龍の生涯

クロム ジェル

ギルドマスターの心情

俺はアズル。

今まで龍と言うものを見たことが無かった。その理由としては龍種は竜種とは違い繁殖はあまりしておらず、圧倒的に数が少ない事、龍は力が強いため反感を買えば街一つを潰せる力を有しており、英雄と呼ばれるAランク冒険者以上の者がレイドを作り討伐に向かわなければいけないが、レイドが到着する前に街は破壊されてしまう為実際に戦った人は少なくSランク冒険者のみレイドでも勝てるかどうかと言われているほど強いらしい。

実際に俺もレイドに参加していた時があった。しかし、着いた時には街がなくなっており残されていたのは街を失った人々と瓦礫の山だった。話を聞く限りそこの領主が属性龍の子供を攫い街に持ち帰り、殺したのだとか。
その時は龍殺しの誕生と街全体が賑わって居たが龍による反撃が有るとは考えて居なかったみたいで一瞬にして街を破壊し、他の龍が止めに入るまで人々を殺していたそうだ。

そんな事を知っている事もあり、龍が俺の支部に冒険者登録をして来たと聞いた時は驚いたが、受付嬢が言う限りでは温厚な性格をしていると聞いたので安堵した。しかし、その受付嬢が再び駆け足で報告して来た時は絶望感に襲われた。なんでも、龍の少年に最近素行の悪いCランク冒険者グループ【ルシフェル】の3人が教育と称した新人イビリをしよう絡んだそうだ。

俺は急いで部屋を出た。
流石に龍が本気を出したら止められる保証などないが、今ならまだ冒険者の方を止めれば最悪の事態は起こらないと考えたからだ。


結果としてうまくいった。
冒険者グループを気絶させる事によって事態は収められたのだが、まだ気を抜いてはならない。
なんせ俺の行動を最初から観察されており、凄く余裕な顔して居たのだから…

「坊主が龍の聖夜か?」

あぁぁあああ!!!第一声間違えた!?!?
ギルドマスターになったばかりで威厳をつけようと家で練習して居たのが仇となってしまった!?
はい…オワッター……

「あぁ、そうだ。あなたは?」

よかったーー!!まだ大丈夫だったよーー!!

それから少し話して俺の部屋に向かい今後の予定などを聞いたりした。

彼は素直に話してくれて、今後の予定が決めやすかった。
しかしなぜ彼は話している時少しどもるんだろう…
なんか、話しにくそうな感じだった。
しかも、一人称がぼくって可愛くね?龍って言ったら我とか使いそうって思ってたから少し微笑ましかった。

そのあと出発の準備をすると言う事でそれの手伝いをするために俺は着いて行く。今度背に乗せて飛んでくれるって言われたから準備を手伝ってやろうじゃねぇの!

でもいいなぁ…今からミレーユ伯爵家のお嬢様、クロエ・ド・ミレーユ様御一行が聖夜に運ばれて空の旅をするらしい…羨ましい…

俺たちは門を出て外壁の外へ出た。

外壁を出て少し歩いたところに車輪のついてない馬車と護衛の騎士数名。そして車輪のついた荷馬車が置いてあった。

聖夜が近づいて荷馬車に近づいていき右手を翳すと荷馬車が消えた…マジックバックは持ってなかったはず…なんで消えたんだ…

「おい、聖夜なにやったんだ?」

「龍魔法の中の収納魔法で荷隠しって言うのを使っただけだよ」

龍魔法…確か人間には使えない魔法だったよな…人間の中でも龍人と呼ばれる種族ですら発動できないと言われている魔法で、未だ解析されてない魔法か…
収納魔法はあるにはあるが、荷馬車一つを収納できるものは人には不可能だ。
どんなに大きくてもマジックバックだと二メートル四方でマジックボックスだと四メートル四方…
何も入っていない状態ならマジックボックスでギリギリ入るくらいだが、荷馬車ごと収納となると嵩んで他の物が入らなくなるから入れる時は嵩まない様に個別で荷物を入れるのが一般的だ。それをあのまま入れるって事は相当空きがあるって意味になる…しかも話を聞いた限り聖夜はクロエ嬢と会うまでは聖女を探すために旅をする予定だったと言っていたから他にも荷物があるはずだ…

「よし、龍の姿に戻るから少し離れてくれ、龍に戻ったらそこの馬車をぼくの背中につけてほしい。」

「あぁ、わかった。」

俺はあまりの出来事で単純な受け答えしかできなかった。騎士たちはいたって普通…クロエ嬢はなんか目をキラキラさせてるし…俺だけが異常なのか?…

そんな事を考えていると聖夜の身体は光を帯びて龍の姿となっていった。頭から尻尾まで十メートルってところか…結構でかい、それに色は銀色で太陽の光が反射して白銀に見える、これを美しいと言わずになんと言うのか…他の言葉が出てこない…本当に神々しいな…

『寝転がるからつけてくれ』

「あぁ」

聖夜が寝転がると俺と騎士たちで車輪のない馬車を運び聖夜の背中に乗せ紐で頑丈に固定した。

「聖夜、準備終わったぞ」

『ありがとう』

「なぁ、聖夜、少し思ってたんだけどよ。なんか喋りにくい感じの喋り方してたのはなんでだ?」

『若いとはいえ龍だから威厳を出してみようかと…』

「はっははっ、なんだそれ。人化した姿だと背伸びしてる子供にしか見えないからやめとけ。まぁ、可愛かったけどよ」

『なら、普通に喋るよ。ぼくも喋り難くて疲れたよ。あぁそうだ。アズルこれお礼にとっといて』

そう言い聖夜は俺に銀色の鱗を5枚と爪をくれた。
龍の爪はアダマンタイトですら切り裂く鋭さで鱗はどんな攻撃にでも耐えることができると言われており、大変貴重な素材だ…売れば一つ王金貨5枚はするらしい…

「いいのか?こんな貴重なものを…」

『あぁ、生え変わりの時期に勝手に取れるし、あげるよ。』

「ありがとう、大事に使わせてもらう」

クロエ嬢やメイド、騎士達が乗り込み準備が終わったみたいだ。クロエ嬢が聖夜に向かって準備できました。と伝えると聖夜はまた来るよと俺に言って飛び上がり咆哮を鳴らせた。その咆哮は力強くも優しく聞こえて年甲斐もなくなんだかワクワクしてしまった。

俺は聖夜が飛び去った空を見ながらまたなと言いギルドに帰る。

「久しぶりに溜まった書類の山でも整理するか!」


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