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不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

2.その男、紫月靖臣

 黒瀬に精神的ダメージを与えられた杏は、うなだれながらも玄関へ向かって重い足を引きずっていた。隣を歩く黒瀬は相変わらず仏頂面で、前髪が目にかかって鬱陶しそうだ。黒瀬という名前に似合う髪の色なのに、眉間のしわを隠すためか、黒瀬の前髪はいつも長めである。もっと笑っておけば眉間のしわを気にする必要などないと杏は思っているが、そう簡単に笑えないから困っていると黒瀬は言っていた。

「あ、紫月先生探してたんですよ。会議もう始めますから遅れないでくださいね」

 黒瀬から視線を前に戻すと、2学年担当の教員たちが会議室に向かって歩いていた。彼らは校舎内に戻ってきた紫月とすれ違いざまに、紫月よりも若い男性教員が紫月に会議の開始を知らせている。

「はいはい、会議資料取って来るので少しだけ待っていてもらえますか? 急ぎますんで」

 紫月と男性教員は仲がいいのか、イケメン効果なのかわからないが、そこにいる教師たちはしかたないと微笑んで、また楽しそうに会議室へ歩き出した。

 紫月は彼らとすれ違って伏し目がちに笑うと、ぱっと顔をあげた。紫月をガン見していた杏はその一連の流れを呑気に見ていたせいで、顔をあげた紫月と目が合ってしまった。

 すると紫月は杏の目を見つめたままにっこりと微笑んだ。杏は紫月の本気スマイルに若干生命の危機を感じたが、もてあそばれてはやらぬ精神で何とか耐えた。

「せんせーさようなら」
「…さようなら」

 紫月のスマイルを堪えきった杏は、反撃のつもりで全開フルパワーの笑顔で挨拶を返した。隣で眉間にしわをよせていた黒瀬が送れて挨拶すると、紫月は面食らったような顔で黒瀬と杏を交互に見ていたが、すぐに顔を元に戻して、気を付けて帰るんだぞと微笑んで去っていった。

 杏はスマイルカウンターによって見事に紫月のアホ面を拝むことができたので気分がよかった。

「杏、お前さ。あの先生のこと嫌いなの?」

 すこぶる機嫌が良くなった杏を見て、黒瀬は靴を履きながら先ほど紫月と呼ばれていた教師のことを考えていた。入学式の教員紹介でカッコいいと騒がれていたと思うが、1年生の黒瀬たちにはあまりかかわりのない人物だと思うのだが、すでに杏は紫月と面識があるのではないかと見て取れた。

「別に?ただもてあそばれるのは勘弁~」
「根拠もない妄想はやめておけ」

 黒瀬に言えることはそれだけだ。イケメンでよりどりみどりの大人が職場で女子高校生をたぶらかすわけがないだろう。それに黒瀬には紫月がそんなリスキーな遊びをするような人間に見えなかった。

「いや、でも絶対あれは意図してあんな態度をとっているんだよ。それで女子生徒をたぶらかすんだよ」
「意図してるかどうかってことなら、ああしていれば楽なんだろ。生徒との関係を築いて円滑に仕事を進めているだけにみえるけど?」

 黒瀬の言葉に杏はびっくりした。

「確かに! それは考えつかなかった…すごい、すごいよ。司って天才だったんだね!!」

 黒瀬の手を握ってぶんぶん振り回す杏は、帰り道にずっと司は天才だと言い続けて帰宅するのであった。

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