ノスタルジアの箱

六月菜摘

蛍、ひらり。

あなたが初めて、弱さを見せた。
蛍になって、私の手の届きそうなところで 
こちらを見ている。 光の中で浮かんでいる。
あなたの視線を ずっと感じていた。

でも、ほんとうに あなたは弱いの?
掴まえてほしくて、そばにきたのでしょ。
ううん、ほんとうは 私を捕らえにきたのでしょ。
つかまったふりをしてまで。

数多ある光の中で、あなたの琥珀の灯りは 私にはわかる。
私は 気に入ったものは手にいれないと 気が済まないの。
明日の私は、わからないけれど。

やさしいふりで、手をさしのべてしまう。
あとのことは 何も考えずに。

ね、 夜汽車に 一緒に乗りましょう。
山から降りてくる時、てのひらに乗せてあげる。
下界の灯りは 街の灯り。 仲間はいなくても 淋しくない?

片思いだけが恋なのに、叶ってしまった私の恋。
きっと、すぐに終わってしまう。



ふっと側にやってきて、そっとやさしく撫でてくれる
あなたにとって、私はどんな存在?
いつでも消えるからなんて 言わないで。

すきだと告げるのは、自分のため。
心配してるよと 首をかしげるのは、相手のため。


   君を 誰にも 渡したくない。
   君は 永遠に 僕のもの。


そう言ってほしくて、また閉じ込めてしまう。

ね、 私の指輪になってくれる? 
あなたは やさしい尋ね人。

そばにいてくれるなら。永遠になるなら。  
或いは この一瞬だけで 構わないから。




* 「夜汽車の蛍」によせてくれた、K君の「羽を閉じる」に呼応して。  

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