龍の生涯

クロム ジェル

成体の儀と別れ

   ぼくは神殿に来ていた。

最初に来た時とは違い自分の翼を羽ばたかせて、山よりも、雲よりも高く飛んだのは初めてだったが意外に風の抵抗は少なく、バランスも取りやすかった。

成体の儀を終えて神殿から出るとき、そこからは一人で生きていかなくてはならない。
だから、残り少ない時間のなか飛行中も神殿に着いてからも母さんとたくさん話して、親子の時間を楽しんだ。

話したことはたわいもないことだが、ぼくにとって一生忘れない母さんとの思い出だと思えるほどの感情が湧いてくる。

悲しいような楽しいような、寂しいようなワクワクするようなそんな感情が会話中心の奥から溢れ出てきてしまいそうだった。

そして今成体の儀が始まる。

成体の儀は今年16歳となる龍の全てを集めて行われる為たくさん集まるのかと思っていたが、ぼくの他は三体の龍しかいなかった。

母さんに聞いたところ、龍の数は年々減っているらしく、人間に狩られたり、幼い頃病気にかかったり、縄張り争いで負けて命を失ったり色々原因がある他、元々龍種は子供ができにくい身体と言うのが一番の少子化の原因だそうだ。

確かに生まれた時から強く、長く生きる種族であるため子孫を残して繁栄すると言うことにはあまり興味がない。

しかし、母さんが子供の時と比べれば1/10の子供の数となっているらしく、毎年1体いたらいい方だそうだ。

その分今年はぼくを合わせて4体の龍が成体となるため恵まれているといえよう。

そんなことを考えていると儀が始まった。

古龍と呼ばれる長く生きているであろうお爺ちゃん龍がエステスの像の前に立ち話し始めた。

「………そんなこんなで我々龍は強く生きていかなければいけない!使命を与えられた龍も使命のない龍も今後の人生を悔いなく生きてくれ!龍種が最強である事を世界に知らしめるのじゃ!」

長い話がやっと終わった…なんでお爺ちゃん龍の武勇伝を長々と聞かなくてはいけないんだ…流石に疲れたよ…
えっと…後はほくたちが像の前に行き礼と黙祷を順番にして終わりだったはず…ぼくの番は最後だから少し待つか…


よし、後は黙祷っと…


「やっほー聖夜、呼び寄せたわよ。」

「エステス、今日は何の用なの?」

「少し話したいのと、ちょっとした用かしら?」

エステスは暇なのかたまに寝ている時によくぼくを呼び寄せることがあり、話し相手にされている。

前に一度やる事ないの?と聞いた時に、主神はほとんどやることがなく、世界を見て問題がないか確認、問題発生した時には聖女や上級神に伝えるだけらしい。

そして、成体となったぼくにも信託として伝えられる様になるらしいのだが、信託は呼び寄せなくても頭の中に直接伝えることができるそう…

「わかったよ。んで、なにを話すの?」

「話題ね…どうしようかしら…」

「話題がないなら、先に用を教えてよ。」 

「わかったわ。用っていうのは聖女にあってもらいたいのよ。」

エステスの話では聖女と協力して聖女の抱える問題を解決してほしいそうだ。

聖女というのは人間の女性でエステスの言葉を代弁させる存在らしい。そして、その女性は何かに困っていると…

「話はわかったけど、どうやって会えばいいの?」

「それは…頑張ってとしか言えないわね…」

「人間の集団から一人を見つけるのって大変だよ…しかも人間にとって龍って畏怖の対象でしょ…危ないんじゃ…」

「そこは大丈夫よ。聖夜は人化があるでしょう?」

確かに人化はある。しかし、それだと相手が気づかないんじゃ…

「人化したら相手も見つけれなくなるから余計に無理なんじゃ…」

「とーりーあーえーずー、聖女を探して、手伝って来なさい!女神からの命令ですぅーー!」

最初会った時は綺麗な優しいお姉さんだったけど、仲が良くなっていくうちにボロが出てきて、今やこんな感じが殆どですよ…はぁ…わかりましたわかりました…探します…はい…

「はいはい、わかりましたよ。」

「なーに?その顔はー?人を哀れむ様な顔してー?」

うっ鋭い…

「そんな顔してないから!とりあえず、どこ行けばいいの?」

「本当に〜?まぁ、いいわ…王都ミルフェルマってわかる?…その顔はわからない顔ね…向かう方向は神殿の出口を左側に飛んで行けばつくと思うわよ。」

「わかったよ。とりあえず探してみる。期限とかある?」

「一年くらいは余裕あるとは思うのだけれど…出来るだけ早いほうがいいわ。」

エステスはあっそうそうと言い何枚かの布を渡してくる。

「これは服と言って人が身につけているものよ。人化した時裸だったら捕まるから注意ね。服着たまま龍に戻っても服はアイテムボックスに収容されるし、その後人化したら着たままの状態で人化出来るわ。」

ここを出るとアイテムボックスに入れてあるらしいからあとで着替えよう。

そろそろ時間らしくバイバイと言って別れた。

そして神殿に戻り、母さんに最後の別れを告げると母さんはいつか会いに着なさいと言って寝床へ帰って行きぼくは母さんが見えなくなるまで飛び立った方向を眺めていた。







もう一つ小説を書きました。
このストーリーではまだ先の話となり少ししか出さない内容だったものを書いたものですが、どうしても書きたくなり書き始めました。
題名は【騎士とドラゴン】と言います。
良ければそっちも読んでみてください。(o^^o)

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