兄妹はベストマッチな霊能力者

チャンドラ

兄妹はベストマッチな霊能力者

「気をつけて歩けよ、朱莉」
「分かったよ、お兄ちゃん」
 俺の名前は影裡大河かげうちたいが
 今日、俺は妹の朱莉と一緒にとある民家を目指して歩いている。
 俺と朱莉は霊能力者である。
 うちの家族は代々伝わる霊感持ちの家系で、俺と朱莉も霊にもれず、霊感を持っている。
 俺と朱莉は、霊障に関する仕事で相談者の民家に向かっている。

「それにしても、雑草が多いなぁ」
 ジャージというおしゃれの風上にも置けない朱莉が不満を言った。
 朱莉のいう通り、あたり一面、木々が生い茂り、ほーほーという梟のような声が聞こえ、草は絶え間なく生え茂っていた。
 今は午後6時であり、あたりは薄暗くなっている。
 今、俺たちは山の上に向かっているのだが、今にも熊が飛び出してきそうな雰囲気である。
「朱莉、そう文句を言うな。もう少しで到着するから」
「疲れたなぁ。お兄ちゃん。おんぶしてー」
「アホか」
 朱莉は今年で17歳になるのだが、俺に甘えっぱなしで、あらゆることを頼んでくる。
 それに、服装もジャージとか、恥ずかしくないのだろうか。
 顔は悪くないのだから、おしゃれをすれば、幽霊のように化けると思うだが。
 いや、なんかこの例えはおかしいか。

「着いたぞ」
「やっとついたぁ」
 間違いない。
    相談者からのメールに送付されていた家の画像と同じだった。
 古い木造建ての家。どことなく、不気味な印象だと画像から感じ取れた。

「すみませーん」
 ピンポンのボタンを押し、相談者の有無を確認した。
「はーい」
 中から出てきたのは、20歳前後の女性だった。
 ダボダボした感じのタンクトップに、ショートパンツというラフな格好だった。
 それにしても、なかなか胸が大きいな。

「ここ、赤神薫あかがみかおるさんの自宅で間違いないでしょうか?」
「はい、そうです。影裡大河さんですか?」
「ええ、相談の件で伺いました。こちら、私の妹の朱莉です。妹も霊能力者なので、連れてきました。必ず役に立つと思います」
「朱莉です。よろしくお願いします」
 ぺこりと朱莉亜はお辞儀をした。
    だが、朱莉は薫さんを見て、気のせいか不機嫌になったように思えた。
 どうしたんだ? まさか、邪悪な気を感じるのだろうか。
「こちらこそ。どうぞ、お二人とも中にお入りください」
 そう言われ、中に入ることにした。

 家の中は殺風景な雰囲気だった。
    家具は必要最低限に抑えられている。
 カーペットも茶色で一人暮らしの女性のイメージとかけ離れていた。
「お茶をどうぞ」
 薫さんはお茶をいわてくれた。
「ありがとうございます。それで、改めて霊障について詳しくお聞きいただいてよろしいですか?」
「分かりました。3ヶ月ほどまえ、この家に越してきて、最初の2ヶ月は何もなかったんですけど、ここ1ヶ月間、男のうめき声が聞こえたり、物が勝手に落ちたり、寝たはずなのに気がつくと立ってたりするんです」
「なるほど、ここに越してきた理由はあるんですか?」
「ええ、転職を期に越してきました。いい物件を探してたらこの物件を見つけて。安かったので契約しちゃったんですけど......」
 ふむ、なるほど。
    それは事故物件の可能性が高い。
 しかし、この女性も随分、無警戒というかなんというか。
 普通、物件が安かったら事故物件という線を疑うだろう。
「なるほど、ではもしかしたらこちらの家、事故物件という可能性がありますね」
 そう告げると、女性の顔が暗くなった。
 まあ、当然か。
「そうなんですか......除霊していただけますか?」
「ええ。霊障が起こるのは主にどこの部屋ですか?」
「寝室です。ご案内します」
 薫さんは寝室までエスコートしてくれた。家の周りを見合わすと、ところどころ傷んでいる。
 家の壁には引っ掻き傷? のようなものもある。
「お兄ちゃん......なんかヤバい気を感じるよ」
「そうか、気をつけろよ」
 俺は思わず悪寒に襲われた。全身から鳥肌が立ってきた。
 俺は除霊の技術には長けているのだが、霊気を察知する力はあまりない。
    せいぜい、ちょっと霊感が強い人間と同じくらいだろう。
 霊気を察知する力は朱莉のほうが俺よりもはるかに長けている。
 しかし、俺ですらヤバいと感じた。
「こちらです」
 がちゃりと薫さんが扉を開けた次の瞬間、薫さんは倒れこんだ。
「薫さん!」
 体を揺さぶるが、返事はない。
 寝室の天井には、黒い物体が目に映った。
「なんだ、あれは......」
 黒い物体はものすごいスピードで薫さんの体内に侵入していった。
「な......」
 薫さんはパチリと目を冷まし、ガバッと起き上がった。
「か、薫さん、大丈夫ですか?」
「死ね」
 薫さんが思いっきり俺を蹴り上げた。数メートルほど飛ばされた。朱莉も一緒に巻き添えを食らってしまった。
「いてて、お兄ちゃん、痛い」
「いてて......何するんだ!」
 薫さんは、先ほどまでとは全く雰囲気が異なった。ニヤリと薄気味悪い笑顔を浮かべている。
「貴様ら、霊能力者だな? 俺は、ここの主人だ。死にたくなければ、ここから立ち去るが良い」
「お、お兄ちゃん。薫さん、憑依されちゃった」
「ああ、除霊するしかないか......」
 俺は薫さんin悪霊の前で印をきった。
 星型の印である。
「スターエクシズム!」
 黄色い星型の光が悪霊に向かっていった。
 スターエクシズムとは、星型に印をきることにより、除霊の力を生み出すことができるのである。
 この光は霊や霊感のある物にしかできない。
 弱い霊ならば、一撃で除霊可能である。

 しかし、スターエクシズムは悪霊にぶつかるとあっさりと弾けて消えてしまった。
「ふははは! そんな軟弱な攻撃では俺を倒すことはできないぞ! 今度はこちらから行くぞ!」
 まるで魔王のようなセリフを吐いた後、悪霊は全速力でこちらから向かってきた。
「オラァ!」
 悪霊は殴りかかってきた。避けると、パンチは壁に直撃し、ばっこりと壁は凹んだ。
 女性の体とは思えないほどの破壊力である。
「お、お兄ちゃんこっち!」
 朱莉は俺の腕を掴み、反対側の階段まで誘導した。
「ひとまずここは、家からでよう!」
「そ、そうだな! それしかないか」
 情けなくも朱莉の意見に賛成だった。
 あの悪霊は強すぎる。
 スターエクシズムが全く聞かないのなんて初めてである。
 いつもならどんな相手でも3発当てれば除霊できた。
 全く聞いた素振りを見せないのは、あの悪霊が初めてである。

 扉の前まで移動し、ドアノブを回したが、全く開かなかった。
「なんで? なんで開かないの?」
 朱莉はパニック気味になっている。
「無駄だ。私の力によって、扉を開かないようにしてきた」
 悪霊がゆっくりと近づいてきた。手には包丁を持っている。
 薫さんの顔は生気を感じさせないくらい白い顔で、声は彼女の物とは思えないくらい、低くどもっていた。
「くそ!    お前、生前に何があったんだ!」
「俺は以前、この屋敷で首吊り自殺をした。この女の身体はマッサージ機のように居心地がいい。お前たちは邪魔だから殺させてもらうぞ」
 包丁を構えてゆっくりと近づいてきた。
    ここは、切り札を切るしかない!
「許してください! どうか許してください!」
「お兄ちゃん......」
     俺は最強の謝り作法、土下座をした。
     朱莉は哀れんだような声をしている。 
     助かるためだぞ。仕方ないんだ。
     社会に出れば、自分が悪くなくても頭を下げなければならないときがくる。
     これで相手も許してくれるはず。
「許すかぁ!」
     悪霊は包丁を振り下ろしてきた。
     だがしかし、想定内。俺は後ろ方向にバク転し、避けた。
「何!」
     包丁は床に深く、突き刺さっていった。
     この瞬間を待っていた…
「スターライジング!」
     呪文を叫ぶと床から赤色の眩い光が発生し、悪霊に命中した。
「うがぁ!」 
     今度は効いたみたいだ。
「いつのまに…」
    朱莉は驚愕の表情を見せた。
    さっき、俺が土下座していたとき、床に星型の印を書いておいたのである。  
    スターライジングは床や壁、紙といった存在する物体に印を指できり、発生させる必要がある。
      除霊効果はないし、スターエクシズムより、発生させた光の進む速度も遅く、使い勝手は悪いがしばらくの間、相手の動きを防ぐことができる。
     さぁ、仕上げだ。
「おい、朱莉!    悪霊はどの位置から憑依した?」
     悪霊が憑依した部分にお札を当てれば一撃必殺!
     除霊完了となる。
     位置の特定は朱莉の得意分野である。
     いつもはお札を使うまでもなく、スターエクシズムで終わるのだが。
「お、お......」
     なぜか朱莉は顔を赤らめて憑依した部分を言おうとしない。
「え?    なんだって?」
    早く言え、時間ねぇんだから。
「おっぱいから憑依した!」
    なるほど。なら、俺がおっぱいを触っても仕方ないか。うん。
「分かった!    任せておけ!」
「ダメ!    私がやる!」
「は、はい!」
    物凄い形相で言ってきたので、譲ることにした。
「後ろ向いてて!    絶対振り向くなよ!」
    仕方なく、朱莉の指示に従った。

「邪気退散! はー!」
     朱莉の声が聞こえてきた。お札を貼るだけだから掛け声なんていらないのだが。
「よし、終わった。お兄ちゃん、もういいよ」
「あれ、私は何を……?」
    薫さんは正気に戻った。
    俺は薫さんの近くに赴いた。
「もう大丈夫です。悪霊は退治しました」
「そうですか。ありがとうございます。気のせいか、家の雰囲気が明るくなった気がします。でも私さっきまで怖い夢を見てました」
     薫さんは泣きながら、俺に抱きついてきた。
     女性ものの香水の香りがした。
「安心してください。もう大丈夫ですよ」
     俺は微笑みながら薫さんをゆっくりと引き剥がした。
     これ以上、抱きつかれたままでいた、朱莉にしばき倒されそうな気がする。
     さっきから悪霊に勝るとも劣らない禍々しい殺意が朱莉から感じられれ。
「あの、また連絡してもいいでしょうか?」
「幽霊の件ならいつでも。それよりも、後でお支払いお願いしますね。それじゃ帰るぞ、朱莉」
    冷静な口調でそう言い放った。
    相談者とは深く関わらない方がいい。
    俺はそう思っている。
「待ってよ、お兄ちゃん」

    俺と朱莉は家から出た。
    満月が出ており、辺りの木々が月の光で照らされ、和風で幻想的な風景を作り上げていた。
「暗いのにどうやって帰るの?」
     朱莉が訊いてきた。
     俺はスマホを取り出し、ある場所を検索した。
「割と近くに民宿があるからそこに行こうか。幽霊いたりしてな!」
「やめてよ。全く……今日は疲れたなぁ」
「今日は助かったよ。朱莉。これからもよろしくな」
    俺は朱莉に対して手を差し伸べた。
「まあ、お兄ちゃんは私がいないとダメだしね!」
    朱莉は俺の手を握った。

    霊障に苦しむ人がいる限り、俺たちの仕事に終わりはない。








コメント

  • ノベルバユーザー603722

    お兄ちゃんと妹の物語で二人の関係性にも惹かれてしまいます。
    早く続きが読みたい。

    0
コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品