べて適当にポイしないかひやひやして来たが、そんなことよりも杏の身を案じてくれる宗助に心が温かくなった。

「それにその栗山さんって、青葉のこと手懐けてる子でしょ?」
「手懐けてるって…仲良さそうにしゃべってるの見ただけなんだけど」
「いやいや、3年の間では有名よ?青葉の幼馴染で青葉が惚れこんでる1年生がいるって。うさぎっぽさある小動物系の子でしょ?」

宗助はポテチをうさぎの真似してぽりぽり食べながら笑って見せた。

「あぁ、それ栗山さんだわ」

血は争えないと思う。杏と宗助の感性はすごくよく似ている。

「俺さ、青葉にめちゃくちゃ嫌われてるから栗山さんに近づけないと思うんだよね」
「なんで?女たらしだから?」
「ちげーよ!1年の時にからかいすぎちゃって…」

杏はアホだなと思った。宗助にしてみたらコミュニケーションの一環で、特に男子をからかいつつ飄々と渡り歩く。これでいくとたぶん黒瀬もからかい倒されて、あの仏頂面で関わりたくないと杏に苦言を呈してくるに違いない。

「栗山さんは相当タチが悪いと思うけど。宗助も同じくらい…というかそれ以上にタチが悪いよね」
「自覚ある分マシだと思うなー。それに俺同時に何人もいるわけじゃないよ」
「お付き合いはしてないのに?」
「そう」

嘘だと杏は思うが、これを言ったら宗助がスネそうだったのでやめた。ふとテレビを見ると8時を回っており、ちょうど杏の母親からスマホに着信があった。

「もしもし、お母さん?ごめんまだ宗助のとこ…ごはん?食べてないけど…」
『それなら宗助くん連れていらっしゃい。そのまま家に泊まっていけばいいわ、そうしましょ』
「と、母上が申されているぞ宗助」
「叔母さんのごはん久しぶりにご馳走になりたいので行きます!」

杏と宗助は杏母のハンバーグカレーを食べるために急いで家に帰ることにした。

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