TS初心者娘が彼氏と初めてデートする話。~鱶澤くんの後日談~
ハッピーおデートへ行きましょう!
おれの名前は桃栗太一。ごくごく普通の高校二年生だ。
……いや、ほんとに。自分でもびっくりするくらい普通である。平均より少し小柄で、スポーツはちょっと苦手。趣味はゲームと映画鑑賞。女顔だとよく言われるけど、実際に性別を誤解されたことはない。勉強はわりと得意なほう。どこにでもいる、平凡でまじめな男がこのおれだ。
おれの話なんて、これ以上したって面白くもなんともない。
なのでさっそく、彼女のことを紹介しよう。おれと違って、彼女はとても目立つし、いろいろと『変わった』人間だから。
そう――彼女は、変わったんだ。
見上げるほど大男の先輩から、見下ろせるほど小さくて可愛い、おれの恋人に。
気候のいい秋の、日曜日。おれは約束の三十分前に、駅前アイスクリームショップまでやってきた。……早すぎる? そうかな。初デートだもの、遅れるわけにはいかないだろう。
早めに着いて、新作アイスでも舐めながら彼女を待とうと思っていた。しかし彼女も同じことを考えていたらしい。
アイス二玉をのせたコーン片手に、ちょうど店から出てきたところだった。
「――アユムちゃん」
おれが声をかけると、弾かれたように顔を上げる。赤い髪がふわりと揺れた。
「モモチ。おはよっ!」
明るく笑う。それだけで、おれはうっかり顔面崩壊しそうになった。慌てて、顔をそむけて紅潮を隠す。
――ああ、くそ。待ち合わせ早々ダメージを食らった。おれはこの笑顔に弱い。いやおれだけじゃない、こんなのどんな男だって、うれしくなるに決まってる。
まず、彼女――鱶澤歩の顔は、可愛い。
ふっくらした頬に整ったパーツ、ノーメイクでつやつやの肌。
猫を思わせる大きな目は、いつもいたずらっぽく輝いている。気が強そうな印象、それがおれの顔を見て、明るく笑うんだ。
女の子らしく、くすっと微笑むんじゃない。心から嬉しそうにニカーッと笑う。
……控えめに言って、即死である。
「どうしたモモチ?」
アイスを咥えながら、小首をかしげる。ああ、もうこのコンボも凶悪だろ!
おれより十センチほど背が低く、至近距離だと常に上目遣い。正直言うとこのアダナはちょっと嫌なんだ。けど、彼女の小さな唇が「ももち。ももち」と可愛い音を発し、それがおれに向けられていることに、毎回悶絶するほどときめいているので絶対とめない。
……ん? なんかおれ、変態っぽい? ……いやいや、普通だ。だってアユムちゃん、可愛すぎるもん。
おれはコホンと咳ばらいをし、つとめて平静なようすで、アユムちゃんから距離を取った。
「いや、別に。……おはよう、アユムちゃん。早いね」
「ああ、だって初めての外デートだし……モモチのこと待たせちゃいけないと思って」
はうっ。いじらしい。そして以心伝心。
「それに新作アイスも食べたかったし。ほらこれ、ミックスベジタブルフレーバーだって! 今逃したらぜったい、二度と食べられないやつだそっ」
おうふっ。またもおれと同じ発想を! 微妙に毒舌なのも可愛い。
「あはは、案の定まずい」
上機嫌で、ぺろぺろ舐めてる。その小さな舌にしばらく見とれて――おれは急ぎ足でその場を離れた。
彼女は黙って、おれのあとを小走りでついてくる。おっと、しまった。歩幅が狭いので、おれのほうが合わせてあげなくてはいけないんだ。
おれが歩みをゆるめると、すかさず服の裾をつまんでキャッチ。
「捕まえた。モモチってときどき、急に歩くの早くなるのなんで?」
「……あなたが可愛すぎるからです」
思わず、正直にそのまま言ってしまった。彼女はまるきり冗談だと思ったらしい、けらけら笑いながら、おれの肩をどやしつけて、
「なに言ってんだよ、年上の男を相手に。モモチのくせになまいきだっ!」
「……。いや、鱶澤さん。あなた今、アユムちゃんですよね。女の子でしょ」
おれが真顔でそう言うと、彼女もふと、真顔になった。
自分の手を広げ、体格と服装を上から下までざっと見る。
女性平均より少しだけ小さな身長、華奢な骨格。それに反してオッパ――こほん、もとい胸の膨らみは、十分以上に豊満。びっくりするほどくびれた腰。秋らしいもみじ色のニットに、ハイウエストなミニスカートからは健康的な手足が伸びている。
スニーカーも、明らかに通学用のそれではない。女の子用のファッションシューズだ。
どこからどうみても、女の子、である。
おれと同じものを一通り確認し、彼女は気の抜けた声でつぶやいた。
「……ああ。そういえば。――あたし、今日は女だった……」
「なんで忘れるんだよ!?」
「いやその、忘れたわけじゃないんだけど、実感がないというか。ナチュラルになじみすぎてなおのこと?」
「なんだそれ」
と、呆れながらも笑いはしない。おれには彼女の感覚はわからないからね。
まあ、仕方ないよな。
雌雄同体の宇宙人の混血で……恋をした相手に合わせ、男になったり女になったりする生態。
つい先日まで、彼は男として――鱶澤渉という男子高校三年生として生きてきた。
それが、ひょんなことからおれと恋をして……彼は「女性」になった。
それがこの夏の顛末。
その後、彼女の体は女のまま、精神はワタル、男に戻った。
ところが週に一度、日曜日だけ、その心もアユムになる。
カミングアウトをしてくれたのが二週間前。
それからおれたちは、恋人同士として、正式にお付き合いをはじめたところである。
片手にアイスクリーム、片手にはおれの複の裾。そうしてテクテクついてくるアユムちゃん。
ちょっと場所見知りのケがあるらしく、一人で出歩くのが苦手なんだって。これは大男だったときからそうだという。なにその属性、死ぬほど可愛い。
……。なんかちょっと……触りたい。
おれはシレッと簡単に、アユムちゃんの手を握った。しっかりつないで、横に並ぶ。
「も、モモチ。人前……」
すぐに紅潮して焦る彼女。地方都市の駅前は、人混みとは言えないなりに賑わっている。おれはつとめて穏やかに言う。
「はぐれたら困るだろ」
言い訳を与えてあげると、彼女は俯きながら、黙っておれの手を握り返した。
――お……おおっ? 手が……うわ。ちっさ。おれの手ってそんなでかかったっけ? いやいやアユムちゃんがちいさいんだ。しかも柔らかくて、ぜんぜん骨を感じない。なにこれ。なにこれーっ!?
……なんか、皮膚が薄いぞ。ふにょっ、ぺたっ、て、おれの手にフィットするかんじ。
ああ、女の子の手だ。
気持ちいい……。
「モモチ、どこ行くんだよ。電車乗っていくんだろ? 商店街でなんか買い物?」
あっ、と、うっかり。おれは一度足を止めてから、何食わぬ顔で微笑む。
「うん、ちょっとだけ。……アユムちゃんに、なにかプレゼントしようかなって」
「ええーっなんで。誕生日ぜんぜん遠いぞ?」
「服とかさ。アユムちゃん、女の子の服全然持ってないんでしょ? デートの時までシノブちゃんに借りるより、何着か買おうよ」
これはでまかせではなく、前から考えていたことだった。
もともと男だった彼女、女性服を全く持っておらず、妹コーディネートに任せきりなのだ。月イチでひきこもってたことはともかく、これから女性として生きていくなら、そのままではいけない。
もちろんお金はおれが出すつもりでいた。男だからってことじゃなく、おれが彼女に着てほしいのだから。
しかし、アユムちゃんは顔を曇らせた。かといって不機嫌でもない。なんか――モジモジしてる?
おれは首を傾げた。
「なに? 服、買われるの嫌?」
「……。そういうことじゃないんだけど……」
と言って、やはりモジモジ。……? ふと、おれは思い付き、まさかなと思いながらも口にした。
「もしかして――今日来てる服、自前?」
こくり、と頷くアユムちゃん。だがすぐにぶんぶん首を振って、
「ちがうからな! 別に今日のために買いに行ったとかそういうっ。ただずっとシノブに借りっぱなしも申し訳ないとか、汚すの気にして歩くの面倒とかそういうことだから!」
「……お、おう」
「ス、スカートなのも別にっ……通販だから! パンツだと丈とかウエストとかぴったりじゃないといけないけど、情報雑で、やっぱ試着必要で。でもスカートだったらMサイズ買っときゃ間違いないだろうって思っ――なに!? モモチ、どこ行くのーっ!?」
全力疾走で物陰へ逃げ込むおれを、慌てて追いかけてくるアユムちゃん。てこてこ、小走りがまた可愛い。
ええもう可愛い。
……なあ、この際だから一回、思いっきり言っちゃっていいですか?
おれの彼女……
くっそ可愛いぃいいんじゃああああああああっ!
路地裏にしゃがみ込み悶えているおれに、追いついたアユムちゃんが呆れて嘆息する。
「もう。これからデートに行こうっていうのに、電車に乗る前からそんなへばっててどうすんだよ。そんなんで夕方まで大丈夫?」
……きっとダメだと思う。
けど、ここで帰ってなるものか。
おれはすぐに立ち上がり、ポケットからパンフレットを取り出した。今日のデート先、地元のちいさな動物園である。それでも資料を取り寄せるのがおれのイイトコロだ。
「ねえアユムちゃん、向こうの駅からバスも出てるけど、歩いても三十分くらいだから歩いて行かない? いや、とりあえず電車に乗って、駅周辺の様子みてからにするか。いい店がありそうなら、お昼食べてから行ってもいいかなって。動物園の食堂、やっぱりちょっと匂うしね」
どうだろうかと提案するおれに、アユムちゃんはなぜか、あきれ顔。
眉を垂らし、苦笑いして、
「モモチって、変わってるよな」
まるで年上の男が言うように、優しい声でささやいた。
……いや、ほんとに。自分でもびっくりするくらい普通である。平均より少し小柄で、スポーツはちょっと苦手。趣味はゲームと映画鑑賞。女顔だとよく言われるけど、実際に性別を誤解されたことはない。勉強はわりと得意なほう。どこにでもいる、平凡でまじめな男がこのおれだ。
おれの話なんて、これ以上したって面白くもなんともない。
なのでさっそく、彼女のことを紹介しよう。おれと違って、彼女はとても目立つし、いろいろと『変わった』人間だから。
そう――彼女は、変わったんだ。
見上げるほど大男の先輩から、見下ろせるほど小さくて可愛い、おれの恋人に。
気候のいい秋の、日曜日。おれは約束の三十分前に、駅前アイスクリームショップまでやってきた。……早すぎる? そうかな。初デートだもの、遅れるわけにはいかないだろう。
早めに着いて、新作アイスでも舐めながら彼女を待とうと思っていた。しかし彼女も同じことを考えていたらしい。
アイス二玉をのせたコーン片手に、ちょうど店から出てきたところだった。
「――アユムちゃん」
おれが声をかけると、弾かれたように顔を上げる。赤い髪がふわりと揺れた。
「モモチ。おはよっ!」
明るく笑う。それだけで、おれはうっかり顔面崩壊しそうになった。慌てて、顔をそむけて紅潮を隠す。
――ああ、くそ。待ち合わせ早々ダメージを食らった。おれはこの笑顔に弱い。いやおれだけじゃない、こんなのどんな男だって、うれしくなるに決まってる。
まず、彼女――鱶澤歩の顔は、可愛い。
ふっくらした頬に整ったパーツ、ノーメイクでつやつやの肌。
猫を思わせる大きな目は、いつもいたずらっぽく輝いている。気が強そうな印象、それがおれの顔を見て、明るく笑うんだ。
女の子らしく、くすっと微笑むんじゃない。心から嬉しそうにニカーッと笑う。
……控えめに言って、即死である。
「どうしたモモチ?」
アイスを咥えながら、小首をかしげる。ああ、もうこのコンボも凶悪だろ!
おれより十センチほど背が低く、至近距離だと常に上目遣い。正直言うとこのアダナはちょっと嫌なんだ。けど、彼女の小さな唇が「ももち。ももち」と可愛い音を発し、それがおれに向けられていることに、毎回悶絶するほどときめいているので絶対とめない。
……ん? なんかおれ、変態っぽい? ……いやいや、普通だ。だってアユムちゃん、可愛すぎるもん。
おれはコホンと咳ばらいをし、つとめて平静なようすで、アユムちゃんから距離を取った。
「いや、別に。……おはよう、アユムちゃん。早いね」
「ああ、だって初めての外デートだし……モモチのこと待たせちゃいけないと思って」
はうっ。いじらしい。そして以心伝心。
「それに新作アイスも食べたかったし。ほらこれ、ミックスベジタブルフレーバーだって! 今逃したらぜったい、二度と食べられないやつだそっ」
おうふっ。またもおれと同じ発想を! 微妙に毒舌なのも可愛い。
「あはは、案の定まずい」
上機嫌で、ぺろぺろ舐めてる。その小さな舌にしばらく見とれて――おれは急ぎ足でその場を離れた。
彼女は黙って、おれのあとを小走りでついてくる。おっと、しまった。歩幅が狭いので、おれのほうが合わせてあげなくてはいけないんだ。
おれが歩みをゆるめると、すかさず服の裾をつまんでキャッチ。
「捕まえた。モモチってときどき、急に歩くの早くなるのなんで?」
「……あなたが可愛すぎるからです」
思わず、正直にそのまま言ってしまった。彼女はまるきり冗談だと思ったらしい、けらけら笑いながら、おれの肩をどやしつけて、
「なに言ってんだよ、年上の男を相手に。モモチのくせになまいきだっ!」
「……。いや、鱶澤さん。あなた今、アユムちゃんですよね。女の子でしょ」
おれが真顔でそう言うと、彼女もふと、真顔になった。
自分の手を広げ、体格と服装を上から下までざっと見る。
女性平均より少しだけ小さな身長、華奢な骨格。それに反してオッパ――こほん、もとい胸の膨らみは、十分以上に豊満。びっくりするほどくびれた腰。秋らしいもみじ色のニットに、ハイウエストなミニスカートからは健康的な手足が伸びている。
スニーカーも、明らかに通学用のそれではない。女の子用のファッションシューズだ。
どこからどうみても、女の子、である。
おれと同じものを一通り確認し、彼女は気の抜けた声でつぶやいた。
「……ああ。そういえば。――あたし、今日は女だった……」
「なんで忘れるんだよ!?」
「いやその、忘れたわけじゃないんだけど、実感がないというか。ナチュラルになじみすぎてなおのこと?」
「なんだそれ」
と、呆れながらも笑いはしない。おれには彼女の感覚はわからないからね。
まあ、仕方ないよな。
雌雄同体の宇宙人の混血で……恋をした相手に合わせ、男になったり女になったりする生態。
つい先日まで、彼は男として――鱶澤渉という男子高校三年生として生きてきた。
それが、ひょんなことからおれと恋をして……彼は「女性」になった。
それがこの夏の顛末。
その後、彼女の体は女のまま、精神はワタル、男に戻った。
ところが週に一度、日曜日だけ、その心もアユムになる。
カミングアウトをしてくれたのが二週間前。
それからおれたちは、恋人同士として、正式にお付き合いをはじめたところである。
片手にアイスクリーム、片手にはおれの複の裾。そうしてテクテクついてくるアユムちゃん。
ちょっと場所見知りのケがあるらしく、一人で出歩くのが苦手なんだって。これは大男だったときからそうだという。なにその属性、死ぬほど可愛い。
……。なんかちょっと……触りたい。
おれはシレッと簡単に、アユムちゃんの手を握った。しっかりつないで、横に並ぶ。
「も、モモチ。人前……」
すぐに紅潮して焦る彼女。地方都市の駅前は、人混みとは言えないなりに賑わっている。おれはつとめて穏やかに言う。
「はぐれたら困るだろ」
言い訳を与えてあげると、彼女は俯きながら、黙っておれの手を握り返した。
――お……おおっ? 手が……うわ。ちっさ。おれの手ってそんなでかかったっけ? いやいやアユムちゃんがちいさいんだ。しかも柔らかくて、ぜんぜん骨を感じない。なにこれ。なにこれーっ!?
……なんか、皮膚が薄いぞ。ふにょっ、ぺたっ、て、おれの手にフィットするかんじ。
ああ、女の子の手だ。
気持ちいい……。
「モモチ、どこ行くんだよ。電車乗っていくんだろ? 商店街でなんか買い物?」
あっ、と、うっかり。おれは一度足を止めてから、何食わぬ顔で微笑む。
「うん、ちょっとだけ。……アユムちゃんに、なにかプレゼントしようかなって」
「ええーっなんで。誕生日ぜんぜん遠いぞ?」
「服とかさ。アユムちゃん、女の子の服全然持ってないんでしょ? デートの時までシノブちゃんに借りるより、何着か買おうよ」
これはでまかせではなく、前から考えていたことだった。
もともと男だった彼女、女性服を全く持っておらず、妹コーディネートに任せきりなのだ。月イチでひきこもってたことはともかく、これから女性として生きていくなら、そのままではいけない。
もちろんお金はおれが出すつもりでいた。男だからってことじゃなく、おれが彼女に着てほしいのだから。
しかし、アユムちゃんは顔を曇らせた。かといって不機嫌でもない。なんか――モジモジしてる?
おれは首を傾げた。
「なに? 服、買われるの嫌?」
「……。そういうことじゃないんだけど……」
と言って、やはりモジモジ。……? ふと、おれは思い付き、まさかなと思いながらも口にした。
「もしかして――今日来てる服、自前?」
こくり、と頷くアユムちゃん。だがすぐにぶんぶん首を振って、
「ちがうからな! 別に今日のために買いに行ったとかそういうっ。ただずっとシノブに借りっぱなしも申し訳ないとか、汚すの気にして歩くの面倒とかそういうことだから!」
「……お、おう」
「ス、スカートなのも別にっ……通販だから! パンツだと丈とかウエストとかぴったりじゃないといけないけど、情報雑で、やっぱ試着必要で。でもスカートだったらMサイズ買っときゃ間違いないだろうって思っ――なに!? モモチ、どこ行くのーっ!?」
全力疾走で物陰へ逃げ込むおれを、慌てて追いかけてくるアユムちゃん。てこてこ、小走りがまた可愛い。
ええもう可愛い。
……なあ、この際だから一回、思いっきり言っちゃっていいですか?
おれの彼女……
くっそ可愛いぃいいんじゃああああああああっ!
路地裏にしゃがみ込み悶えているおれに、追いついたアユムちゃんが呆れて嘆息する。
「もう。これからデートに行こうっていうのに、電車に乗る前からそんなへばっててどうすんだよ。そんなんで夕方まで大丈夫?」
……きっとダメだと思う。
けど、ここで帰ってなるものか。
おれはすぐに立ち上がり、ポケットからパンフレットを取り出した。今日のデート先、地元のちいさな動物園である。それでも資料を取り寄せるのがおれのイイトコロだ。
「ねえアユムちゃん、向こうの駅からバスも出てるけど、歩いても三十分くらいだから歩いて行かない? いや、とりあえず電車に乗って、駅周辺の様子みてからにするか。いい店がありそうなら、お昼食べてから行ってもいいかなって。動物園の食堂、やっぱりちょっと匂うしね」
どうだろうかと提案するおれに、アユムちゃんはなぜか、あきれ顔。
眉を垂らし、苦笑いして、
「モモチって、変わってるよな」
まるで年上の男が言うように、優しい声でささやいた。
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