こんなはずじゃなかったのに!!
2 出会い
「おはようございます」
バイトの出勤時間になり、自宅から徒歩3分のコンビニにやってきた。
「おー!柚葉ちゃんおはよう。オーディションどうだった?」
ロッカー室に入ると店長がいつもと変わらない、ご機嫌な声で訪ねてくる。
店長はもちろん、社員さんや他のバイトの子もみんな私がずっと歌手を夢見てオーディションを受け続けていることを知っている。
10回目のオーディションで、審査員から素晴らしいとの言葉をもらえたことが初めてのことで凄く嬉しくて、自分で浮かれ気味に店長に話してしまったのだ。
今思えば、話さなきゃ良かったと凄く後悔しているけど。
「まだ、届いてないのでわからないです」
また落ちたなんて言いたくなかった。
「あれでも、結果届くの今日って言ってなかったっけ?」
しまった!!
結果が届くのが今日だと、確かオーディションを受けた直後のバイトだった日に店長にスルッと話してしまったことを思い出した。
かなりの手応えがあったってだけで、本当どんだけ浮かれてたんだろ、私。
「本当にまだ届いてなかったので、多分帰宅する時には届いてるかと・・・」
「そうなんだ。良い結果だと良いね!」
店長はその言葉を残すとすぐに店内に出て行った。
嘘、そんなこと本当は全く思ってもないくせに。
オーディションの話を店長した直後から、瞬く間に店内中に私の話が広がり、パートさんとバイト仲間が話している所をロッカー室の扉の前で聞いてしまったのだ。
「姫川さん歌手のオーディション受けてるって話だけど、絶対無理だと思う。店長も言ってたけどさ」
「わかります!なんか歌が上手いってイメージすらないし、可愛くもないですよね」
「友達いなそうだから目立ちたいのよ、きっと(笑)」
ここに私の夢を応援してくれている人は誰もいない。
だから、絶対に歌手になってやる!って気持ちがどんどん強くなっているのかもしれない。
歌手になりたい気持ちは、誰にも負けないんだから!!
* * *
それから3カ月後、私はまた新しいオーディションを受けた。
あと2カ月後には高校を卒業する。
進路を明確にしなくてはならない為、これで本当に最後にしようとそう決意して・・・。
でも、結果は不合格。
「私は歌も上手くないし、可愛くもないからやっぱり歌手には向いてないんだ」
今まで28回のオーディション受けてわかったこと。
歌手になることは夢の夢のままで終わってしまった。
「柚葉、オーディションどうだった?」
部屋の扉をノックして声をかけてきたのはお母さん。
お母さんは、授業参観であたしが歌手になるのが夢だって話したあの日からずっと、応援してくれている。
無言で首を横に振った。
もう、涙すらも出てこなかった。
「でも、今まで諦めないでよく頑張ったね。偉いよ」
「ゴメンねお母さん。あんなに歌手になる夢応援してくれてたのに叶えられなくて」
「いいのよそんなこと。柚葉は、柚葉なんだから」
そのお母さんの言葉で、今までの悔しい思いが涙となって全部溢れてきた。
お母さんは背中をさすりながら私を抱きしめる。
泣きたいのはあたしよりもお母さんのはずなのに。
お母さんは今まで、オーディションで歌う曲から衣装まで、全部協力してくれた。
その気持ちを思うと涙は止まらず、どんどん溢れてくる。
「また柚葉に新しい夢ができたら教えてね。晩ご飯何食べたい?」
オーディションの結果が届いた日だけ聞いてくれるその言葉。
答えはあたしの大好物ってわかっているはずなのに、絶対に聞いてくれる。
「・・・唐揚げ」
「わかった、唐揚げね!いっぱい作ってあげるから待っててね!」
毎回、晩ご飯の唐揚げは大きいお皿いっぱいに山盛りに積まれた状態で食卓にやってくる。
お母さんは毎回、本当にたくさん作ってくれる。
いつもあたしのことを1番に考えてくれるお母さん。
ありがとう。
新しい夢ができたら、絶対教えるからね!
「ありがと、それまでちょっと散歩してくる」
「わかったわ、いってらっしゃい」
自宅を背にして山道を登ること7分。
子供の頃から、街が一望できるこの丘は
心和らぐお気に入りの場所。
今までここでどのくらい涙を流したのだろう。
友達と喧嘩した時、テストが最悪な結果だった時、バイトでミスしてしまった時など、嫌なことがある度にここに来てはたくさん泣いた。
だけど、流した涙と同じくらいのパワーも貰った。
私にとってこの場所は自宅よりも落ち着く、もはや生活する上では必要不可欠な場所なのだ。
その場所で寝転がって夕焼けの空を見上げながら、イヤフォンで最後のオーディションで歌った曲を聴いていた。
私が歌手になりたいきっかけをくれたアーティストさんの1番好きな歌。
聴いてるとまた涙が出てきそうになったから、必死で堪えて力強く歌った。
「きみ〜と〜 見上げた空〜♪ 夕陽が綺麗だね〜♪」
これまでの悔しい気持ちが全部蘇ってきた。
「そ〜ん〜な〜 君の背中〜♪ 夢中で〜追いかけた〜♪」
あんなに必死に堪えていた涙が一気に溢れてきた。
悔しくて、悔しくて、気づいたら溢れてくる涙はどんどん増えて止まらなくなってた。
それでも、必死に歌った。
「と〜な〜りで〜繋いだ手が〜 ♪ あたたかくて・・・」
歌えなくなり、膝から崩れ落ちて声をあげて泣いた。
私はもう歌手にはなれない。
あんなになりたかった歌手に、なれることはもう絶対にないんだ。
そう思えば思うほど悔しくて、このまま消えてしまいたかった。
どれくらい時間がたったのだろう。
夕焼けだった空がいつの間にか暗くなっていて、ケータイで時刻を確認すると、18時47分。
ここに来てもう少しで1時間が経とうとしていた。
そろそろ帰ろう。
山道を下って自宅に戻ろうと立ち上がると、そこに黒いスーツに身を包んだ高身長で茶髪のとても爽やかな見た目の男性が立っていた。
「ねぇ君さ、デビューしてみない?」
その男性はそう言ったが、私は思ってもいなかった言葉と出来事で頭が追いつかない。
「え、あっあのー、えっと、だ、誰ですか?」
「これは失礼。実は僕、こういう者なんだけど」
持っていた名刺を差し出された。
「クローバーミュージックプロダクション 新人担当マネージャー 八島 颯太・・・・えぇ!!」
この事務所知ってる。
かなりの活動実績がある超大手事務所だ。
今をときめくタレントから、トップアイドルやバンドなどさまざまな分野を独自でプロデュースしていて、知らない人はいない超人気有名人ばかりが所属している。
「さっき泣きながら歌ってたでしょ?あの歌声なら絶対売れるって思ってさっきからずっと声かけてたんだけど、音楽でも聞いてたのかな?」
「そ、そうだったんですか!? すみません、気づかなくて。」
「いいのいいの!それでもし興味あるなら、お話だけでもどうかな?」
この事務所はオーディションを一切やらないと有名で、コンテストで入賞できなかった人にスカウトして、これまで数多くの新人を発掘している。
スカウトされて有名にならなかった人は、私の知っている限り、多分いないと思う。
「ほ、本当・・ですか?」
こんな私がまさかこの事務所にスカウトされるなんて!!
あまりの出来事に戸惑いと喜びを隠しきれず、受け取った名刺を見ながら笑顔が溢れてしまう。
「もしかして君、こういうお仕事するのが夢とか!?」
私のその様子を見て八島さんが訪ねてくる。
「はい!!」
八島さんのその言葉に思わず即答してしまった。
「それなら話が早いね! 来週の土曜日に会社見学会やるんだけど、予定はどうかな?」
「もちろん大丈夫です!!」
「やる気満々だね! 土曜日、新川駅の西口に10時に来てくれるかな?僕が迎えに行くから」
「わかりました!よろしくお願いします」
それから八島さんに私の連絡先を教えて別れた。
帰ってからお母さんにスカウトされたと報告すると、自分のことのようにめちゃくちゃ喜んでくれた。
夜ご飯の唐揚げは、スカウトされた嬉しい気持ちが混ざってか、いつもより何十倍も美味しかった。
このチャンスは絶対無駄にしない!!
やっと夢の手前まできたんだ、こんなこともう二度とないかもしれないから死ぬ気で頑張らないと。
次の日から、土曜日になるのが本当に楽しみで、ドキドキとワクワクで胸がいっぱいの1週間だった。
これが、私の人生を変えてくれた、八島さんとの出会い。
バイトの出勤時間になり、自宅から徒歩3分のコンビニにやってきた。
「おー!柚葉ちゃんおはよう。オーディションどうだった?」
ロッカー室に入ると店長がいつもと変わらない、ご機嫌な声で訪ねてくる。
店長はもちろん、社員さんや他のバイトの子もみんな私がずっと歌手を夢見てオーディションを受け続けていることを知っている。
10回目のオーディションで、審査員から素晴らしいとの言葉をもらえたことが初めてのことで凄く嬉しくて、自分で浮かれ気味に店長に話してしまったのだ。
今思えば、話さなきゃ良かったと凄く後悔しているけど。
「まだ、届いてないのでわからないです」
また落ちたなんて言いたくなかった。
「あれでも、結果届くの今日って言ってなかったっけ?」
しまった!!
結果が届くのが今日だと、確かオーディションを受けた直後のバイトだった日に店長にスルッと話してしまったことを思い出した。
かなりの手応えがあったってだけで、本当どんだけ浮かれてたんだろ、私。
「本当にまだ届いてなかったので、多分帰宅する時には届いてるかと・・・」
「そうなんだ。良い結果だと良いね!」
店長はその言葉を残すとすぐに店内に出て行った。
嘘、そんなこと本当は全く思ってもないくせに。
オーディションの話を店長した直後から、瞬く間に店内中に私の話が広がり、パートさんとバイト仲間が話している所をロッカー室の扉の前で聞いてしまったのだ。
「姫川さん歌手のオーディション受けてるって話だけど、絶対無理だと思う。店長も言ってたけどさ」
「わかります!なんか歌が上手いってイメージすらないし、可愛くもないですよね」
「友達いなそうだから目立ちたいのよ、きっと(笑)」
ここに私の夢を応援してくれている人は誰もいない。
だから、絶対に歌手になってやる!って気持ちがどんどん強くなっているのかもしれない。
歌手になりたい気持ちは、誰にも負けないんだから!!
* * *
それから3カ月後、私はまた新しいオーディションを受けた。
あと2カ月後には高校を卒業する。
進路を明確にしなくてはならない為、これで本当に最後にしようとそう決意して・・・。
でも、結果は不合格。
「私は歌も上手くないし、可愛くもないからやっぱり歌手には向いてないんだ」
今まで28回のオーディション受けてわかったこと。
歌手になることは夢の夢のままで終わってしまった。
「柚葉、オーディションどうだった?」
部屋の扉をノックして声をかけてきたのはお母さん。
お母さんは、授業参観であたしが歌手になるのが夢だって話したあの日からずっと、応援してくれている。
無言で首を横に振った。
もう、涙すらも出てこなかった。
「でも、今まで諦めないでよく頑張ったね。偉いよ」
「ゴメンねお母さん。あんなに歌手になる夢応援してくれてたのに叶えられなくて」
「いいのよそんなこと。柚葉は、柚葉なんだから」
そのお母さんの言葉で、今までの悔しい思いが涙となって全部溢れてきた。
お母さんは背中をさすりながら私を抱きしめる。
泣きたいのはあたしよりもお母さんのはずなのに。
お母さんは今まで、オーディションで歌う曲から衣装まで、全部協力してくれた。
その気持ちを思うと涙は止まらず、どんどん溢れてくる。
「また柚葉に新しい夢ができたら教えてね。晩ご飯何食べたい?」
オーディションの結果が届いた日だけ聞いてくれるその言葉。
答えはあたしの大好物ってわかっているはずなのに、絶対に聞いてくれる。
「・・・唐揚げ」
「わかった、唐揚げね!いっぱい作ってあげるから待っててね!」
毎回、晩ご飯の唐揚げは大きいお皿いっぱいに山盛りに積まれた状態で食卓にやってくる。
お母さんは毎回、本当にたくさん作ってくれる。
いつもあたしのことを1番に考えてくれるお母さん。
ありがとう。
新しい夢ができたら、絶対教えるからね!
「ありがと、それまでちょっと散歩してくる」
「わかったわ、いってらっしゃい」
自宅を背にして山道を登ること7分。
子供の頃から、街が一望できるこの丘は
心和らぐお気に入りの場所。
今までここでどのくらい涙を流したのだろう。
友達と喧嘩した時、テストが最悪な結果だった時、バイトでミスしてしまった時など、嫌なことがある度にここに来てはたくさん泣いた。
だけど、流した涙と同じくらいのパワーも貰った。
私にとってこの場所は自宅よりも落ち着く、もはや生活する上では必要不可欠な場所なのだ。
その場所で寝転がって夕焼けの空を見上げながら、イヤフォンで最後のオーディションで歌った曲を聴いていた。
私が歌手になりたいきっかけをくれたアーティストさんの1番好きな歌。
聴いてるとまた涙が出てきそうになったから、必死で堪えて力強く歌った。
「きみ〜と〜 見上げた空〜♪ 夕陽が綺麗だね〜♪」
これまでの悔しい気持ちが全部蘇ってきた。
「そ〜ん〜な〜 君の背中〜♪ 夢中で〜追いかけた〜♪」
あんなに必死に堪えていた涙が一気に溢れてきた。
悔しくて、悔しくて、気づいたら溢れてくる涙はどんどん増えて止まらなくなってた。
それでも、必死に歌った。
「と〜な〜りで〜繋いだ手が〜 ♪ あたたかくて・・・」
歌えなくなり、膝から崩れ落ちて声をあげて泣いた。
私はもう歌手にはなれない。
あんなになりたかった歌手に、なれることはもう絶対にないんだ。
そう思えば思うほど悔しくて、このまま消えてしまいたかった。
どれくらい時間がたったのだろう。
夕焼けだった空がいつの間にか暗くなっていて、ケータイで時刻を確認すると、18時47分。
ここに来てもう少しで1時間が経とうとしていた。
そろそろ帰ろう。
山道を下って自宅に戻ろうと立ち上がると、そこに黒いスーツに身を包んだ高身長で茶髪のとても爽やかな見た目の男性が立っていた。
「ねぇ君さ、デビューしてみない?」
その男性はそう言ったが、私は思ってもいなかった言葉と出来事で頭が追いつかない。
「え、あっあのー、えっと、だ、誰ですか?」
「これは失礼。実は僕、こういう者なんだけど」
持っていた名刺を差し出された。
「クローバーミュージックプロダクション 新人担当マネージャー 八島 颯太・・・・えぇ!!」
この事務所知ってる。
かなりの活動実績がある超大手事務所だ。
今をときめくタレントから、トップアイドルやバンドなどさまざまな分野を独自でプロデュースしていて、知らない人はいない超人気有名人ばかりが所属している。
「さっき泣きながら歌ってたでしょ?あの歌声なら絶対売れるって思ってさっきからずっと声かけてたんだけど、音楽でも聞いてたのかな?」
「そ、そうだったんですか!? すみません、気づかなくて。」
「いいのいいの!それでもし興味あるなら、お話だけでもどうかな?」
この事務所はオーディションを一切やらないと有名で、コンテストで入賞できなかった人にスカウトして、これまで数多くの新人を発掘している。
スカウトされて有名にならなかった人は、私の知っている限り、多分いないと思う。
「ほ、本当・・ですか?」
こんな私がまさかこの事務所にスカウトされるなんて!!
あまりの出来事に戸惑いと喜びを隠しきれず、受け取った名刺を見ながら笑顔が溢れてしまう。
「もしかして君、こういうお仕事するのが夢とか!?」
私のその様子を見て八島さんが訪ねてくる。
「はい!!」
八島さんのその言葉に思わず即答してしまった。
「それなら話が早いね! 来週の土曜日に会社見学会やるんだけど、予定はどうかな?」
「もちろん大丈夫です!!」
「やる気満々だね! 土曜日、新川駅の西口に10時に来てくれるかな?僕が迎えに行くから」
「わかりました!よろしくお願いします」
それから八島さんに私の連絡先を教えて別れた。
帰ってからお母さんにスカウトされたと報告すると、自分のことのようにめちゃくちゃ喜んでくれた。
夜ご飯の唐揚げは、スカウトされた嬉しい気持ちが混ざってか、いつもより何十倍も美味しかった。
このチャンスは絶対無駄にしない!!
やっと夢の手前まできたんだ、こんなこともう二度とないかもしれないから死ぬ気で頑張らないと。
次の日から、土曜日になるのが本当に楽しみで、ドキドキとワクワクで胸がいっぱいの1週間だった。
これが、私の人生を変えてくれた、八島さんとの出会い。
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