苦役甦す莇
Another:Episode30 Heaven
方舟はゆっくりと宇宙という大海を進んでいく。あてもなくタダゆらゆらと進んでいく。まだ見えぬ楽園を探し求めて......
「貴殿がそのような主張を通したいというのなら、妥協案という所で落ち着こうではないか。」
「妥協案?」
「そうだ。手前は生命の再分配を行いたい、貴殿はヨギとサリューを取り戻したい。その二つの対立する意見の妥協案。」
「具体的にどういうことだ。」
「具体的には、手前がこれから行う生命の再分配にて産まれる、次世代の人類......その最初の一対の男と女を、貴殿の言うヨギとサリューそっくりに造れば良かろう?」
「そっくりに造る......?」
「あぁそうだ。そうすれば......」
「冗談じゃない。」
「は?」
「そっくりに造った所で、それはヨギとサリューそっくりの何かでしかない。俺に料理を作ってくれたヨギでも、俺を看病してくれたサリューでも無い。別の存在だ。」
「何が不満なのかね?」
「俺はヨギとサリューを取り戻したいんだ。そっくりの偽者なんて要らない。」
「代替のきく命如きに、貴殿は一体何を執着してるのだ?」
「代替のきく命だと......?」
「あぁ。命は代替がきく。そうでなくては、永い時の中で同じサイクルを廻し続けることなど不可能に近い。
庭の雑草が枯れた所で、他の植物が光合成し続けるのに何ら変わりが無いように、飼育していたハムスターが亡くなったら、また別のハムスターを飼うように、命には代替がきくようになっている。
その一個体の生命力が尽きても、変わりになる存在は世界にごまんといる。人類はよく『私の変わりなどいない』などと勘違いしているが、そんなことは無い。
甲の者が消えたなら、同等の力を持つ乙の者を補充するだけ。個が欠けても、全の流れに支障は無いようになっている。
究極的な話をすれば、人類が全滅した所で、惑星は何も困らない。恒星がその命を終えて超新星爆発を起こしたところで、宇宙は何も困らない。宇宙が終焉を迎えたところで、創造主は何も困らない。
何故なら全て、代替がきくものばかりなのだから。ヒトの命も例外ではない。」
「不道徳だ......ッ!」
「不道徳? 手前はこの世の真理について語ったまでだが? だってそうだろう? ヒトの命がもし本当に『かけがえのないもの』だったなら、ヒトが死んだ時点で宇宙や創造主すらも消してしまう価値を秘めてなければならない。
しかし、ヒトの命が『かけがえのないもの』などとされてるのは、ヒトの間というごく小さなコミュニティの中だけ。そんなものは宇宙の法には適用されない。
おかしな話だが、もし宇宙がヒトに気を遣うのなら、宇宙はヒトが活動可能な空間であるハズだろ? だがそんなことは無い。
ヒトからしてみれば、宇宙は活動不可能な極限環境で、特殊な装置を使わなくてはそこに辿り着けなく、特殊な服を着なければ活動出来ない。
環境が自身らに適応するハズなど無いのだから、自身が環境に見合った格好にならなければならない。当たり前の話だ。」
「黙れ......ヨギとサリューは『かけがえのないもの』だ......俺を一人の人間として扱ってくれた......サイ・イスルギとして扱ってくれた......その事実は誰にも否定できやしない!」
「別に手前は貴殿の言ったその事実を否定している訳では無い。寧ろ逆だ。肯定している。
レーアという者が、サイという者の、文字通り『代替品』たりえたのだから。最も、代替品たりえた理由は、貴殿と本物のサイが、ゼノンという者の『模造品』だったからなのだがね。
まぁその模造品という観点から見ても、貴殿の今までの行いは、全て手前の言った『真理』に即していると言えよう。」
「真理が何だってんだ......俺はヨギとサリューを取り戻すために生まれてきた......世界の意思を握って、俺はヨギとサリューを何がなんでも取り戻してみせる!」
「まさかとは思うが、手前を殺すなどと言うわけでは無いよな? まぁ......最も手前がヨギとサリューによって構成されている以上、殺せる訳など無いのだろうけど。」
「ゴク......マゴク......レベル7の道具を貸してくれ......もうこの際、俺はどうなったっていい。ヨギとサリューさえ取り戻せれば......!」
(何言ってるんだ! お前が死んだら、俺らはどうすればいいんだ!)
「ヨギとサリューと一緒に、幸せに暮らしてくれよ。レベル7は世界をも書き換える力を持つんだろ? だったら、ヨギとサリューが犠牲にならずに済む楽園創りだって出来るはずだ。」
(ホントにいいのか? レベル7の道具は、使用者の存在そのものだって消えかねない物ばかりなんだぞ!)
「構わないさ。ヨギとサリューが無事で戻ってきてくれるなら......俺は自分の存在なんか......消えることなんて気に留めない。」
(分かった。これ使え。)
「ゴク......マゴク......ありがとう。」
ソウセキは、渡された一冊のノートの形をした道具に、自らが望む結末を書き記した。
「ソウセキさん......ホントに書いてしまったんですね......」
「カエデ......ここまで付き合ってくれて......ありがとうな......」
そのノートから眩い光が放たれると、辺りはその光に包まれ、方舟の外の宇宙すらも明るく輝かせた。
ピッ......ピッ......と鳴る電子音でヨギは目を覚ました。目を開くとそこには見知らぬ白い天井が。
かけられている布団も限りなく清浄な白であり、寝ているヨギの周りに沢山の機械が置いてあった。
その沢山ある機械のうちの一つ、モニターらしき物からその電子音はなり続けていた。
「あ、目を覚ましたんだ。良かった。ヨギさん、体調はいかがですか?」
ベッドの横にはサリューが立っていて、ベッドで横になっていたヨギに話しかけてきた。
「ん、あぁ、おはようサリュー。体調はボチボチかな......って、俺なんでこんな所で寝てるんだっけ?」
「ヤダなぁ、ヨギさん酔っ払って家の玄関先ですっ転んだんですよ? まぁ幸いにも、落ちた先が植え込みで大した怪我にはなりませんでしたけど。」
「あ〜れ、そうだったっけ? ハハ......ちょっと飲みすぎちゃったのかな?」
「そうですよ〜。忘年会だからって飲みすぎです。もう......私がこうして病院まで運んであげたんですからね! ちょっとは感謝してくださいよホントに......」
「いやぁゴメンゴメン。」
ヨギは、ふと窓の外を見やった。するとその瞬間、木から1羽の鷲が飛び去った。その鷲は高く高く、どこまでも高く飛翔した。
「あれ......? なんか忘れてるような気が......はて......何だったか......?」
「私の家に忘れ物した心配ですか? 大丈夫ですよ、ちゃんと全部カタギリさんにヨギさんの家まで送ってもらいましたから。」
「いや違う......忘れ物の心配じゃない。物ではなくて......何か......大切な......人?
忘れちゃいけない......何かを......忘れてるような気がする......はて、誰だったか?」
「そんな事あります? 誰かを忘れるなんてこと。う〜ん......カケル君の結婚式? カヤちゃんのお兄様の帰還祝い? シュン君のお祖母様の喜寿祝い?」
「いや......違う。人のイベントじゃなくて......なんというか......人そのものというか......いやぁ、表現出来ないって、なかなか歯痒いものだな。」
「まぁ、その内思い出すでしょ。さてと、退院した後はどうします? どこか美味しいものでも食べに行きますか?」
「なんだよ、俺が作るのは美味いもんじゃねえってか? ん?」
「そんな訳無いでしょ。ヨギさんの作るものは世界一美味しいです。」
「じゃあなんで......」
「ヨギさんに美味しいもの作ってもらうのは、ヨギさんがちゃんと元気になってから。
退院したばっかりのヨギさんに作ってもらう料理よりも、元気になったヨギさんが作った料理の方が絶対に美味しいと思うんです。
だから今日は、ヨギさんの療養も兼ねて、2人で美味しいものでも食べに行きましょ? 私この前、最近流行りの良いお店紹介してもらったんです!」
「フッ......なるほどな。じゃあ今日はお言葉に甘えて、そこに連れてってもらおうかな。」
「はい!」
二人が嬉しそうに会話をしていると、そこに3人の男が入ってきた。
「おーいヨギ〜、元気してるか〜?」
「カタギリさん、カケル! それにシュンまで! なんでここの病室だって分かったんすか?」
「シュンがサリューから連絡貰ったんだよ。ちょうど近くでカケルとシュンと3人でメシ食ってたから、ついでに寄ってみようかってなってな。」
「ちょっと、俺の見舞いがメシのついでって......酷くないすか?」
「ハッハハハハ、どうせタダ酔っ払って転んだだけだろ? 昨日お前の荷物を俺が運んだ後に、怪我は大したことないってサリューから聞いてたし、別にそんな血相変えて病院向かう事もあるめぇなってな。」
「まぁ、そりゃそうですけど......」
「どうせもう今日中に退院だろ? 迎えが要ると思ってな。どうせこっから駅まで遠いんだ。もし今日行きたいとこあれば乗っけてくぜ。」
「おぉ、そりゃ有難い。じゃあお言葉に甘えて、サリューのリクエストのお店にでも連れてって貰うかな。」
「お、そりゃどこだ?」
「イプシロン通りを曲がった所です。」
「お店の名前は?」
「アザミ家です。」
「貴殿がそのような主張を通したいというのなら、妥協案という所で落ち着こうではないか。」
「妥協案?」
「そうだ。手前は生命の再分配を行いたい、貴殿はヨギとサリューを取り戻したい。その二つの対立する意見の妥協案。」
「具体的にどういうことだ。」
「具体的には、手前がこれから行う生命の再分配にて産まれる、次世代の人類......その最初の一対の男と女を、貴殿の言うヨギとサリューそっくりに造れば良かろう?」
「そっくりに造る......?」
「あぁそうだ。そうすれば......」
「冗談じゃない。」
「は?」
「そっくりに造った所で、それはヨギとサリューそっくりの何かでしかない。俺に料理を作ってくれたヨギでも、俺を看病してくれたサリューでも無い。別の存在だ。」
「何が不満なのかね?」
「俺はヨギとサリューを取り戻したいんだ。そっくりの偽者なんて要らない。」
「代替のきく命如きに、貴殿は一体何を執着してるのだ?」
「代替のきく命だと......?」
「あぁ。命は代替がきく。そうでなくては、永い時の中で同じサイクルを廻し続けることなど不可能に近い。
庭の雑草が枯れた所で、他の植物が光合成し続けるのに何ら変わりが無いように、飼育していたハムスターが亡くなったら、また別のハムスターを飼うように、命には代替がきくようになっている。
その一個体の生命力が尽きても、変わりになる存在は世界にごまんといる。人類はよく『私の変わりなどいない』などと勘違いしているが、そんなことは無い。
甲の者が消えたなら、同等の力を持つ乙の者を補充するだけ。個が欠けても、全の流れに支障は無いようになっている。
究極的な話をすれば、人類が全滅した所で、惑星は何も困らない。恒星がその命を終えて超新星爆発を起こしたところで、宇宙は何も困らない。宇宙が終焉を迎えたところで、創造主は何も困らない。
何故なら全て、代替がきくものばかりなのだから。ヒトの命も例外ではない。」
「不道徳だ......ッ!」
「不道徳? 手前はこの世の真理について語ったまでだが? だってそうだろう? ヒトの命がもし本当に『かけがえのないもの』だったなら、ヒトが死んだ時点で宇宙や創造主すらも消してしまう価値を秘めてなければならない。
しかし、ヒトの命が『かけがえのないもの』などとされてるのは、ヒトの間というごく小さなコミュニティの中だけ。そんなものは宇宙の法には適用されない。
おかしな話だが、もし宇宙がヒトに気を遣うのなら、宇宙はヒトが活動可能な空間であるハズだろ? だがそんなことは無い。
ヒトからしてみれば、宇宙は活動不可能な極限環境で、特殊な装置を使わなくてはそこに辿り着けなく、特殊な服を着なければ活動出来ない。
環境が自身らに適応するハズなど無いのだから、自身が環境に見合った格好にならなければならない。当たり前の話だ。」
「黙れ......ヨギとサリューは『かけがえのないもの』だ......俺を一人の人間として扱ってくれた......サイ・イスルギとして扱ってくれた......その事実は誰にも否定できやしない!」
「別に手前は貴殿の言ったその事実を否定している訳では無い。寧ろ逆だ。肯定している。
レーアという者が、サイという者の、文字通り『代替品』たりえたのだから。最も、代替品たりえた理由は、貴殿と本物のサイが、ゼノンという者の『模造品』だったからなのだがね。
まぁその模造品という観点から見ても、貴殿の今までの行いは、全て手前の言った『真理』に即していると言えよう。」
「真理が何だってんだ......俺はヨギとサリューを取り戻すために生まれてきた......世界の意思を握って、俺はヨギとサリューを何がなんでも取り戻してみせる!」
「まさかとは思うが、手前を殺すなどと言うわけでは無いよな? まぁ......最も手前がヨギとサリューによって構成されている以上、殺せる訳など無いのだろうけど。」
「ゴク......マゴク......レベル7の道具を貸してくれ......もうこの際、俺はどうなったっていい。ヨギとサリューさえ取り戻せれば......!」
(何言ってるんだ! お前が死んだら、俺らはどうすればいいんだ!)
「ヨギとサリューと一緒に、幸せに暮らしてくれよ。レベル7は世界をも書き換える力を持つんだろ? だったら、ヨギとサリューが犠牲にならずに済む楽園創りだって出来るはずだ。」
(ホントにいいのか? レベル7の道具は、使用者の存在そのものだって消えかねない物ばかりなんだぞ!)
「構わないさ。ヨギとサリューが無事で戻ってきてくれるなら......俺は自分の存在なんか......消えることなんて気に留めない。」
(分かった。これ使え。)
「ゴク......マゴク......ありがとう。」
ソウセキは、渡された一冊のノートの形をした道具に、自らが望む結末を書き記した。
「ソウセキさん......ホントに書いてしまったんですね......」
「カエデ......ここまで付き合ってくれて......ありがとうな......」
そのノートから眩い光が放たれると、辺りはその光に包まれ、方舟の外の宇宙すらも明るく輝かせた。
ピッ......ピッ......と鳴る電子音でヨギは目を覚ました。目を開くとそこには見知らぬ白い天井が。
かけられている布団も限りなく清浄な白であり、寝ているヨギの周りに沢山の機械が置いてあった。
その沢山ある機械のうちの一つ、モニターらしき物からその電子音はなり続けていた。
「あ、目を覚ましたんだ。良かった。ヨギさん、体調はいかがですか?」
ベッドの横にはサリューが立っていて、ベッドで横になっていたヨギに話しかけてきた。
「ん、あぁ、おはようサリュー。体調はボチボチかな......って、俺なんでこんな所で寝てるんだっけ?」
「ヤダなぁ、ヨギさん酔っ払って家の玄関先ですっ転んだんですよ? まぁ幸いにも、落ちた先が植え込みで大した怪我にはなりませんでしたけど。」
「あ〜れ、そうだったっけ? ハハ......ちょっと飲みすぎちゃったのかな?」
「そうですよ〜。忘年会だからって飲みすぎです。もう......私がこうして病院まで運んであげたんですからね! ちょっとは感謝してくださいよホントに......」
「いやぁゴメンゴメン。」
ヨギは、ふと窓の外を見やった。するとその瞬間、木から1羽の鷲が飛び去った。その鷲は高く高く、どこまでも高く飛翔した。
「あれ......? なんか忘れてるような気が......はて......何だったか......?」
「私の家に忘れ物した心配ですか? 大丈夫ですよ、ちゃんと全部カタギリさんにヨギさんの家まで送ってもらいましたから。」
「いや違う......忘れ物の心配じゃない。物ではなくて......何か......大切な......人?
忘れちゃいけない......何かを......忘れてるような気がする......はて、誰だったか?」
「そんな事あります? 誰かを忘れるなんてこと。う〜ん......カケル君の結婚式? カヤちゃんのお兄様の帰還祝い? シュン君のお祖母様の喜寿祝い?」
「いや......違う。人のイベントじゃなくて......なんというか......人そのものというか......いやぁ、表現出来ないって、なかなか歯痒いものだな。」
「まぁ、その内思い出すでしょ。さてと、退院した後はどうします? どこか美味しいものでも食べに行きますか?」
「なんだよ、俺が作るのは美味いもんじゃねえってか? ん?」
「そんな訳無いでしょ。ヨギさんの作るものは世界一美味しいです。」
「じゃあなんで......」
「ヨギさんに美味しいもの作ってもらうのは、ヨギさんがちゃんと元気になってから。
退院したばっかりのヨギさんに作ってもらう料理よりも、元気になったヨギさんが作った料理の方が絶対に美味しいと思うんです。
だから今日は、ヨギさんの療養も兼ねて、2人で美味しいものでも食べに行きましょ? 私この前、最近流行りの良いお店紹介してもらったんです!」
「フッ......なるほどな。じゃあ今日はお言葉に甘えて、そこに連れてってもらおうかな。」
「はい!」
二人が嬉しそうに会話をしていると、そこに3人の男が入ってきた。
「おーいヨギ〜、元気してるか〜?」
「カタギリさん、カケル! それにシュンまで! なんでここの病室だって分かったんすか?」
「シュンがサリューから連絡貰ったんだよ。ちょうど近くでカケルとシュンと3人でメシ食ってたから、ついでに寄ってみようかってなってな。」
「ちょっと、俺の見舞いがメシのついでって......酷くないすか?」
「ハッハハハハ、どうせタダ酔っ払って転んだだけだろ? 昨日お前の荷物を俺が運んだ後に、怪我は大したことないってサリューから聞いてたし、別にそんな血相変えて病院向かう事もあるめぇなってな。」
「まぁ、そりゃそうですけど......」
「どうせもう今日中に退院だろ? 迎えが要ると思ってな。どうせこっから駅まで遠いんだ。もし今日行きたいとこあれば乗っけてくぜ。」
「おぉ、そりゃ有難い。じゃあお言葉に甘えて、サリューのリクエストのお店にでも連れてって貰うかな。」
「お、そりゃどこだ?」
「イプシロン通りを曲がった所です。」
「お店の名前は?」
「アザミ家です。」
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