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鮫島くんのおっぱい 外伝 山石歩美の業務日記

とびらの

7終

 11月2日

 家でゴロゴロしていたら、二日前に終了した花屋さんから電話。
 店長のミスで、明日のシフトに穴が開いてしまったんだって。よくわからないけど、人手が足りないので、急遽明日だけ手伝いに来てくれないかと。
 一瞬どうしようかなあと思ったけど、いい日当つけてくれるっていうし、明日だけまた行くことにした。
 今日は、もう寝よう。

 11月3日

 一日限定、花屋さんでお仕事。
 暇な店番だったけど、ひとり、スゴイお客さんがきた。
 ほんとにスゴイ、美しい人、だった。

 初め、私は「あの美形さん」だと思った。身長も180近くありそうだし、日本人離れした真っ白な肌に真っ黒の髪、頭ちっさくて、手足があんなにもすらーっと長いひとなんてそういない。
 けど、一度瞬きしてみれば、女性、だった。
 それにしてもあの美形さんに印象がそっくりだ。妙に近寄りがたい威圧感?みたいなのがあるのも同じ。年子か双子の兄妹じゃないかなあ。
 彼女は花屋の入り口すぐのところで、なにかものすごく居心地悪そうに、黙って立っていた。
 忍び足みたいにしてそうっと店に入ってからも、またなにか、ぼーっとしていた。
 キリっとした美人さんなのに、なんかフンワリしたひとだ。
 私が見惚れていると、あちらから、やけにソワソワした様子で話しかけてきた。
「日本では、病院に花を飾ると、けがや病気が早く治るというのは本当だろうか」
 ……? お見舞いのことだろうけど、その解釈はちょっと違う。いやだいぶ違う。
「……ちがうのか。リタがそうしていたと、犬居から聞いたのだが。なにか俺が誤解したのかな……」
 しゅん、と、音が聞こえてきそうに肩を落とす。

 私はニワカ仕込の知識を交えて、美人さんにミニブーケを勧めることにした。
「黄色やオレンジ系、ピンクの花は、元気が出るビタミンカラーということでよく使われますね。今の季節なら、ちょうどガーベラなんかはいかがでしょう。『希望』という花言葉をもっていますから、回復を願う気持ちを込めて」
 今度は、ぱあっと音が聞こえてきそうだった。

 ブーケを作っている間、私の姿をじいっ……と見つめる美人さん。
 そして不意に、店頭にあった生花のリースを手に取って、自分の頭に乗せた。
 「似合う?」
 いやソレ頭にかぶるものじゃないので、と伝えると、じゃあそういうものを作ってもらうことは可能かと聞いてくる。
 奥で作業中の店長ならば不可能ではないと思うけど……正直、このキリっとした美人さんに花冠はびっくりするほど似合ってなかったので、やめたほうがいいと思いますよと言った。
 また、しゅんと小さくなった。
 なんか……このひと、可愛い。

 彼女は何か、すごく悲しそうな顔をした。
 自分より30センチ近く低い私の頭を見下ろして。

「……俺が、おまえくらい小さくてかわいい、女だったら、花の飾りもよく似合ったのだろうか。
 俺が、おまえのようにかわいらしい声で名前を呼べば、起きる気になるのだろうか」

 意味が解らなくて、黙ってしまう。

「どうすればいいんだろう……」

 完成したガーベラを見下ろして、彼女は目を閉じる。真っ黒の長い睫毛がフルフルしていた。

 彼女はそれきり黙ってしまい、会計を済ませると、足音もなく立ち去って行った。


 11月4日

 家でゴロゴロしていると、以前働いたことのある、本屋さんから電話があった。
 正式に、レギュラーバイトとしてうちで働かないかというお誘い。
どうしようかな。
 ……嬉しい。
 でも、めんどくさい。
 いや、やっぱり、ウレシイ。

 来月から、私はこの本屋さんでずっと働くことにした。
 フリーターだし、いろいろ嫌なこともあるけども、楽しいこともやっぱりあった。

 秋に入ってから、あの奇妙な服装や、派手な色の髪の人たちを見かけなくなった。町でも目につくことが無い。
 もしかして――ハロウィンの仮装だったとか?
 だとしたら、11月に入ってピタリと消えたのも納得なんだけどな。

 だとしたら、来年、再来年もまた会えるのだろうか。
 会えるような気がする。何の根拠もないけど。

 よし、とりあえずそれまでってのを目標に、頑張ってお仕事を続けよう。
 星がきれいな夜だ。
 今日は、もう寝よう。

 明日からまたがんばるぞ。


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