話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

3.無垢な笑顔は恐怖を呼び起こす


「杏ちゃんおはよう!」

顔をあげると朝からキラッキラした桃華の顔が杏の目の前にいた。茶色がかったショートボブの桃華は桃の名前が入っているのもあってか、艶のある可愛らしい桃色の唇を今日も噛んでまるでうさぎだ。小動物的な可愛さは理解できなくもないが、杏的には表情ではなくちょこまか走り回るハムスターのような女の子の方が見ていてなごむと思う。

「あーおはよう栗山さん」

とりあえず、桃華には当たり障りない程度に接しておくのが無難だろう。だがしかし、昨日の裏庭事件は電波で言うイベントなのか、失敗なのか成功なのかすごく気になっている。黒瀬には余計なことに首は突っ込むなと釘を刺されてしまったが、この電波帳を完成させるためには、桃華の生の声を聞く必要があるのだ。

「もー杏ちゃんってば、私のことは桃華でいいよ!私たち親友なんだからっ」

認めた覚えはないが、もう桃華の中で杏は親友ということで変更はないようだ。

「あははは。そうだね、なら桃華ちゃんって呼ばせてもらおうかな~なんて…」

とりあえず桃華の笑顔に少しびびった杏は名前呼びに切り替えることで適当に済まそうと思った。だが、悲しくも桃華に杏の言葉が届くことはなかった。

「あっ!司くんおはよう!」

杏の言葉は宙に消えた。もうぜったい桃華ちゃんとか呼んでやらんからなと心に決める。親友なんてお断りじゃ。ところで、桃華はいつの間に黒瀬のことも下の名前で呼ぶことにしたのか、黒瀬の机の隣に立って、右手を口の前で握りしめ、左手は自分のブレザーの裾を掴んで必殺うさぎポーズをかましている。

黒瀬はというといきなり下の名前を呼ばれたことにぎょっとして、桃華の顔を見たまま微動だにしなかった。それは黒瀬だけに関わらず、クラスメイト全員が急に黒瀬の名前を呼んだことに驚いているようだった。

「ねぇ、司くん。今日宿泊オリエンテーションのしおりが配られるんだって。司くん学級委員長だからしおりづくりしてくれたんでしょう?でも今度は一人でやらないで私にも声かけてね」

そんな状況に気が付かないのか、桃華はさらに畳みかけてくる。黒瀬がしおりづくりを頼まれたのは本当だ。だが、頼まれたのは放課後日誌を提出しに行ったとき、ちょうどいいからと担任に押し付けられたものだ。委員長だからとか一人でやったというのは少し違うが、あのプリントの束を教室に持ち帰ったとき、すでに教室には杏を含めた数人しか教室にいなかった。特に桃華と話す機会がないような物静かで常識のある数人しかいなかったのだ。なのになぜ、桃華はそれを知っているのか。

「あ、あぁ」

黒瀬は声にならない声を出して、少し後ろへのけぞっていた。周りの生徒も不審に思ったのか口々に黒瀬にお礼を述べながら俺も呼べよとフォローを入れだした。杏は昨日の放課後教室にいた生徒数人に目配せして、この話は黙っていようと心に決める。

どう話が湾曲して桃華の耳に入ったのかわからないが、杏は電波のことになると盲目的になると感じた。そうだと信じて疑わないところが彼女の恐ろしい所である、と杏は初めて彼女の笑顔に恐怖を感じる理由を掴んだ気がした。


「お前、栗山になにも話てないよな?」

6限、宿泊オリエンテーションの注意事項を説明している担任の目を盗みながら、黒瀬がこっそり杏に耳打ちしてきた。杏はそんな面倒なことはしないとの意味を込めて首を横に振った。すると黒瀬も納得したように頷き担任の話に耳を傾けた。

すると横からするりと腕が伸びてきて杏の右腕をがっしり掴んだ。驚いた杏が振り向くと桃華があらんばかりの力で杏の右腕を握りしめていた。

「杏ちゃん、司くんとなに喋ってたの?」

桃華の声はとても穏やかで、小動物のように可愛いく杏に微笑んだ。しかし、杏は一瞬で背筋が凍った。桃華の顔や仕草はいつも通り可愛かったがブラウンの目が全然笑っていなかったのだ。

「い、いや、委員長の仕事のことについて聞かれただけ」

杏は冷や汗をぬぐいながら桃華に笑ってみせた。桃華の目は杏を疑うように細められ、余計に恐怖心を煽られる。

「そっか。杏ちゃんは司くんと仲良しなんだね!お助けキャラなんだから、杏ちゃんはそんなことしないもんね?」

だからお助けキャラってなんだよ。杏は喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込んで、苦笑いを返すことしかできなかった。これさえなければ電波で面白い子なのに、黒瀬のことになると周りが見えなくなるようだ。これは本格的にヤバいかもしれないぞと黒瀬と自分に同情することしかできない。


担任の注意事項説明が終わると杏たちはグループごとに当日の持ち物の相談を開始した。今回のオリエンテーションではグループごとに夕食をつくることになっており、事前に作るものと購入する食材を予算内に収められるように決めなければならなかった。

杏のグループは言わずもがな桃華と黒瀬と他男子生徒二人の計5名だ。

2人のうち1人は杏や黒瀬と同じ中学校だったこともあり顔見知り程度の知り合いだったが、もう一人の男子生徒は全くの初めまして状態だった。杏の隣側に腰かけたその男子生徒は名を尾白おじろというようで、メガネを左手の中指でクイッと押し上げる無口な生徒だった。

「どうも、小泉杏です。よろしく」

尾白に向かって挨拶すると、顔をあげた尾白と目が合う。案外整っているように見える彼の顔は半分以上分厚いメガネともっさりした前髪に隠れてよくわからなかった。尾白の透き通るような白い肌は女子とはほとんど変わらないくらいキメが細かいように見える。

「あ、おっ尾白翔馬です。よっよろしく…」

杏は見た目通りおとなしくて少し臆病な人なんだなと思った。杏もはじめましての人と話すときは緊張して冷たい人に思われることがあるので、余計尾白を怖がらせてしまったのではないかと思った。

「ごめん。私怖くない、ダイジョウブ」

杏は少しでも尾白に怖がられないで済んだらいいな、くらいの気持ちで怖くないアピールをしたつもりだったが、思ったよりロボットみたいな言い方になってしまいちょっと笑った。

「っふふ…あっこれは違くて!」

なにやつ、笑ったな尾白。杏が尾白を睨むと焦ったように言い訳し出した。すると横から黒瀬がそこまでにしておけと杏を窘めたので、別に怒ってないと拗ねるとまた尾白が笑った。

「翔馬くん。私は栗山桃華っていうのよろしくね」

桃華の一声で自己紹介が滞りなく終わり、夕食についての話し合いがスタートした。
もう名前呼びに関しては気にするのを止めた。

ふと杏が尾白の方を見るとグループの中心で話の花を咲かせている桃華を尾白は眩しそうに見つめていた。その時の尾白のまっすぐで綺麗な視線を目にして、電波的に尾白も攻略キャラなのではないか、という憶測が杏の脳裏をよぎった。

「不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く