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不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

1.あんた攻略キャラってやつらしいよ


「それでもって私は主人公のお助けキャラなんだってさ」

杏はため息をつきながら正面に座る黒瀬を見た。だが黒瀬は興味がないような顔で手元のプリントにホチキスを留めている。

杏と黒瀬は明日配る宿泊オリエンテーションのしおり作成を頼まれ、放課後の教室で作業を行っているところだ。5月の連休明けに、1泊2日の宿泊オリエンテーションを通して親睦を深め、今後の学業ひいては学校生活を円満に行おうというわけだ。

「そんな意味不明なことを言うやつ、栗山しか思いつかない」
「ご名答。栗山さんが今朝オリエンテーションの話を先生がしたときに話してたんだよね。『そういうわけだから小泉さん友達になろう』って、意味わかんないからお断りしたけど」
「で、なんでそれを俺に言うわけ?」

栗山の謎発言はここ1ヶ月で新記録を更新し、電波系ガールこと栗山桃華くりやまとうかの発言まとめ本は厚みを増すばかりである。杏は桃華の妄想ストーリーをノートにまとめて電波物語を作成することを今のひそかな楽しみとしている。黒瀬は相変わらず桃華のことは興味ないようで、桃華の妄想に付き合っている杏のことを非難するような目で睨みつけた。

「なんでって、腐れ縁のよしみで教えてあげようとしたんだよ。面倒なのに好かれそうだから、あしらい方に注意した方がいいと思って」
「ふーんそりゃドーモ」

ぱちんと最後のプリントの束をまとめたところで黒瀬はけだるそうに首を鳴らして立ち上がった。杏にとって黒瀬は小学3年生の頃からの友人で腐れ縁だ。そのこともあり、自分の妄想が過ぎる桃華の立ち振る舞いで黒瀬が迷惑しないようにいささか心配していたのである。

桃華のマシンガントークによれば、今回の宿泊オリエンテーションはストーリー開始後の2度目のイベントとなるらしく、同じ一年生と教員とのイベントが発生するそうだ。杏にとってはどうでもいいことなのだが、お助けキャラに任命された挙句、班も部屋もなにもかも同じにされてしまい親友のような振る舞いをされている。今朝急に友達になって放課後には親友。杏は少しだけ桃華に恐怖を抱きつつある。

「杏、プリント職員室に持ってくから、ちょっと待っといて」
「おーありがてー」

軽々とプリントの束を持ち上げた黒瀬は、さっさと教室を出ていった。ああ見えて黒瀬は今年の入学生の中でも3本の指に入るくらいの美形で、背も高いことながらすらりとした足が長いことで有名だった。桃華の電波発言もわからなくもない、と思うくらい黒瀬はかっこいい。少し仏頂面で近寄りがたいオーラを発しているが、杏と同じクラスになったことが功をそうしたのか、黒瀬に声をかける生徒は多い。桃華もそのうちの一人で、電波発言以外はこれといって危ないことはない。

「ところで何で私あいつのこと待たなきゃなんないの?」

なんだかおとなしく待っているのも手持無沙汰だったので、杏は黒瀬の荷物を持って職員室まで行くことにした。その方が玄関へ近くなるだろうし、プリントを黒瀬一人に提出させに行った罪悪感がぬぐえるような気がした。

杏は黒瀬のモスグリーンのリュックを背負うと、自分のスクールバッグを片手に教室を後にした。月曜日の放課後は職員会議続きでどこの部活も休みだからか、やけに静かで校舎に入る西日が綺麗なオレンジ色をしている。職員室までは1本道なのですれ違うこともないだろうと、杏は一階の職員室へ行くために階段を下りていく。ふと踊り場から裏庭を見渡せたことを思い出して、暇つぶしにでも眺めて帰ろうと視線を向けたところで、誰かが開けた窓から声が聞こえてきた。

紫月しづき先生。そんなところで寝てたら風邪ひいちゃいますよ」
「んん…誰…見たことない顔だな………1年生?」
「あ、はい。1年3組の栗山桃華です」

なんとそこにいたのは電波少女栗山桃華と、紫月とかいう教員だった。紫月は2学年を主に担当しており、1年生の担当科目は後期からだったと杏は記憶している。入学早々1年の中で教育上いかがなものかと思う色気を纏った教員がいて、ファンクラブが存在しているとウワサになっていた。さほど興味のない杏の耳に入るくらいの話だったため、本当にファンクラブは存在しているんじゃないかと杏は推測している。

「うわぁ、あれか、電波的にはイベントなのか」

電波呼ばわりはさすがにどうかと思ったが、誰も見てないからいいだろうと杏は窓に近寄って二人の行く末を見守っていた。

「そうか、ありがとう。寝すぎて職員会議に遅刻するところだったから助かった。じゃあまたな栗山サン」

裏庭のベンチで眠りこくっていた紫月は桃華の頭を優しく撫でると、立ち上がって校舎へ向かって歩き出した。こちらに背を向ける形で座っていたため、2人の表情は見えないが紫月の声は優しく生徒に話しかけるには少し慣れ慣れしいような気がする。

「あのっ、紫月先生はいつもここにいらっしゃるんですか?」

桃華は会話を続けたいのか紫月を引き留めた。声は震えていて少し緊張しているようだった。

「…いるよ。だからまた会えるかもな?」

紫月の声は少し弾んでいて、もどかしいような言い回しで去っていった。大人のヨユウってやつだと杏は思った。にしても紫月はすこし厄介な人間なのではないだろうか。

「仮にも教員だぞ?」

ああいうタイプは自分の外見を最大限利用して女子高校生をもてあそんでいるに違いない。杏は極力紫月という男には近づかないようにしようと心に誓った。

桃華はというと、ベンチに座ったまま紫月が去っていった方向をずっと見ていた。見惚れているのか脈ありと喜んでいるのかいまいちわからない。電波的にイベントは成功なのだろうか?

「杏、そんなとこで何やってんだ」
「うひゃあ!」

杏がびっくりして振り返ると、プリントを届け終わって教室へ戻ろうとしていた黒瀬が立っていた。階段の踊り場で窓にへばりついて外を見ていた杏はさぞかし滑稽だったことだろう。黒瀬は変なものを見るような目で杏のことを見ていた。

「う、裏庭まで手入れが行き届いてるな~って、うっはっはっは…」

声が裏返った挙句、苦しい言い訳に黒瀬の眉間のしわはさらに深く刻まれた。残念な人を見るような目でため息をつかないでほしい。

「まあいいや、帰るぞ。俺のリュック寄越せ」


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